文具で楽しいひととき
2013 展示会レポート
お正月が明けたばかりの1月6日に香港へと向かった。
目的は2013年1月7日~10日の4日間、香港で開催される「香港インターナショナルステーショナリーフェア」の取材だ。私にとって、この展示会は初めての取材となる。名前は違うが、この展示会は「ペーパーワールド」の仲間のひとつ。主催は、メッセ・フランクフルトと香港貿易発展局の共同によるものだ。すでに13回という歴史がある。
展示会場に着いてなにはともあれまず向かったのがプレスルーム。このプレスルームが私の展示会取材の拠点となるからだ。プレスルームにはすでにたくさんプレスの人たちが集まっていた。
だれか知っている人がいないかなと見渡してみたが、知らない人ばかり。実はこの「香港インターナショナルステーショナリーフェア」には同時開催展がある。それは、「トイフェア」、「ベビーフェア」、「ライセンスフェア」の3つ。特に「トイフェア」は世界でも2番目に大きな展示会だという。
たくさん集まっていたプレスの人達は、実はおもちゃ業界のプレスの面々。中国ではこれまで一人っ子政策を積極的に行ってきている。とはいえ、そこはたくさんの国民がいる中国。その一人の子供に対して親や祖父母がたくさんのお金をかけるそうで、中国のおもちゃならびにベビー市場は活況を呈しているという。
さて、肝心のステーショナリーフェアの方だが、こちらは220社と「トイフェア」などに比べるとかなりコンパクト。しかしながら17か国の国々が参加している。国の顔ぶれとしては、アジア系が中心で欧米は少なめ。というのも、この3週間後にはドイツフランクフルトで本家の「ペーパーワールド」が開催される。欧米各社はフランクフルトに照準を合わせている。
「香港インターナショナルステーショナリーフェア」と私が毎年取材に行っている上海の「ペーパーワールド・チャイナ」を全体的な印象として比較してみるとこんな違いがあった。上海の方はどちらかと言うと、鉛筆の芯やファイルのリング、ボールペンのチップといった文具のパーツメーカーの出展が目立っていた。それに対し、香港フェアではそうしたパーツメーカーは少なく、完成品メーカーが中心。
完成品を自らのブランドで出展している一方でOEM生産もしますということをアピールしている出展社も結構見受けられた。
また、「トイフェア」と同時開催ということもあってか、「バックトゥスクール」系の学童向けの文具が多かったのも特徴と言えるかもしれない。さて、今回も私目線で気になった文具をいくつか取材してきた。
■ 独自の世界感を持ったノート
いつもの私の展示会取材のルールにのっとって、まず入口を入って展示会場の一番左端に立ち、そこから一本一本の通路を攻めていくことにした。
今回の展示会は「ペーパーワールド・チャイナ」に比べ規模としてはおよそ半分くらい。なので、あまり足早に回るとすぐに見終わってしまう危険性がある。以前、テレビ番組で「建もの探訪」という新築の家を取材する番組があった。決して広いとは言えない家の各部屋を一つ一つ紹介していくというもので、案内役の渡辺篤史さんは、ゆっくりと歩き、そしてゆったりと話して紹介していた。
今回私もそんなゆったりとした心もちで展示会場を回ってみることにした。そう思った矢先、一本目の通路でこれは!と目をとめたブースがあった。
WKT COMPANY というブースには、個性的な手帳が並んでいた。
早速、通訳のジムさんを通じて取材の申し込みをした。すると、ちょうどデザイナーが今ブースを外しているので連絡するから待ってくれという。2~3分ほど待っていると、一人の若い女性が現れた。今回のノートをデザインしたデザイナーのEmily Yanさん。手帳のブランドは「Notes & Dabbles」。
「Notes」とは、ペンでなにかを書くということ。そして「Dabbles」は「二つ」という意味ではない。私も初めて知ったのだが、なにか考え事をする時にペンを紙の上でトントンとたたく仕草をすることがあるが、そのことをいうのだそうだ。
サブコンセプトには「Thought recollected」とあり、考えを色々と思い出すという意味がある。つまり、アイデアや思いをめぐらすためのツールということだ。デザイナーの Emily さんは、アメリカ カリフォルニアの大学でグラフィックの勉強をしてきた。その勉強道具であるペンとノートにとても興味を持っていた。
Emilyさんは、自分と同じような文具が好きな人たちに向けて、これまでと違う文具の選択肢を与えてみたい。そう考え、今回のブランドをスタートすることになったという。一見すると MOLESKINE をカラフルにしたものという印象を受けるが、細部はかなり違ったものなっている。
実は、Emilyさん自身、以前 MOLESKINE を使っていた。その経験を踏まえ、今回のものには工夫が凝らされている。たとえば、表紙のカバーに布を使ってるのもその一つ。表紙にはコットンが使われている。これは、手触りにこだわったためだという。日頃から私たちはパソコンやスマートフォンなどデジタルツールばかりを使っている。裏返せば、紙のノートをだんだん手にしなくなりつつある。
だからこそ、手にした時の感触の心地よさを追求して、コットンという優しい風合いの素材を選んでいる。カバーはブラックとグレーの2色があり、カラフルなゴムバンドが目を引く。
そのゴムバンドの色合いに合わせ、手帳の小口も同じ色で染めあげられている。
また巻末には広がるポケットがある。これ自体は MOLESKINE にもあるものだが、今回のものには名刺を収納できるホルダーが付いている。
ポケットの表面には斜めの切り込みが入っいる。
この切り込みは単にポケットの表面をカットしているだけではない。それだけだと、さしこんだ名刺はポケットの中に入り込んで行ってしまう。切り込みの内側はちゃんと二重構造になっている。
また、別のタイプでは表紙に特殊な紙を使い、ラミネート加工したものもあった。
こちらはブラック、グレーに加えホワイトも用意されている。個人的にはこのタイプが最も気に入ってしまった。こうした手帳には珍しくホワイトカバーがあることと、そしてペンホルダーが付いているところがなにより気に入った。
このペンホルダーがいかにも「ペンホルダーでございます」といった感じでついているのではなく、あくまでもさりげなく備わっている。
背表紙の上側にゴムバンドがあり、そこにペンを差し込むというシンプルさ。ペンホルダーを使わない時にはその存在を限りなく気にしなくて済む。
MOLESKINE を使っていて一番困るのがこのペンのセット。Emily さんもその点がいつも気になっていたそうで、これを考えだした。ペンをセットした時の自然な収まり具合もいい。
紙面は無地、横罫線そして5mmドット方眼の3タイプ。方眼は線ではなく、ドットにしたのは、コピーをとった時に線だと目立ち過ぎてしまうため。グラフィックデザイナーらしい発想だ。こちらも小口が彩られており、それに合わせて背表紙も同じカラーでまとめられている。
さらに目を引くノートがあった。ウイスキーボトルとともにディスプレイされた風合いのあるノートブック。
「Whisky Journey」という名のこのノートは、自分のお気に入りのウイスキーの記憶を残すためのものだ。まさにウイスキーの様な琥珀色のカバーが印象的。
冒頭のページには「ウイスキーの旅」を楽しむための手順が書かれている。
その次のページには気に入ったウイスキーの評価を書き込むための解説がある。
そしてその後のメインページは、ウイスキーの評価を書き込むためのページとなっている。
おいしいウイスキーと出会った時その印象を文章でつづっていくのはなかなか難しい。それに、あぁ美味しかったと飲み終わっても翌朝になるとすっかり忘れてしまっていることが多い。この評価ページでは、ウイスキーの色、香り、味などをチャートに印を付けていくだけで基本 OK 。Emily さん自身ウイスキーが好きで、その記録を残しておきたいと考え、このノートブックを作った。
ウイスキーボトルとグラス、そしてこの「 Whisky Journey 」をセットしたギフトボックスも用意している。バレンタインや父の日などに好評だという。以外にCIGAR(葉巻)用の「CIGAR Journey」もある。
なんとEmily さんは、葉巻のテイスティングもするのだという。
そもそもWKT というこの会社は印刷会社でその技術を活かし、今回の「Notes&Dabbles」は作られている。確かに「Whisky Journey」の表紙の刻印などは見事な出来栄えだった。
いずれの商品も日本での代理店はまだ決まっていない。どこか名乗りを上げてくれることを私自身も期待している。特に、ペンホルダーのついたノート、そして「 Whisky Journey」あたりはぜひ日本でも、手に入るようになって欲しい。あまりにも私が欲しそうにしていたので、サンプルを特別に分けていただいた。
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