文具で楽しいひととき
展示会レポート
香港出張から戻って一週間ほどしてあわただしく次に向かったのはドイツフランクフルト。ペーパーワールド2013年の取材だ。ドイツフランクフルトで開催されているこの展示会は「ペーパーワールド」の本家本元。前回取材に行ったのが2008年だったので、かれこれ5年ぶりとなる。
「ペーパーワールド」は私にとって海外で文具の展示会取材を初めて行ったということもあり思い出深いフェア。
展示会場のフランクフルト・メッセに足を踏み入れてみると、と言っても駅のホームにあるエスカレータを上がると、いきなりそこが展示会のメインエントランスになっているのでいささかビックリする。
雰囲気は5年前と全く変わっていなかった。変わっていないと言えば、プレスセンターのクローク担当の女性も5年前と同じ人だった。会場を歩いてみれば、5年前に見たブースがその時と同じホールの同じ位置にブースを構えていたりする。まるで5年前にタイムスリップしたかのような感覚に襲われる。
通路からひょっこりとあたふたと取材している5年前の自分自身がでてきやしないかというあり得ないことをフト想像してしまった。
■ すべてを回りきれないほどの大規模さ
このペーパーワールドはとにかく規模が大きい。3日間、ホールからホールへ、ブースからブースへ足を棒のように回っても到底全てを回りきることはできない。結局のところ私はペーパーワールドのほんの一部分だけしか見ていないのだが、そんな中でも必ず初めて見る文具に出会うことができる。
私にとって大いに刺激を受ける展示会である。
今回のペーパーワールドは展示ホールを11フロアも使い、出展社数1,780社がブースを構えている。いつもはフロアマップを広げ、会場の一番端っこにあたるホール1やホールAにまず向かいそこから一本一本の通路をくまなく見ていくが、それをやっていては全く歯が立たない。
ただ「ペーパーワールド」は大規模な分、展示ホールが製品カテゴリーごとにキッチリと分れている。この展示会の場合は自分が見たい製品カテゴリーにまず絞り込んで見ていく方が効率がよい。
私がまず向かったのはホール4.0の筆記具を集めたホール。
ホール4.0の入口をくぐり抜けると、目の前にはマルスブルーのステッドラーが一際大きなブースを構えていた。事前に聞いていた情報では、ステッドラーはこのペーパーワールドでこれまでにない全く新しいペンシリーズを発表するということだった。
■ 高級ペンシリーズを発表していたステッドラー
ブースに入ると中央には商談席がずらりと並べられていた。商品よりも人の方が多い。
よくよく見てみると、各テーブルには各国の国旗のマークがある。それぞれの国の担当が専用デスクを持ち、バイヤーを迎えるというスタイルのようだ。日本の国旗のデスクには、ステッドラー日本の方々がいらした。
みなさん、紺のスーツにマルスブルーのネクタイをキリリと締めていた。
このネクタイはステッドラーのトレードマーク「マルスヘッド」が縫い込まれた特注品となっていた。早速、そのペンシリーズを見せてもらうことにした。
ブースの一角にはまるでショールームのようなコーナーが作られていた。
今回、発表していたのは高級ラインのペンは「ステッドラー プレミアム シリーズ」という。そのラインナップは、6シリーズでペンの種類で言えば、30~40種類にも及んでいた。ステッドラー社の今回の高級シリーズにかける強い想いというものがそのラインナップ数からもひしひしと感じられた。
まずは、ハイエンドモデルの「J.S. Staedtler」から見せていただいた。「Princeps(プリンケプス)」というこのペンは、今回のシリーズのフラッグシップ的位置づけ。
プラジウムコート仕上げのメタルボディには、大きなスリット状の透き間があり、そこからはウッドが見えている。ウッドはメタルボディよりも内側にあるが、見えている面積としてはメタルよりもずっと広い。
木は贅沢にウォールナットを使っている。同様のデザインはクリップにも施されている。メタルボディをベースにしながらも木をふんだんに使っているところは、鉛筆メーカーとしてのこだわりが感じられていい。
ペンの種類は万年筆、油性ボールペン、ローラーボール、そしてシャープペンの4タイプ。万年筆はこの「 プリンケプス 」と、このあと紹介する「 J.S. Staedtler 」の限定ものだけは18金が使われており、それ以外はスチール製ペン先となっている。
実は、ステッドラー社がこうした高級万年筆を自らのブランドで出すというのは同社の永い歴史の中でも今回が初めてとなる。ご存知の方もいるかもしれないが、今からおよそ10年ほど前に「エリーゼ」というペンブランドがステッドラーグループにはあった。この「エリーゼ」の中には確かに高級万年筆があった。しかしながら、「エリーゼ」はステッドラー社が当時買収したブランドだったので、自らのブランドではなかった。
今回のペンの中で個人的に気に入ったのはシャープペンシル。シャープペンの芯は0.7mm と0.9mm というやや太い仕様になっていた。個人的に0.7mm と0.9mm を愛用しているので、これはうれしい。シャーペンは全てノック式ではなくツイスト式。
この「J.S. Staedtler 」には早くも限定が2種類も打ち出されていた。ひとつは、「アルベルトゥス ドゥレルス ノリクス」。ボディには「アルブレヒト・デューラー」が描かれている。
そして、もうひとつの「Bavaria(ババリア)」というモデルはクリップには、48石ものダイヤモンドが埋め込まれている。
価格は、なんと100万円以上もするという。こうしたハイエンドラインの他、私たちにも比較的手に入りやすいラインもちゃんと用意してくれている。最もリーズナブルなものは「Resina(レシーナ)」という樹脂軸ボディのもの。
マルスブルー、ブラックそしてホワイトカラーがある。ペンのラインナップとしては「 J.S. Staedtler」と同じ万年筆、油性ボールペン、ローラーボール、そして0.7mm と0.9mm のシャープペンとなっている。
油性ボールペンでだいたい5,000円くらいになる見込みだという。そして、「 Corium (コリウム)」というレザーをボディに巻き付けたシリーズもある。
無地のレザーボディタイプの他、レザーに世界の都市がプリントされているモデルも用意されていた。
こうしたレザーに印刷できるということを活かし、ステッドラーでは特注の印刷を受けるサービスも展開する予定だ。たとえば、企業が注文する大量のものから結婚祝いで使う1本または2本という少量のものまで対応していくそうだ。
ボディ素材ということで言えば、ウッド製のタイプもあった。「Lignum(リグヌム)」というモデル。ウッドでは珍しいホワイトまでラインナップされていた。マットクロームプレートをした真鍮とウッドはことの他よくあっていた。こちらもステッドラーらしさがあっていい。
このようなペンシリーズの中で、あまりにさりげなく展示されていたものがあった。その名も「 The Pencil 」。
マットクロームプレートのキャップにマットブラックの鉛筆というシックなコンビネーション。私はこの鉛筆にグッときてしまった。今回のシリーズ中で一番欲しいと思ったペンだ。もしこの場で販売されてたとしたら、すでにユーロ高となりつつあるこの時でも快く財布の紐を緩めたことだろう。
ブラックの鉛筆はステッドラーが今力を入れているWOPEX 製法によるものだ。WOPEX製法とは、鉛筆の軸そして内側の芯を一体成型で作るというユニークなもの。鉛筆の後にある黒いパーツは消しゴムではなく、 iPad などに使えるタッチペン。
タッチペンというと、これまでボールペンの後にあるものばかりで鉛筆にはなかった。これには、実は理由がある。タッチペンは人間の静電気を通じてタブレットを反応させている。ボールペンはボディがメタルなので、通電させることができるが、鉛筆はいかんせん軸が木なので電気を通しづらい。
しかし、このWOPEX は軸に樹脂も混ぜこむ際、通電できる物質を加えているので、
静電気を通すことができ、タッチペンとしてもちゃんと機能するようになっている。
消しゴムはキャップの先端を引っ張ると出てくる。また、キャップの中には鉛筆削りも備えている。書く、消す、削る、タッチするという4機能を備えた鉛筆。予備用の鉛筆2本を付けたセットとして販売される。販売が待ち遠しい。
こうした「プレミアム シリーズ」以外の一般筆記具でも注目すべき商品は目白押しだった。ステッドラーアメリカで企画されたという「ノリス エコ」。こちらもWOPEX製法によるもの。
蛍光カラーが鮮やかな「WOPEXネオン」。いずれも芯は黒
グラデーションが美しい「エランス キャンディ」というボールペン。
トリプラス 426ボールペンと776シャープペン。(グリーン、ブルー、ピンク)中央に映っているのが「エランス」のパールカラータイプ。
どこでも書け、水にも強い「ルモカラー」のガーデンというタイプ。これは植木のプレートに書くためのもの。
「ノリス WOPEX」の色鉛筆タイプ。
この色鉛筆は通常の消しゴムでも消すことができた
「ノリス 太軸鉛筆」でも、タッチペンを備えたタイプがあった。
この鉛筆の発売に合わせてタッチペンで楽しめるゲームアプリもスタートされる。タッチペンが付いているがWOPEX製法ではない。つまり、木軸の普通の鉛筆だ。詳しく教えていただけなかったが、ボディに塗られた塗料がどうやら通電できるものらしい。
ステッドラーのトレードマーク「マルス」がキャラクターとして登場。
「マルス」がより人間らしくなっていた。
このキャラクター使ったロールプレーイングゲームが開発されていた。
ちょっと変わったところでは「ペイント(塗り絵)ブック」というサービスも紹介されていた。これは、ユーザーが自分で撮影した画像データをネットで送信すると、その写真を塗り絵の本にしてくれるというもの。日本での展開はまだ少し先になるそうだが、これはなかなか面白いサービスだと思った。このように今回のステッドラーではデジタルとアナログを融合させた展開が目立っていた。
ブラックタイプの消しゴムそして鉛筆削り。なかなか格好いい。
ブースに設けられていたステッドラー バー。
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