■ 「校正専用として買った万年筆」 パイロット カスタム742 20,000円 +tax
□私は、ペンのコラムを書くときは、
できるだけ、そのペンを使って原稿を書くようにしている。
その方が、使いながらインプレッションも書けて何かと都合がよいからだ。
数か月前、プラチナ萬年筆の210円万年筆「プレピー」のコラムの時も
やはり、プレピーを使って書いていた。
ご存じのように、
プレピーにはたくさんのカラーバリエーションが揃っていて、その中に赤がある。
せっかくなので、原稿だけでなく、その校正もプレピーの赤万年筆で書いてみることにした。
これまで、校正は赤ボールペンを使っていたのだが、
万年筆で書いてみると、
これはなかなかいいではないか、、、と、小さな驚きがあった。
特にプレピーは、極細のペン先で、こまかな修正にも都合がよく、
万年筆の赤インクは独特な透明感があってとても美しい。
私はすっかりと極細赤万年筆に魅せられてしまったのである。
人の欲望というものは、とどまるところを知らないようで、
はじめは、プレピーで満足していたものの、
次第に210円の万年筆では、もの足りなさを感じるようになり、
校正専用の本格万年筆が1本欲しくなってきてしまった。
私は、仕事柄原稿の校正ペンを持つことが多い。
これは、絶対に買ったほうがいいな。
いや、むしろ、仕事道具として、これは買わなくてはならない。などと
この万年筆の買うことを正当化するための理由をスバヤク2〜3個考えだした。
我ながら、こういう時の頭の回転は、自分でも感心してしまうくらいに速い。
□そこで、手に入れたのが、このパイロット カスタム742のEF(極細字)である。
私は、校正用として買ったが、この万年筆は校正専用という訳ではないことを
はじめに申し添えておく。(念のため。)
パイロットのたくさんラインナップされている万年筆の中で、
おそらくミドルレンジくらいに位置しているように思う。
今回の校正用万年筆は、私にとって一生を共にするくらいの覚悟で考えていた。
だから、1万円ではちょっと安すぎる気がした。きっと1万円の万年筆を買ったら、
すぐに、その上のものが欲しくなるに決まっている。
そうは言っても、蒔絵や漆ぬりなどの高額すぎる万年筆だと、
万年筆に気がとられてしまって、校正どころの騒ぎではなくなってしまうことだろう。
なので、この2万円クラスというのが実に絶妙なのだ。
□ボディはモンブランの146とほぼ同じくらい。
しかし、長さがカスタム742の方がやや長い。
上 : モンブラン 146
下 : パイロット カスタム 742
全体に長いのではなく、キャップは同じくらいで尻軸側だけが長くなっている。
長いと言っても、長さにして数ミリ。
しかし、この長さがなかなか頼もしい。
キャップを外して、キャップを尻軸にセットする暇がないくらいに急いでいる時は、
この尻軸が長いおかげで、がっちりと握ることができる。
校正は、いつなんどき修正すべき場所に出くわすか油断ができないので、
こうして、さっと快適に握れるのは、頼もしい。
ボディはとてもつややかさな質感にあふれている。
日本の万年筆は「プラスチッキー」なものが多い中で、
これは、なかなかいい線を行っている。
□ペン先は、14金。
セーラーの24金仕上げと比べてみると、その色あいの違いがはっきりと見てとれる。
セーラーの黄金色に対して
パイロットの方が、やや赤みがある。
どことなく、ピンクゴールドのようだ。
EFの書き味は、
極細ということもあって、カリカリとした感じはやはりある。
日頃からM(中字)を使い慣れている私には、
はじめのうちは、どうしても違和感が手の中に残っていた。
しかし、
いつもMで書く時よりも、やや軽い筆圧そしてやさしい気持ちに切り替えて書くと
カリカリ感も幾分和らいでいった。
これまで、ボールペンで校正をしていたときは、
「あ!これ修正なきゃ。」みたいな感じで、それこそ気持ちまでカリカリしてやっていたが、
やさしく書け、繊細な文字が生み出せる万年筆だと、
心優しい気分で、校正にあたれるようになった気がする。
□この様に校正ペンとして、この742を使っていて、気づいたことがあった。
それは、キャップを外したまま数分書かない状態が続いても、
書き出しから、インクのカスレがほとんどなく、気持ちよく書くことができるということ。
これが、結構長くても大丈夫で、10分近く外したままでも、
しっかりと書き出しからインクがでてくる。
校正の作業というものは、原稿を書くときと違って
ただひたすら書き続けるよりも、原稿を読んでいる、
つまり、ペンを手にしつつも書かないでいる状態が意外と長い。
なので、このインクの出の良さは、とても都合がよい。
これは742のたっぷりとした大きさのあるペン先がモノを言っているのだろう。
□そのペン先の裏側にあるペン芯を見てみると、
これまでにみたことのない光景に出くわした。
黒いペン芯がうっすらと赤く染まっているではないか。
実はパイロットのペン芯は、インクが馴染みやすくなるよう
表面に特殊な処理が施されている。
そのため、インクで染まったように見えるのだ。
特に私は、赤インクだったので、黒との対比で余計に際立ったのかも知れない。
これは、機能的にもインクフローをよくするために一役を担っているのだそうだ。
このインクの馴染みの良さは、どのインクでもいいという訳ではない。
やはり、パイロット純正のインクが最も馴染むようにペン芯が設計されている。
ちなみに、今回私は、純正の赤インクを入れている。
□それから、今回この742で
パイロット社の「プッシュ式コンバーター」というものをはじめて体験した。
普通のコンバーターは、ネジをクルクルと回転させるが、
これは押すだけというもの。
以前からこの存在は知っていたものの
私はこの押してインクをいれるというのが、どうしても信用できなった。
押してインクを吸い上げるというのだから、
どう考えても、押し込んた時はいったんインクが入っても
再び押したら、先ほど入ったインクが出てしまい、
結局は、インクは出たり入ったりの繰り返しになってしまうに違いないと
思っていたからだ。
しかし、いざやって見ると、違っていた。
何度も押せば押すほどに、コンバーターがゴクゴクとインクを飲みこんでくれる。
5回くらい押したところで、コンバーターのおなかはいっぱいになる。
このあまりの飲みっぷりの良さ、そして、片手で吸入できる利便性に
私は、これまでの考えを撤回し、全面的に信頼をしてしまった。
特に、片手でインクが吸入できるというのは、個人的にとてもありがたい。
それは、どういう時かというと、
ボトルのインクが少なくなった時だ。
ボトルの底に少ししかないインクを吸い上げるのはかなり大変。
ボドルを斜めにして、インクを片隅に貯めて、
その体勢をしっかりと維持しながら、
もう一方の手を使ってペン先を差しこんで吸入するという
アクロバティックな作業が強いられる。
でも、このプッシュ式なら、片手でプッシュするだけなので、
そんな体勢でも楽々吸入することができそうだ。
□これまで、原稿の校正作業というものは、
さほど楽しいものではなかたった。
どちらかと言えば、やらなければならないみたいなとlころがあった。
しかし、このカスタム742を片手に校正を行うようになってからというもの
自分の気入った万年筆を使っているという満足感、そして、
万年筆で赤入れをした校正原稿も心なしか美しく見えるようになり、
すっかりと校正が楽しい作業に変わっていった。
そして、極細万年筆の魅力にも開眼してしまった。
(2007年7月17日作成)
□追記(2015年4月24日)
その後もせっせと原稿の朱入れをし続けて
ペン芯は、
このように真っ赤になっています。
書き心地は、
極細なのにサラサラと書け快調です。
■ パイロット 万年筆 カスタム742 極細字 (EF)はこちらで手入ります。
■ こちらでも手に入ります。
■ こちらでも手に入ります。
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