文具で楽しいひととき
国際 文具・紙製品展レポート
■ うっとりするメタルプロダクト TAKEDA DESIGN PROJECT
これまでの取材に要した時間はおよそ3時間半。一方で取材した通路の本数はわずか1本だけ。入り口のメインストリートは大手メーカーがブースを構えているので毎年のことだが、かなりの時間がかかってしまう。
ここから先は通路を一本一本クネクネと回っていった。2~3本の通路をやり過ごしたところでどこかで見たことのあるプロダクトが目に入ってきた。鏡のように磨き上げられたペントレイなどが並んでいた。昨年の9月に上海で開催されたペーパーワールド チャイナで見たものだ。パネルには デザイナーの秋田道夫氏によるものだとあったので確信に至った。
思いがけず再会した気分になった。秋田氏の新作としてファイルを立てかけておくスタンドがあった。
私は机の上では書類は「オープンファイル」に徹している。ボックスに入れてしまうと、ファイルや書類が埋もれてしまうことがあるからだ。ファイルや書類はできるだけその姿を隠さずに収納した方が、探す時に圧倒的に楽に行える。これはまさにその「オープンファイル」ができるスタンドだ。
秋田氏デザイン以外にもいくつものプロダクトが展示されていた。その中で、思わず手にとらずにおられないというアルミの塊があった。
これは、メジャーだという。山口英文氏デザインで「ミリセカンド」というブランド。
「ミリセカンド」とは、1,000分の1秒台という意味。つまり、「一瞬」ということだ。一瞬で心を打つプロダクトというコンセプトだという。私は、まさにその「一瞬」で心を打たれてしまった。。
TAKEDA DESIGN PROJECTは株式会社タケダという新潟の金属加工メーカーが様々なデザイナーと共にコラボしているものだ。
*ミリセカンド メジャー
■ 個性が際だつ一人文具メーカー mono MAKERs
ISOTには大手文具メーカーの出展が少なくなって久しい。なにも日本の文具市場は大手だけで構成されている訳ではなく、色々な技術やアイデアを持ったそれ以外のメーカーの存在も大きい。このmono MAKERsブースでは一人文具メーカー4社(人)が大手とは違うユニークさで競いあっていた。
□その中でおそらく一番「一人文具メーカー」歴が長いと思われるスライド手帳。
同ブランドで一押しなのが昨年のISOTで初お披露目されていた「HIRATAINDER(ヒラタインダー)」。まるで机の上に吸い付くようにフラットに開く。
ゴレンジャーではないが、なんとか戦隊みたいなネーミングだなと以前から思っていた。今回は、カラーバージョンがラインナップに加わりこれはまさに「HIRATAINDERS(ヒラタインダーズ)」とでも呼びたくなる展開を見せていた。グリーン、ピンク、ブルーのカラーバージョンは、正式には「HIRATAINDER Neo」という。
「HIRATAINDER Neo」では、仕様も少し変更され背にあったステッチはなくなり一枚もので仕立てられている。
また同社ではA4サイズの原稿用紙も発表されていた。
4種類の枠柄があり、いずれも、その外枠には隠しマークがある。縦、横5文字ごとに柄に溶けこむように印が付いている。
文字数のカウントがしやすくなる仕掛けだ。HIRATAINDEと一緒に使うとまたステキだ!
*スライド手帳 HIRATAINDER A5 各10,000円+Tax
カラフルな HIRATAINDER Neo 各8,000円+Tax
今回、私自身はじめてお目にかかった一人文具メーカーのIDICさん。「Dear Books」というブックカバーを発表していた。
凹凸感たっぷりの小川和紙製。文庫本サイズになっている。
セット方法は、まず本の裏表紙からカバーのポケットに差し込み、次に反対側を右側に差し込んでいく。
ただ、このままだとカバーが本よりも長すぎてしまう。そこで、そのブックカバーの長すぎる右側を左側にスライドさせていく。
すると、不思議なことにスルスルとカバーがどんどん短くなって本とジャストサイズになっていく。
構造としてはカバーの右側だけはカバーとポケットが別パーツになっている。
そのため、スルスルとスライドする仕組みになっているのだ。よくできているのは、ポケットを引っ張っても外れない。分解してみるとカバーの端に折り返しがあり、それがうまい具合にストッパーの役割を果たしていた。ブックカバーというものはどうしても本と一体感が乏しいものが多い。本に対してブカブカとしてしまうからだ。
これは、その一体感がずば抜けていい。小川和紙以外にコットンタイプ、麻タイプもあった。
いずれの素材も内側には紙を貼り合わせている。
その理由は、紙があったほうが折り目がキッチリと付くからだそうだ。だから、一体感があったのだろう。構造は特許申請中だそうだ。
*Dear Books 価格未定 秋頃に発売予定
□次はネットでも大きな話題を呼んだ「伊葉ノート」。
ふつうのノートと違ってノートが斜めに開くユニークなスタイル。形こそユニークだがこれにはなるほどと思わせる理由がある。人がペンを持って書く時、体を中心に考えると、手は円を描くように動いていく。ちょうどコンパスをイメージして頂くとわかりやすいと思う。
扇型に開くノートは、この手の動きを加味して作られていたのだ。左ページをまっすぐにすると、右ページが少し手前にくる。そう言えば、文章を横書きしているとだんだん右肩下がりになることがある。このノートなら思う存分右肩下がりが出来るわけだ。
伊葉ノートの開発者である宮坂さんは書く時の手の動きを実によく観察されている。その観察力をさらに進めて作り出したアイテムが参考出品されていた。宮坂さんが次に注目したのはペンを持った手の動きのスムースさ。「サーフ オン ザ ペーパー」というハワイが頭に浮かんで来そうなステキなネーミングだ。
ところが実物を拝見すると、少々ギャップがある。これまで見たことのない不思議な形をしている。使い方はペンを持つ右手の下側に付ける。
これを付けてペンを走らせると、たしかに滑らかに紙の上を手がすべっていく。
これで書いてみた後にこんどは外して再び書いてみる。手が思った以上に紙の上でもたつく。よっこらしょといちいち右手を紙から離して動かさないといけない。なめらか油性ボールペンをタップリと味わうにはその土台となる手も同じようにスムーズにした方がいいのかもしれない、と気づかせてくれるアイテムだった。特にじめじめした梅雨時にはいいかもしれない。
*伊葉ノート
*サーフ オン ザ ペーパー 参考出品
monoMAKERsの最後はベアハウスさん。これまで「どや文具ペンケース」、「立つノートカバー」などオリジナリティあふれるプロダクトを次々に出している。今回は、「自由メイシイレ」というプロダクトだ。
まず、開け方からして違う。右上のボタンをパチンと外すと内側には2カ所の名刺収納スペースがある。
よくあるポケット式ではなく、ひと角だけを差し込むというちょっと変わったスタイル。アベさんによると「これまでの名刺入れは、機能としては名刺を入れるというためのものでした。出し入れについては、実はあまり考えられていませんでした」たしかにいざ名刺交換となって名刺を取り出すのに手間取ったという経験がある。
「自由メイシイレ」は、収納した名刺の大半が露出しているので、さっと取り出せる。きっと相手の方よりコンマ数秒の差で名刺交換体勢を整えることができることだろう。
この取り出しやすさは実は探しやすさも兼ね備えている。名刺を固定している角を指で押さえてグイと折り曲げればパラパラとめくることができる。
素材にもこだわりがあった。外側には「栃木レザー」を使い内側には少々ザラザラとした質感の「兵庫県姫路製のレザー」を使用。
内側は名刺が不意に落ちたりしないようにするためあえてザラザラしたものを選んだという。実は当初、試作段階では外側の「栃木レザー」のウラ革をそのまま内側素材に使ってテストをしてみたそうだ。ウラ革は、十分にザラザラしているので名刺の固定する意味ではよかった。
しかし、頂いた名刺をしまおうとしたときに名刺の角が引っかかって角をつぶしてしまうことがあった。もう少しだけ滑らかなものをと「兵庫県姫路製のレザー」にしたという。
*ThinkAism 自由メイシイレ 5,900円+Tax。15枚ずつ、計30枚の名刺を収納可能。
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