文具で楽しいひととき
ハイタイド
hum
2010年6月、東京ビックサイトで開催されたインテリアライフスタイルショー。そこで、これは!というステーショナリーが展示されていた。というのも、このブースには私がこれまで見たことのない商品で埋め尽くされていた。
これは一体どちらのメーカーだろうとブースをグルリと見渡し、その社名を探してみると、「hum」とあった。
聞いたことのない名前である。よくよくお聞きしてみると、これはハイタイドさんとgrafさんとのコラボレーションによって誕生したブランド。はじめて見るというのも当然で、この展示会が初お披露目だということだった。ハイタイドさんは皆さんもご存知のダイアリーを中心に様々なデザインステーショナリーを手がけているメーカー。
そして、今回私もはじめてお聞きするgrafさんは大阪を拠点に家具や空間、プロダクト、グラフィックなどあらゆるデザイン活動を行っているクリエイティブ集団。
ところで、この「hum(ハム)」というブランド名、きっと多くの方は食べるハムを想い浮かべたのではないだろうか。私もはじめは、てっきりそうかと思っていた。しかし、そのハムではなく、「ハミング」からきているということだった。「hum」のコンセプトは「思わず鼻歌をうたってしまうような」というもの。また、「hum」には、「フムフム」という言葉も込められているという。
いずれにしても楽しく遊び心を持ちながらアイデアを生み出したり いい仕事をしていくための文具が今回いくつも発表されていた。この「楽しみながら仕事をする」というコンセプト、私は、深く共感してしまった。私のウェブマガジンの副題にもあるように「気に入った文具があれば、その日の気分まで良くなってしまう」ものだと私はかねがね考えている。
では、「思わず鼻歌をうたってしまうような」という文具をひとつひとつ見てみることにしよう。ちょうどブースには、今回の「hum」のコンセプトを考え、デザインも手がけたというgrafの坂田 佐武郎さんがいらしたので直々にご説明いただいた。
■ 違う素材がとても馴染んでいる
これは机の上に置いて使う収納ツール。注目はその素材。建築などでよく使われる MDF という木の素材とアクリルが使われている。木とプラスチックということで、ある意味、両極端とも言える素材の組み合わせ。
正直このふたつはあまり仲良くはなさそう、という印象すら私の中にはあった。しかし、それが見事にマッチしている。まるで、がっちりと両者が握手でもしているかのように。見た目だけでなく機能面でもよくできていて透明と透明でない素材の組み合わせにより、「見せる収納」と、「隠す収納」がいっぺんに出来てしまう。
タイプは、二段用と三段用の2種類がある。いずれもスタッキングが自由に出来、商品名にブロック(積み木)という言葉があるようにまさに自分の好きなスタイルに積み上げることができる。
また、中のカラフルなアクリル間仕切りも入れ替えることができ、まるで、家のインテリアの模様替えを楽しんでいるいった感じ。
と思っていたら、スタッキングした状態をよくよく見てみると、どことなく一つの建築物のようでもある。
* blocks double
* blocks triple
■ かゆいところに手が届くメモパッド
こちらはメモパッド。鮮やかな中にも落ち着いた雰囲気もあるカバー。
ガッチリとした硬さのあるカバーをクルリとめくると、中にはメモパッドが入っている。
メモパッドには珍しく四隅が丸く仕上げられているのが新鮮。坂田さんによると、メモを1枚だけ切り離して、人にメッセージを残すといった使い方の際に、こうした丸みを帯びたものの方が丁寧さが伝えられるとのことであえてこのようにしたそうだ。
このメモには、さらなる楽しさがある。先程、カバーの表紙をクルリと開いたが、そのうしろにまわした表紙を少しばかり下にずらせるようになっている。
これは立ったままメモをする時に、手の支えにするためのもの。紙面の上の方を書いている時は紙面そのものが台になるが、書き進んでいき、だんだんと紙面の下側へくるともはや手をのせることはできず、手を宙に浮かせてという状態になってしまう。
この時に、先ほどのずらしたカバーを台にする。いつでもどこでも、手のひらでアイディアが考えられるようになる訳だ。
* pocket note
■ さて、どっちから削ろう
この鉛筆はボディが片側半分だけ銀色で塗られているというデザイン。こうしたデザインのものには赤青鉛筆といったものがあるが、今回のものは中に入っている芯は黒鉛筆だけというのだから面白い。つまり、これは自分の好みの色の側を削って楽しめるという鉛筆。
もちろんいっぺんに両方削ることも可能。面白いのは銀色の方を削った時、この銀色の下地にはもう一色塗られていて削ることでそれが少しばかり顔を出す。
その隠れたカラーは、全部で4色。どんどん使って削ることで、当初、半分ずつだったボディのバランスがだんだんと片方が短くなり、また違ったデザインにも見えてくる。
そんなところも楽しめる鉛筆である。
*dips
■ 自分専用のホワイトボード
見た目はまるでファイルのよう。もちろん数枚の書類であれば、そのように使うことも出来なくはない。
しかし、メインはホワイトボード。中には白の他、赤、青、黄色などカラフルなボードも入っている。ホワイトボードと言いつつ中の紙が白だけになっていないのがユニークでいい。
ややハリがあるそれぞれの紙は表面がホワイトボード仕立てになっていて、付属のボードマーカーで書くことができる。
この使い方だけだと「ホワイトボード」と言うよりもどちらかと言うと「ホワイトシート」というべきかもしれない。しかし、これはちゃんとボード状になるのだ。どうするかというと、先程のファイルを使う。これを組み立てると自立スタンドになってしまう。
そこにホワイトボードをセットすることで、まさにホワイトボードのように立てて使うこともできてしまう。
また、各シートには、穴が空いているので画鋲などで壁に貼るといった使い方も可能。なるほど!と思ってしまったのは、各シートの裏面。そこは、やや大きめの方眼フォーマットになっていて、1ヶ月分のカレンダーを書き込んで使うこともできるようになっている。ホワイトボード式デスクカレンダーにもなる。
*orator
■ 不安定な安定感
まるで子供が遊ぶ積み木のようだ。しかし、これは積み木ではなく、マグネットピン。外側からはマグネットは全く見えないようにデザインされている。丸くなっている方にネオジウムという強力な磁石が入っていて、この強力磁石により、丸い面でも結構しっかりと固定することができる。
このマグネットでメモをとめてみると、ちょうど指先でメモを指差して、「注目!」と言っているようにも見える。メモをとめ、さらにそのメモちょっと目立たせるのにも効果的。
*6(シックス)
■ 検索性を考えたノート
先程の pocket noteのように落ち着いたデザインのノート。
表紙には、大きなロゴなどはない。右上にさりげなく「hum」と型押しされたマークがあるだけ。
中の紙面は、3mm 方眼フォーマットになっている。
ちょっと見たところではほかに目立った特徴は特に見あたらない。しかし、じっくりその紙面を目を凝らして見てみると、紙面の上の角にだけ斜めにミシン目がこっそりと入れてある。
まさに、こっそりという感じで。私も、説明されるまで気づかなかった。まるで忍者のようにすっかりと姿を消している。全ページにわたってこのミシン目が付けられている。
商品名に「ドッグイヤー」とあるように、後で読み返す重要なページは、このミシン目をドッグイヤー、つまり犬の耳のように折り込んでしまう。
なにもミシン目がなくてもドッグイヤーくらい折れる。確かにそうかもしれない。しかし、こうしてあらかじめて定位置にミシン目があることで、常に綺麗なドッグイアーを付けることができる。
ノートはいつも持ち歩くものなのでこれは、一つ大切なポイントかもしれない。綺麗なドッグイアーが出来ないと鼻歌も出てこないというものだ。
さて、このミシン目にはもう一つの使い途がある。というか本来は次の使い方の方がミシン目の正しい使い方ということになるのかもしれない。今度はノートを天地、逆にして使う。こうした時も問題がないように、あらかじめシンプルな表紙になっていたのだ。
ミシン目は上から下へと移動する。もう、皆さんおわかりだと思うが、この状態で書いたページの角をどんどんとカットしてしおりとして使う訳だ。
カットしたところに指をかけて、最新ページがめくりやすいように表紙自体はソフトに仕上げられていてグイッと折り曲げることも可能となっている。
*dog ear notebook
■ 立ち上がれなくなる座り心地
これは、一般的には文具ではないが、”hum”では、「考え事をするための道具=文具」として椅子を捉え、デザインしているという。確かにこれはまさに、ハミングしてしまいそうな使い心地がある。
座ると、ユラユラと心地よく揺れる、いわゆるロッキングチェアと呼ばれるもの。見た目としては椅子というよりも乗馬用のトレーニングマシーンのようだ。これは、横から腰掛けたり、跨って座ったりできるようデザインされているのだが、やはり、一番ユラユラできるのは跨った時。
これだけでも揺れるが、より心地よく、それこそ鼻歌モードにするには足をスキー板のようなところに乗せるといい。こうするというより気持ちよくユラユラすることができる。座面もソフトで一度座ると、あまりの心地良さになかなか立ち上がれなくなってしまう。
* tiny cloud
■ 気持ち良いきらめきが楽しめる
これは一つ私の仕事場でも導入してみようかと今、ちょっと真剣に考えている。「モビール」というジャンルの商品で天井から吊り下げておくインテリアアイテム。
坂田さんいわくイメージは水中から水面を見上げたところを表現したという。なるほど緩やかなカーブを描いた透明なプレートがユラユラと揺らいで、そのようにも見える。
室内というのは窓を開けなければ基本的に風はないものだが、実は、私たちの会話や人の動きだけでもわずかな空気の動きはあるのだそうだ。
そうした動きに反応してこのプレートはゆったりと動き出す。あくまでも自然に。パソコンや原稿用紙に一心不乱に向かって仕事をし、椅子の背もたれに体を預けて、フト上を見上げる。すると、この水面のようなプレートが目に入ってくる。なにもない天井を見上げるよりもこの方が数段気持ちいいはずだ。
また、そのプレートで光を反射して、それが天井にまた水面のような輝きも映し出す。これは仕事の合間の良い癒しになってくれそうだ。
今回の一連のアイテム、いずれもほどよくリラックスしたもので、それでいてしっかりと機能性も併せ持ったものばかりだった。「心地よさ」そして、「機能性」が無理やりではなく、あくまでも自然に溶け合っているのをすごく感じた。
今回は第一弾ということで、今後また違うシリーズが出てくるということなので大いに期待したいと思う。
water level
humの各種プロダクトは、こちらで手に入ります。
HIGHTIDE
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