■ 「モバイル シャープペン」 ぺんてる ケリー 1,575円
□文具には、よく万年筆などで「復刻」というものがある。
ずーっと昔に販売されていたものが
何かの事情で、ある時から販売されなくなり、
その後、かなりの時間を経た後に
再び販売されるようになったというもの。
当時を知る人にとっては
久々の対面となり、すごく懐かしい存在。
また、当時を知らない若い人たちにとっては
これまで見たことがないということで新鮮に受けとめられる。
この復刻というものもいいけど
同じ古いジャンルには、
ずっと休むことなく販売され続けている「ロングセラー」というものもある。
このロングセラーのペンたちは、
内心、こうした復刻ペンのことをどう思っているのだろうか。
年季だけで言ったら
私達だって同じじゃないか。
むしろ、私たちの方が
ずっと休みなく販売され続けてきたわけだから
こっちの方が年季は上とも言える。
なのに、多くの人は復刻ものばかりに注目して、ずるい
などと思っているのかもしれない。
いつでも手に入る存在という安心感もあり、
取り立てて注目されなかったりする、
そうしたロングセラーペンを
ここでひとつスポットライトを当ててあげようと思ったのであります。
□それが今回取り上げる
ぺんてるのシャープペン ケリー。
ご存知の方も多いペンだと思う。
ケリーの歴史は古く、
今から約40年ほど前の1971年に発売が開始された。
私が1967年生まれなので、4歳年下ということになる。
今や平成生まれのペンたちが売り場の中で幅を利かせている中
古き良き昭和の時代からずっと販売されている。
若い世代のペンの間で今も頑張っているその姿を見ると
同年代の私としては、なんだか親しみを感じてしまう。
さてさて、このケリーというペン
実は発売当初は
ケリーという名前ではなかったという。
その証拠に、発売当初のペンにはケリーのロゴはなく、
その代わりに、数字の「5」というものが印刷されていた。
【 左が発売当初のもの、そして右が現行品 】
この「5」の意味は、
シャープペンの芯の太さが0.5mm であることを示している。
しかも、この後の数字が
これでもかというくらいに大きい。
これはきっと当時のシャープペンとしては珍しい
キャップ式を採用していたからなのだろう。
キャップがあるとペン先が見えないので
シャープペンであることがわかりづらい。
そこで、
この「5」という数字から示していたのに違いない。
そうそう、ケリーという名の由来だが、
ぺんてるの方によると、
ちょっと面白い話がお聞きすることが出来た。
ケリーという言葉は、
そもそもアイルランド産の黒い牛という意味があるのだそうだ。
発売当時の黒軸のケリーがそれに似ていることから、
愛称としてそう呼ばれるようになったという。
これは私もはじめてをお聞きする話だった。
その後、このケリーという愛称が定着して正式な商品名となり、
それに伴いボディの「5」という数字は「KERRY」へと変わっていった。
□またケリーは、
「万年CIL(マンネンシル)」とも呼ばれている。
これは、「万年筆」と「シャープペンシル」をくっつけた言葉。
ぺんてるではケリーを開発するときに、
「万年筆のように持ち歩けるシャープペンを作ろう」というのが
コンセプトになっていた。
折りしも1971年当時は万年筆ブームでもあったという。
蘊蓄はこれくらいにして、ケリー本体への話に移っていこう。
□携帯時は、とってもボディが短く12.3cmほど。
昔はこうした携帯時にはショートサイズの万年筆があった。
確かにこのボディ、
万年筆っぽい。
そのショートサイズのボディの中で
ひときわ目立っているのが中央にある格子状のパーツ。
これがショートサイズのケリーを存在感あるものにしている。
このパーツの効能は後ほどおいおいと。
□キャップは引っ張るとカチッと外れる。
すると、さらに短いボディが現れる。
ラミーピコを1cm くらい長くしたほどだ。
このままでもぎりぎり筆記は可能。
シャープペンなので、
後軸にあるノックボタンをカチカチとノックすると芯が出てくる。
しかし、ケリーらしい使い方は
やはりキャップを後軸に収めるというスタイルだ。
キャップは
ここでもやはりカチッと気持ちよく音を立ててはまる。
筆記体勢に入るとわかるが、
先程の格子状のパーツには、
握った時の指にはそれほど触れない。
この格子状のパーツ、
一見すると、グリップによくあるローレットのようにも感じるが、
実は、その役目はあまりないようだ。
これは私の握り方のせいもあるかも知れないが、
もし、グリップのためなら
格子状のパーツは、もう少しペン先側にあった方がいいように思う。
それよりもこの格子状のパーツの役割として感じるのは
キャップをカチッとセットするためということ。
ペン先を収納するとき、
そして後軸にセットするとき両方において
カチッとしっかりと固定できるようになっている。
よくよく格子状のパーツを見てみると
なるほど左右対称になっている。
□さて、こうしてキャップを後軸にセットしてみると、
13.2cm と先程よりは長くなっている。
ただ、一般のペンに比べればまだまだ短い。
しかし、この短さゆえに手にした時のバランスはとても良い。
□そうそう、キャップを後軸にセットするという所で
もう一つだけ触れておきたいところがある。
先程はカチッという音に耳を奪われたが、
今度はキャップの先端にあるノックボタンの動きにしばし注目してみたい。
差し込む前のキャップはノックボタンが凹んだままの状態で
押すことも引っ張り出すことも出来ない。
それが後を軸にセットするとカチッという音とともに
ノックボタンが程よく飛び出してくる。
ちなみに、
このノックボタンを飛び出させる仕組みは
今はバネを使ったものだが、
以前のものはここにマグネットが仕込まれていて、
それにより動かしていたという。
ケリーの素晴らしさは
このキャップをセットした状態でもノックをすれば芯がカチカチと出てくる点。
このノックをするときに
小指と薬指が格子状パーツをグルリとつかんでいる。
実は、ノックする時のグリップという役割もあるようだ。
このノックボタンを引っ張ると中から消しゴムが出てくる。
先ほども触れたように
このノックボタンのキャップはペン先収納時には使えない。
つまり、この消しゴムは携帯時には使えず、
筆記時だけ機能するようにちゃんと考えられているのだ。
この消しゴムを外すと芯の交換といきたいところだが、
さすがにそれは出来ない。
芯交換はキャップを外したペン単体のノックボタンを外して行う。
中には12本とたっぷりの芯が入れておける。
□このケリーの中で、
実は私が最も気に入ってしまったのはペン先の作りこみ。
他のどのシャープペンにも似ていない独特なフォルムをしている。
ペン先に行くに従い2段階にわたって絞り込まれている。
太くそして短いボディであるために
こうして急激にペン先を細くしなくてはならなかったのだろう。
それがむしろ美しい。
もちろん、筆記時のペン先周りの視界も良好。
□ラミー2000が誕生したのは、1966年。
ケリーが1971年。
5歳ばかりラミー2000の方が年上であるが、
ほぼ同じ年代ということになる。
その当時のまま、今も販売され続けている今回のケリー。
当時は、万年筆のように持ち歩けるということを考えて作られた
このコンパクトさ。
時代は変わり、
多くの人たちは万年筆の代わりに、
スマートフォンなどを持ち歩くようになっている。
そんな現代でも、このケリーのコンパクトさは
やはり便利だと思う。
今、再び注目したいシャープペンである。
(2010年6月29日作成)
■ ぺんてる ケリー シャープペンはこちらで手に入ります。
■ 参考になるリンク
Hagyさんのブログ 「箱から文具をひとつかみ」 の中で、
ケリーとは違う「万年CIL」が紹介されています。(ぺんてる製)
■ 関連リンク
■ 「ロングセラーのシャープペン」 ぺんてるグラフ1000
■ 「使うほどにわかる計算しつくされたデザイン」 ラミー2000 ペンシル
■ 「心地良い質感のシャープペン」 ぺんてる スマッシュ シャープペン
■ 「芯の出具合いを調整できるシャープペン」 ステッドラー REG 925 85−05
■ 「お手頃価格の本格シャープペン」 ロットリング 500
■ 「落書きという名のシャープペン」 ラミー ペンシル0.7mm スクリブルブラック L186A
■ 「 ペン先がメタルのトラディオ万年筆 」 Pentel Tradio TRF
■ 「ロングセラーの水性ボールペン」 ぺんてる ボールPentel B100