文具で楽しいひととき
ペーパーワールド チャイナ
2012 展示会レポート
ペーパーワールド・チャイナ2012は9月19日~21日の3日間、上海国際展覧センターで開催された。主催者の発表によると出展社は15か国410社。ここ数年は展示ホールを3館使っていたが今回は2館。規模としては、昨年よりもやや小さくなったという印象を受けた。
通訳の姚(よう)さんを伴って、まずはホール1の左角に立ってここをスタート地点とした。そして、一本目の通路から順番に見ていくことにした。展示会場というのは、どこでも会場の端っこは比較的小さいブースが多い。そして、会場の中心は20~30コマくらいという大きなブースが陣取っている。ちょうど町の作りと同じようなイメージだ。
歩き始めたところが1~2小間の小さなブースとはいえ、私としては全く気が抜けない。むしろこういう1~2小間くらいの小さなブースにこそ、キラリと光る技術や製品を持っているところが多い。これは私が長年展示会を見てきて掴んだ自分なりの法則。小さなブースの方がいいのは、物理的にスペースが小さいので、あれもこれもと色々な製品を展示する訳にはいかず、おのずと絞られている。
要するに、その会社の強みというか本質的なものがブースをパッと見ただけでわかってしまう。
一本目の通路の真ん中くらいまで来たところで、シャープペンの芯だけを展示しているところがあった。
■ ユニークなシャープ芯
この手のブースはペーパーワールド・チャイナではよく見かける。しかし、ここは何かが違う。その直感を頼りにブースにフラリと入ってみると、案の定、面白いものが展示されていた。
日本でもたまに見かけるマークシート用の断面が長方形をしたシャープ芯だ。しかし、これは一本なのに2色になっている。
片側が紫、もう一方がピンク。まじまじとその芯を見つめていると、担当の人が声を掛けてくれた。これは一体何のために使うのかと聞いてみると絵を描くためだという。
シャープペンを持ちかえれば2色使えるという訳だ。ブースには展示されていなかったが、このきしめんのような芯を搭載できる専用のシャープペンもあるという。
この会社は、あくまでもシャーペンの芯だけを作っているのでシャープペンは他のメーカーによるものだそうだ。この他にも様々なシャープ芯が並んでいた。タイミングよく社長がいらしたので、いろいろとお聞きしてみた。
同社は、1986年に創業のシャープ芯専門メーカー。歴史は比較的浅いが、アメリカ、日本、トルコ、インド、ロシア、ルーマニア、ドイツなどに輸出しているという。クオリティにはかなりの自信があるようだ。芯の強度、書き心地、そして芯のサイズの精密度が高いと自負していた
詳しい製法は企業秘密ということで教えてもらえなかったが、一つだけ、芯の強度を高めるためスリランカ産の天然グラファイトを使っているとのことだった。スリランカのグラファイトは、その密度がとりわけ高いのだという。シャープ芯一筋にこだわりを持っているという姿勢がひしひしと感じられた。
自らの強みを打ち出したまさに理想的な1小間ブースだった。これは幸先がいいぞ!
【まるでチョークやクレヨンのようだが、これもシャープペンの芯だという。しかし、シャープ芯は芯先がある程度とがっているからこそシャープ芯と呼べるのだと思う。そういう意味ではこれはやはり「芯」というべきかもしれない。実際問題、これは直に持って描くそうだ。】
■ 握りやすさがいいファイル
ファイルの機能で重要なのは書類の綴じ込みやすさだ。
ただ、もう一つあげるとすれば、ファイルを棚から取り出すときの取り出しやすさ、これも重要なポイントである。「浦和 PUHE 」という一小間のブースで、その取り出しやすさがいかにもよさそうなファイルがあった。
ファイルの背を見ると、その中央あたりが少しばかりくびれている。ファイルを使っていくと、次第に中はたくさんの書類でいっぱいになるその重くなったファイルを棚から取り出すのは一苦労。
そうした時にこのくびれは、実に心強い。特に両隣が他のファイルでぎっしりと収められている場合は、くびれの隙間に指を入れやすくなる。これは新製品ですか?と聞いてみると、「いや違う」という。「では、いつ発売されたのですか?」とさらに聞くと「6ヶ月前だ」とのことだった。
わずか6ヶ月前のものがすでに新製品ではないと言い切ってしまうのは、さすが商品を次々とつくり出してしまう中国メーカーならではだ。
■ シックなデザインのファイル
先程のファイルのブースがあった通路はさながら「ファイル通り」といった感じで、あちらこちらにファイルを展示しているブースが軒を連ねている。その中のひとつに、とてもシックな雰囲気のブースがあり思わず入ってみた。ブラックを基調にしたファイルで、その表面には格子模様の凹凸があって高級感がある。
ファイルをはじめ、ペンスタンド、ファイルボックスからゴミ箱に至るまで様々なアイテムがラインナップされていた。通訳の姚さんを通じてブースにいた人に、この素材を尋ねると「発砲 PP」という答えが出てきた。
「発砲 PP」、確か数年前のペーパーワールド・チャイナで聞いたことのある素材だ。と思ったらその担当の方は、2、3年前のペーパーワールドチャイナでまさに取材したその人本人だった。
その方も私のこと覚えていてくれた。数年ぶりの再会に急に私たち2人の距離はぐっと縮まった。実は、今回の展示会期間中は反日デモが重なったこともあったので、果たして中国企業のブースの取材は上手くいくのだろうかと心配していた。ひょっとしたら、中には日本の取材は拒否と言われやしないかと内心ビクビクしていた。そんな中で数年ぶりの再会は、私の心を温かくしてくれた。
さて、今回のこのシックなファイルシリーズは、 Home そしてOffice でも使えるというコンセプトでデザインされたものだという。デザインだけでなく、機能面でも面白い点があった。たとえば、ハンギングファイルのボックスは右側がスライドして広がり出すようになっている。
ここには別途ファイルが立てかけられるようになる。また、クリアフォルダーなどをたてておくファイルボックスは、完全に分解してフラットにすることができるようになっている。
これは商品の運搬時、そして倉庫の保管の際に省スペースになるためだ。確かにファイルは内側が空洞のものが多いので、この発想は面白い。というのも、この GREENTH FORM社という企業は、自らのブランドでファイルをユーザーに販売するよりも、ファイルメーカーに OEM 供給する事の方が多い。
つまり、この分解のしやすさは彼らのメインクライアントであるファイルメーカーが日頃困っている点を解決させたものなのだ。全てのアイテムが分解できる訳ではないが、ペンスタンドやゴミ箱などとりわけ内側の空洞が大きいものは分解できるようになっていた。
■ 紙の力を活かしたアイテム
「再会」ということで言うと、もう一つあった。昨年のペーパーワールド・チャイナレポートでも紹介したPAPER WORKSが今年も出展していた 。ここは段ボール素材を使った椅子やテーブル、そして素朴な紙を使ったデザインノートを展開しているブランド。ブースには昨年取材に対応してくれた陳さんもいた。早速、新製品をご説明いただいた。
まず見せていただいたのは表紙と中の紙で違う色を使ったカラフルなメモパッド。ユニークなのは右下の角が少しばかり欠けているところ。
これは陳さん自らデザインしたもので、ビスケットをかじったところイメージしたという。特にページのめくりやすさなど機能性は考えてなく、陳さん自身がビスケットが好きなのでそれをきっかけに作ったものだそうだ。
そしてもう一つ興味をかき立てられたのは、がまぐち財布スタイルのアイテム。パチンとがまぐちを開けると、中はなんとメモパッドが入っている。
きっとこれは大切なアイデアをちょうどお金のようにしまっておくためだろうと、陳さんに尋ねてみると、そうしたことは全く考えていないという。陳さんいわく、意表をつくデザインがこのコンセプトの中心だとのこと。泥棒がこの財布を盗んだあと、中をあけて見たらお金ではなくメモだったらきっと驚くだろう。そんな面白さを表現したのだという。
中に収めるメモは2冊リフィルが別途セットされている。この面白さにひかれて思わず1冊買ってしまった。
【これはジーンズのポケットのような表紙のノート。ポケットはちゃんと使える】
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