■ 「アイデアのつくり方」
□ここに「アイデアのつくり方」という本がある。
1975年に出版されて以来、
版を重ね今も読み継がれている。
「アイデアのつくり方」とあるが、
アイデアというものは不意に浮かんでくるもので、
こうすればアイデアが出る、なんて都合のいいことがあるのだろうか。
そう思われる方も多いのでは。
私も当初はそう思っていた。
しかも、この本はページ数にしてわずか62ページしかない。
薄い本がいけないというわけでもないのだが、
こんなに薄くて、アイデアのつくり方がわかるなんて…。
ますます私の疑いは深くなっていた。
しかし、いざ読んでみると、中に書いてあることは、とてもシンプルで明快。
そして、実際に取り組んでみると、確かにうまくいく。
以来、この本は私にとってバイブル的な存在になっている。
バイブルと言えば、この本、まさに聖書くらいのサイズをしている。
□さて、この本の著者は、ジェームス・ W ・ ヤング氏という方は、
広告代理店の J ・ウォルター・トンプムソンで、
コピーライターとしてスタートし、同社の副社長にまで上りつめた人物。
広告と言えば、アイデアとは切ってもきり離せない。
その方がみずからの経験を基に生みだしたアイデアのつくり方が
この本の中にまとまっている。
□今回は趣向をちょっと変えて、
私がこの「アイデアのつくり方」をこんなステーショナリーで実践しています、
というのをご紹介してみようと思う。
そもそも私にとってアイデアを作るとはどんな時か。
それは今皆さんお読みになっているこのコラムがまさにそう。
一つの文具をまだ手にしたことのない読者の方々に、
どんな表現で説明するのがわかりやすいか、
というアイデアを日々練っている。
著者ヤング氏は、商品のコピーということだった。
ひとつの商品の本質を短いまとめるというのは、
全然レベルは違うけど、根本は同じようなものだと
私は都合よく解釈している。
□まず、私がこの本を読んで、ハッとしたのが、
「アイデアは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない。」という一文だ。
アイデアというと、
何か全く新しいものを生み出すそうとしがちだが、
実はそうではなかったのだ。
すでにあるもの同士を組み合わせても
それはれっきとした新しいアイデアになる。
□本書でアイデアを作るのは、こう例えられている。
「例えばフォードの車が、製造される方法と全く同じ一定の明確な方法に従うものだ。」
その一定の方法のポイントは、
1.資料を集め、
2.心の中でこれらの資料をに手を加える。
3.いったんこの問題を全く放棄してしまう。
4.アイデアの誕生
5.そのアイデアを具体化、展開させる。
というもの。
文字にしてしまうと、なんだこんなことかと思ってしまう程だ。
しかし、これを実際にやってみると、より深く感じられるようになる。
□では、私はそのそれぞれのステップでどんなステーショナリーを使っているか。
1.情報を集める。
私の場合はある特定の文具について書くとき、
まず、メーカーによるカタログやリリースなどを色々と集める。
そうして集めた情報は、いったん私の机の後に置いてある
ホワイトボードにどんどん貼り付けていく。
こうしてわざわざ貼るのは、
机の上などに置くとすぐに行方不明になってしまうため。
そしてその文具、
例えばペンであれば、書いたり、持ち歩いたりして生活の中でじゃんじゃん使っていく。
ひと通り資料に目を通し文具を使い、その日は終了。
翌朝になったらまず、草稿作成に取りかかる。
この翌朝というのが私にとって大きなポイント。
別の本の中で、
人間の頭の中は夜になればなる程
情報がいっぱいになって、こんがらがっていってしまう。
それらを睡眠によって、整理してくれるのだということを
読んだことがある。
そして、その整理された翌朝の朝一番の仕事として、草稿を書く。
これが本当にうまくいく。
これは例えば、取材などに出かけたときも同じ。
その取材の日は情報集めるだけにして、
その日は終わらせその翌朝に文字にしていく。
この草稿を書く段階が心の中で資料に手を加えている作業を
同時に行っているのだと思う。
そして次に
第3段階の「いったん問題は全く放棄する」というものだが、
私は草稿をポスタルコのリーガルエンベロープに入れて、
紐をグルグルと巻いてしっかりとフタをして、
しまい込んでしまう。
このリーガルエンベロープはこうして紐でフタをガッチリと閉じることができるので
ハイ、おしまい!とばかりに、
区切りが付けやすいのがいい。
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そして、これまでの仕事からいったん手をひき、全く別の仕事に取りかかる。
この何もしないという段階の効用を
私は「アイデアのつくり方」の中で最も強く感じている。
自分では、その草稿原稿をしまい込んで物理的には意識の外に置いていても、
実は頭の中の片隅には、しっかりと残っていて、
別の仕事をしながらも脳は
常にそれに関連することを探したり、考えているようである。
これはあくまでも無意識の中で。
□よくアイデアは、昔から、「三上」で浮かぶと言われている。
三上とは、「鞍上、厠上、枕上」。
馬の上、トイレ、寝ている時である。
現代では、馬は乗らないので、
これは、歩いていたり電車や車に乗っている時ということにあたると思う。
トイレと寝ている時はそのまま。
私もこの三つに加えてお風呂にはっている時にも
新たなアイデアが浮かぶことが実に多い。
いずれの場合も共通しているのは、
一つ一つの行動に意識を向かわせなくてもいいという点だ。
例えば、散歩の時、
人は、さぁ右足を前に出そう次は左足だ。
足の出方が低いぞ!もう少し高く!などと誰も考えていない。
あくまでも自然に意識することなく体を動かしている。
トイレもお風呂時も、寝ている時は無論そうだ。
ではその時に頭の中は、何をしているかというと、
体を動かす事に意識を使わなくていいので、
頭の中にすでににある「何か」を無意識で考えているのだろう。
それがまさにいったん意識の外に置いていた
私の場合で言えば、「リーガルエンベロープにしまい込んでいた草稿」。
しまい込んでいたはずの草稿について
不意にいいアイデアが浮かぶことが多い。
この「アイデアのつくり方」を読む前は
ここの不意にアイデアが浮かぶということだけを取り出して
私はアイデアというものは不意にしかやってこないと
そう思いこんでいた。
しかし、違ったのだ。
実は、その前に色々な下ごしらえがあってこそだったのだ。
その不意を逃さないために
私はポスト・イットスタイルノートを
ラミーピコや鉛筆とともにポケットに必ず入れている。
ちなみに寝間着に着替えても
必ずポケットにはペンとメモをしのばせている。
□散歩しているといいアイデアが浮かぶのは、
体が揺れてそれによって頭の中の余計なものがふり落とされ、
大切なものだけが残ってアイデアになるというイメージが私にはある。
お風呂では汚れを流しているので、余計なものが流されて大切なものが残る。
トイレはいわずもがな。。
出すことで、大切な何かが残って見つかると、
こう考えると、実に合点がいく。
そのアイデアを原稿に加え、
それをさらにリーガルエンベロープに入れ再び別な仕事をするというのを
2、3回繰り返して、コラムも完成させている。
それがステップ4.5を行っているということになるのだと思う。
□この仕事の流れを確立してから、
一つの仕事を決して1日で仕上げるということがなくなった。
最低でも1週間ぐらいかけて取り組んでいく。
梅棹忠夫氏の「知的生産の技術」という本の中にこういう一文がある。
「『自分』というものは時間とともにたちまち『他人』になってしまうものである。」
同じ人間でも日々色々な情報を取り入れていくので、
それに伴い他人になってしまうのだろう。
それをうまく使って「明日の別の私」に原稿をチェックしてもらうというのを
繰り返すということを行っている。
アイデアというものは机の上ではなく、
一定の準備をした上で、全く別なことをして手に入れる。
これは私の仕事を大きく変えてくれた
まさに素晴らしいアイデアである。
(2009年2月24日作成)
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