文具で楽しいひととき
MANUFACTUM
ミュンヘンで心を揺さぶられまくったショップがあった。「MANUFACTUM」というショップだ。
実はこのショップの存在自体は以前から知っていた。ずいぶん前になるがとある方からこのショップはオススメですよと、その通販カタログをいただいたことがあった。通販カタログといってもまるで電話帳のようなボリューム。中にはいかにもスパルタンでドイツらしいアイテムが紹介されている。
商品カテゴリーもキッチン用品からガーデニング、リビング用品、洋服、そしてステーショナリーなどなど、多岐にわたっている。
ドイツ語で書かれているが、写真を見ているだけでも楽しいので、オフィスの本棚に大切に保管して、たまにパラパラと眺め仮想ショッピングを一人楽しんでいた。そのリアルショップがあったのだ。いつもカタログでしか見ることができなかったので、もうこうしてはいられないというほど私は興奮してしまった。
入口を入るとまず食料品コーナーがある。食料品といっても野菜や肉などの生鮮食品ではなく、ワインやジャムといった容器に入っているものが中心。そこを通り過ぎると次にキッチン用品、そしてガーデニング用品売り場になっている。その世界観に私はいちコロになってしまった。
一つひとつのアイテムは、デザイン性で選ばれているという感じはむしろなく、ただただ使いやすさを追求して選びました、ということがひしひしと伝わってくる。しかしながら、それらがディスプレイされている売り場はとてもデザイン性が高い。機能美のある各種道具を一つひとつ売り場としてしっかりと受け止め、お客さんに伝えようとしているということが売り場からみなぎっている。
ドイツ製品ばかりではなく、中には日本製の植木ばさみなどもあり、日本語のシールが付けたまま並べられていたりもする。それがまた美しく見える。売り場の編集力というものをまざまざと見せ付けられた思いがした。
私は大いに刺激を受けた。売り場の間口はそれほど広くなく奥行きの方が長い。ちょうどうなぎの寝床のような感じ。その中ほどに文具売り場がある。文具売り場が見えると、あまりの嬉しさに口元はニヤニヤと緩み、その後財布の口も緩みっぱなしとなった。
■ 私が、まず選んだのはエグザコンタのファイル
書類を挟むだけのシンプルなフォルダーだ。太いリボンのようなものが付いていて、中の書類が飛び出さないようにバックルで固定できるようになっている。よくよく見てみると、さらなる機能があることがわかった。背の部分がスライドして、グングンと広がるようになっているのだ。
日本でも背がスライドして出てくるファイルがあるが同じような感じだ。背には数 mm 単位で折り目がある。これにたくさんの書類を入れて小脇に抱えている自分の姿を想像して、一人悦に入り、購入することにした。
5.2ユーロ。
もう一つファイルコーナーで見つけた書類ケース。
■ A4サイズを入れる洋封筒スタイルのフォルダーだ
ハトメ式で留めるタイプだが、ひもがゴムになっていてパチンと簡単に開け閉めができる。ゴムはファイルを閉じている時だけでなく、開いた時にもいい仕事をしてくれる。
ファイルを開くとゴムバンドがうまい具合に下側にとどまってくれファイルの内フタを必要以上に開きすぎないようにブロックしてくれるのだ。もちろんゴムバンドを後に解放させれば、ファイルを全開にさせることも可能。
デザイン、機能性ともに、気に入ってしまった。
9ユーロ。
■ とっても小さなファイル
ライツなどでもよく見かける二つの角にゴムバンドで固定するタイプ。
これはそのA6サイズ。出張の時の領収書や名刺など小さな物をこぼさずに収納するのにはもってこいだ。
各 3.8ユーロ。
■ ファイルコーナーと通路を挟んだ反対側にノートコーナーがあった
一回深呼吸してから、そちらに足を踏み入れてみた。これは!と思って手に取ったのは、ATOMAの A7リングメモ。
ATOMAといえば、カラフルな PP カバーだが、これはクラフト紙を使ったブラックとナチュラルカラータイプになっている。しかも、リングがシルバーになっているではないか。
これまた、こうしてはいられないという状態に陥りさっき深呼吸したばかりだというのに私の呼吸は、ハァハァと荒くなりだした。表紙には紛れもなく ATOMA のマークがある。裏返してみると、パッケージに「MANUFACTUM」のシールがあった。どうやら、これはダブルネームのようだ。紙面は無地で、どことなく再生紙を思わせる紙質。
クラフトの表紙と実にあっている。すぐ隣にはリフィルも販売されていた。
A7メモ本体が6ユーロ、リフィルが2.3ユーロと日本で買うよりも高い。しかし、このシックさにすっかりと魅せられ、思わず購入。同じ売り場にはリングパーツだけ、そしてATOMA 綴じにカットされた色々なサイズの紙もバラ売りされていた。どうやらパーツを買って自分の好みの厚さのノートを作るDIY方式のようだ。
■「MANUFACTUM」オリジナル手帳
MOLESKINE よりも縦に1cm ほど短く、厚みもある。ブラックの表紙に小口の鮮やかなレッドがひときわ目を引く。
紙面は無地でポケットも一つも付いていない、そぎ落とした美しさとうものがある。
取材手帳にいつか使ってみようと一冊購入。
12ユーロ。
ファイルコーナー、ノートコーナーに比べるとそれほど大きくはないが、ペンコーナーもあった。「MANUFACTUM」は店内の什器がウッドでほぼ統一されている。キッチンやガーデニング用品はメタル系のものが多く、ウッドとメタルという対極にあるもの同士が、なぜかピタリとマッチしている。
■ 木軸の1.18mmペンシル
このペンコーナーもウッド製の什器になっていた。台の上にはペンが細かく仕切られて立てられていた。その中の1本と目が合ってしまった。ひとたび、こうしてペンと目が合ってしまうと、他のペンをいくら見ていてもそのペンの視線が気になってしょうがない。私の方もちらちらと見てしまう。どうやら一目惚れしてしまったようだ。
ボディは木軸のようで、ペン先と後側だけが風合いのあるメタルになっている。そのペン先をクルクルと回していくと、シャープペンよりも、ふたまわり程太い芯がグングンと繰り出されてくる。
逆回転をすると芯は戻っていく。見た目よりもやや重みがあって書きやすい。軸の表面には細かな凹凸があって握り心地は快適。
芯は1.18mm というものが使われている。日本に帰ったらきっと手に入れるのは難しそうだと思って、替え芯を探してみると、ペンの什器の下側が小さな引き出しになっていて、そこにはリフィルが1種類ずつ収められていた。そのひとつに専用芯を発見。この替え芯のケースがまたいい。
ガラスのアンプルのような容器にコルクで栓が閉めてある。
その中に1.18mm の短めの芯が入っている。この替え芯はどうやってやるのだろうか。帰国してからいろいろやってみた。まず、後側のメタルは回転させると外すことができた。すると、中からドサッと芯の予備が出てくる。
この芯の出方がいつもと明らかに違う。どう違うかというと、ペンを少し斜めにしただけですぐに芯が飛び出てくる。つまり、替え芯の収納スペースは決して深くないということだ。たぶん、ここは単に芯を入れておくだけのスペースなのだろう。一方のペン先の芯は引っ張ると外れる。再び、ペン先からも入れられるようになっている。
原始的だが、芯交換はこのように芯先から出し入れして行うようだ。これはこれで味わいがあっていいじゃないか。
芯ホルダー 20ユーロ、替え芯 4ユーロ。
■ CEDON MUSEUM SHOP
同じミュンヘンで最後に訪れたちょっと高級なショッピングモールの中に「CEDON」というショップがあった。店名の下に「CEDON MUSEUM SHOP」と書いてあった。なるほど小さいながらも、本や雑貨、そしてステーショナリーも品揃えしており、まさにミュージアムショップという趣だ。ここで思わぬ再会があった。
ニュルンベルグの大型文具店で見かけ、そのときは断腸の思いで諦めた、ショートサイズの芯ホルダーが単体で売られていたのだ。
その価格4.9ユーロ。これなら気兼ねなく買うことができる。
ブラックとシルバーの2本を購入。
この芯ホルダーのキャップには芯研器が内蔵されている。ノックボタンをクルクルと外すとその内側には、先端があちらこちらに向いたものが出てくる。
その中央に芯を差し込みグリグリと回転させて削っていく。
ひとつひとつは刃物のように研ぎ澄まされている訳ではない。こんなもので果たして削れのだろうかと思って実際にやってみたら、少し時間はかかるが結構キリリと尖らせることができた。
このショート芯ホルダーの以外に消しゴムキャップつきの鉛筆も購入。
消しゴムはイカの頭のような形をしているが、一応角らしきものもあるので消しやすそうではある。
*
今回4店舗を回ってみただけだが、まだまだ日本に紹介されていないものは思いの外多かった。折りしもユーロ安ということもあってタップリと文具ショッピングを楽しむことができた。また、これらのものが今後、日本でも販売されたらうれしい。
中でも「 MANUFACTUM 」ショップは、日本でも展開したらきっと人気が出るに違いない。逆になぜ日本に進出していないだろうかと不思議に思ってしまったほどだ。
*関連リンク
「ステッドラー ドイツ工場見学 レポート」
「ペーパーワールド チャイナ2011 レポート」
「台湾文具の旅 2014 レポート」
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