文具で楽しいひととき
TS
エアメール 便せん
これまで万年筆にあう紙は、厚いものがいいと、そう勝手に思いこんでいたフシがあった。厚いということで、なんとなくインクをガッチリと受け止めるといった印象があったから。確かに、そうした厚い紙は、実際、万年筆にあうものも多い。
しかし、この「厚い=万年筆にいい」という私の思いこみをものの見事にひっくり返してくれた紙があった。それが、TS(テーエスと読む)のエアメール便せんだ。
そもそも、このエアメールは、そのネーミングおよび表紙のトリコロールデザインからもわかるように海外へ送る手紙用の便せん。
おそらく、郵便料金を少しでも安くするために徹底した軽量化が計られたのだろう。束ねられた状態だと気づきにくいのだが、一枚をヒラリとつまみ上げると、向こう側の気配が十分に見通せてしまうほどの透け具合、そして薄さだ。
こうした半透明の紙というと、トレーシングペーパーがあるが、これは、それとは全く違う質感を持っている。どちらかというと、和紙のような、ややフサフサとした柔らかな風合いがある。
■ 薄いのに万年筆との相性は抜群
一見および一触り(ひとさわり)すると、こんなにも頼りなげなのだが、ペンと対すると、その底力というものをまざまざと見せつけられることになる。特に感心してしまったのは、万年筆での書き心地。
ちょっとひ弱な紙ならば逃げ出してしまいそうな太字系で、インクの出もよい万年筆を取り出してで書いてみてもびくともしない、というか、全くへっちゃらで、しっかりとインクを受け止める。
薄氷を踏むような、という表現があるが、これは薄紙ではあるものの、そんな気遣いは無用。ドシドシと遠慮なく書いても大丈夫。
表面の質感からして、ざらつきのある書き味を想像していたが、予想以上にペンがスムーズに進む。しかもにじみはほとんど見られない。
インクの吸収もなかなか素早い。インクを吸収するからには、それ相応の例えば、人間で言えば胃袋のような、紙でいえば厚みが必要なものだが、これはご覧のとおりの薄さである。一体どこにインクを吸い取られてしまったのだろう。
怪訝に思いつつ、きっとここだろうと、私は紙を裏返してみた。
しかし、予想に反してインクは完全に抜けきっていない。確かにこの薄さなので、おおよそ7割がたはインクが見える。だがしかし、しっかりと最終的には裏面には迷惑をかけないでいる。手紙を書くときはいったん進めたペンが思いを巡らしているうちに、しばし止まってしまうこともある。
ペン先を紙の上に置いたままにしていてもこの紙はインクのしみこみを広げてしまうことも裏面に抜けてしまうこともなかった。
片面筆記を基本とする便せんなのにし、なかなかやるではないか!と、大いに感心してしまった。この紙は見た目以上に懐が深いようだ。薄くてもペン先を受け止めるタッチが柔らかく書いていて、とても気持ちいい。こういういい紙もあったのかと、認識を新たにすることになった。
万年筆以外では、ゲルインクボールペンも問題なく書けた。ただ水性ボールペンだけは、ややにじみが見られたが、それほど気になるほどでもない。こうして、特に万年筆をはじめほとんどのペンとの相性の良さがあるということがわかると、トレペのように使えないだろうかと期待がふくらむ。と言うのも、トレペ系はあまり万年筆をはじめとする水性インクとの相性がよくないので。
しかしながら、このエアメールはトレペよりも透明度がやや劣るという別の問題点があった。帯に短したすきに長しだ。それでもそれを承知でその様に使うこともできなくもない
本来の便せんとしてだけでなく、トレペ風に、小さめにカットしてメモ用紙にと、これは色々と使いでがありそうだ。
TS エアメール 便せん
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