□最後に訪問したスーゲンハイム工場。
ステッドラーは
ドイツに3カ所の工場を持っており、
これで全て制覇したことになる。
これまでの工場とはちょっと違い
工場の横には
おそらく原料を貯蔵するためだと思われるが
大きなプラントのようなタンクがあり、
見た目として一番工場っぽい佇まいがあった。
ただ、工場のすぐまわりには、
民家がいくつも建ち並んでいる。
こんなに家の近くに建っているのだから
相当に環境に配慮されている工場なのだろう。
このスーゲンハイム工場では、
プラスチックの成形、金型の製作、消しゴム、
そしてWOPEX という新しいスタイルの鉛筆が作られている。
まず向かったのが
プラスチックの成型工場。
大小様々な成形機械が並んでいて、
これまで見てきた鉛筆や芯の工場とは違う雰囲気があった。
うれしいことに
ここでは撮影が許可された。
ステッドラーのボールペンやマーカー、
そしてシャープペンの芯ケースなど
プラスチックで出来てるものは全てここで作られている。
そのため
ここには52台ものプラスチック射出成形機がある。
ステッドラー商品の中で
鉛筆と一部のメタルボディの製図ペンを除けば
残りはほぼ全てプラスチックボディなので、
52台もの機械が必要なのだろう。
これだけたくさんのプラスチック射出成形機を
自社で持っている筆記具メーカーは、
決して多くないとのことだった。
1台の射出成形機は高さは2メートルぐらいとそこそこあるが、
横の長さは5m ほどとそれほど大きくない。
これまで見てきた製造ラインと比べれば、
短い印象だ。
プラスチックを成型するにはまず、
チップ状になったプラスチックの原料を
ポンプで機械に入れて
液体状に溶かしていく。
それが
金型の中に流し込まれ成形される。
驚いたのは、
ひとつのパーツが成型される時間がとても短いこと。
液体になった原料が流し込まれて、
ものの5秒ぐらいで
プラスチックパーツが出来上がってしまう。
成形するパーツの大きさにもよるが、
1回で作られるプラスチックパーツは10〜20個。
ちょうどプラモデルの組み立て前のパーツのような外枠があり、
その中にパーツがいくつも作られていく。
プシューと金型でプレスされ、
金型からパーツが取り出されるときには、
パーツと外枠の部分はキレイに切り取られている。
見かけたことのある
キャップやペンの軸が次々に作り出されていく。
これは成型品の中でも一番小さい
シャープペンのチャックパーツ。
ペン先の中で
芯を掴んでカチカチと送り出すものだ。
作られていたのは0.7mm 芯用のもの。
内側には芯が通る溝も
しっかりと作られている。
なお、
余った外側の枠は
粉砕され再び原料として使われていく。
鉛筆の芯同様に
全く無駄がない。
□次に向かったのは、
金型のメインテナンス工程。
それまでの何十人もいる工程とは打って変わって、
ここには3〜4人くらいしかいなかった。
いかにもこの道何十年という風格の職人のような人が、
使いこまれた金形を優しくいたわるようにメインテナンスしていた。
私自身、
金型というものを見るのは
今回が初めて。
一辺が30cm くらいの鉄の塊。
その内側には液体のプラスチックが流し込まれる
溝やパーツをかたどった凹みがある。
大きさなどにもよるが、
この金型一つのコストがだいたい5000万円くらいだという。
聞くところによると、
これは一般的な金型の相場よりも
かなり高めだそうだ。
金型と言えば
専門の会社に外注して作るのが一般的。
そんな中、
ステッドラーではこうした金型から自社で製造している。
ステッドラーによると
世界の筆記具メーカーの中でも
自社で金型から作っているところはほとんどないという。
私たち見学した時は
金型の設計が行われていた。
ガラス張りの専門の部屋には
大きな設計機械があり、
全てコンピューターで行われていた。
金型のメインテナンス、
そして金型製造工程で印象的だったのは
年配の職人にまじって若い人達も結構いたこと。
ステッドラーには金型製作のマイスターがいる。
そのマイスターが
その技術を後継者に教え育てているのだという。
□ところで、
なぜわざわざ自社で金型から作っているのか。
しかも一つ5000万円もするものを。
これは最高の品質管理をするためだという。
プラスチック成形には、
見てきたように射出成形機、
そして金型が必要となる。
この組み合わせの微妙な調整ひとつで
出来上がるパーツの精度は変わってきてしまう。
特に金型そのものの
クオリティーが大きく影響する。
金型に液体状のプラスチックを流しこむ口は
大体2ヶ所くらいある。
そこから流しこまれたものは均質な状態を保って、
手前側から金型の奥にまで
すき間なく一気に行かなければならない。
この経路がうまくいっていないと、
不良が出てきてしまう。
ステッドラーでは自社で金型を作っているので、
こうした点を
とことんまでこだわって作り込むことができる。
また、
万が一成形品に不良が認められた時には、
どこが問題なのかトレース、
つまり追いかけ調査がしやすい。
こうしたスピーディな対応も
自社製造のメリットと言える。
□次に消しゴムの製造ライン。
地下で原材料をミックスさせ、
パイプで二階へと運び、
この工場で消しゴムへと姿を変えられる。
原材料を見たが、
まさに消しゴム色をした真っ白なドロドロとした液体だった。
押出機というものに送られ
加熱され固形になる。
出来た消しゴムは
消しゴムが1本に繋がった状態。
まだ熱を持っているので、
冷やすために、
ベルトコンベアで運ばれながら
上から冷たい水がかけられていく。
次に、
消しゴムサイズにカットされる。
まな板の上で野菜を包丁で切るように
トントンとリズミカルにカットしていく。
実際にそういう音がしていた。
ステッドラーのトレードマーク、
マルスヘッドの空押しされ、
最後にスリープ、セロハン包装され完成。
□新しいスタイルの鉛筆WOPEX の製造ラインは
残念ながら見せてもらうことは出来なかった。
独自な製造法のため
ステッドラー社内でも、
まだほんの一部の人間しか携わっていないという。
消しゴム工場の向かいの建物で行われていて
窓越しに見ることだけが許された。
と言っても
あまりに遠すぎて何がなんだかさっぱりわからなかった。
WOPEX の製造方法は
実は消しゴムに似ているという。
消しゴムは
樹脂素材一種類を押し出して
消しゴムの形に成形していく。
WOPEX も押出し成形という点では同じだ。
しかし、
WOPEXの場合、
同時に3種類の違う素材、
具体的には鉛筆の芯、
木軸そして表面塗装を一気に押し出して
しかも、
それぞれが一定の厚みになるように仕上げている。
私の素人考えでは、
金太郎飴のように違う素材をはじめに大きく作って、
それを細い管に入れて押し出しているのだろうかと思ったが、
確かに一定の厚みを保つのはかなり難しそうだ。
いつかその謎この目で見てみたい。
* 次の最終ページは、「取材後記」です。
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