■ 「バウハウス的なペン」 トンボ鉛筆 PFit (ピーフィット) 315円
□今、個人的に興味を持っているのがバウハウス。
1919年にドイツで生まれたデザイン教育機関。
ちょうど読んでいる本、
「美の構成学 バウハウスからフラクタルまで」(三井秀樹氏 著)によると、
「バウハウスでは美術、建築、工業、手工芸、工芸など
広範な造形活動に共通する造形の原理や理論が
造形実習を通じて教えられた…」とある。
バウハウスとは「建築の家」という意味で、
バウハウスの初代校長のウォルター・グロピウス氏は
「すべての造形活動の終着点は建築である」としている。(「bauhaus」 マグダレーナ・ドロステ氏 著 より)
ちなみに、
バウハウスには舞台芸術というジャンルまであり、
そこではダンス・パフォーマンスも研究の対象になっていた。
さて、ステーショナリーで
このバウハウスの考え方を取り入れているところにはラミーがある。
その代表的なペン、
ラミー2000は40年以上経った今も
全くそのデザイン性に古さを感じさせない魅力がある。
一体このバウハウスとはどういうものなのだろうと興味が湧き、
バウハウスの書籍を読んだりインターネットなどで調べたりしている。
そうした中で、
バウハウス アーカイブ ミュージアム オブ デザイン
というドイツのウエブサイトにたどり着いた。
そのサイトをくまなく見ていると、
バウハウス ショップなるものがあった。
これは面白そうと中に入ってみると、
なんとステーショナリーのコーナーが。
はやる気持ちを抑えてクリックして中に進んでいった。
そこで販売されていたのは、
やはりラミーのペンの数々だった。
ラミー2000を筆頭に、
サファリ、スクリブル、ステェディオ、ピコ、などなど。。
ラミー以外にもドイツのウズウズや、shortyという芯ホルダーなどもあった。
と、その中に我らが日本のペンが一つだけあるではないか。
トンボ鉛筆の PFit である。
トンボ鉛筆と言えばデザインコレクションで
ヨーロッパでも高い評価を受けている。
その代表と言えば私の頭にはズーム707がまず浮かぶ。
ヨーロッパでも数々のデザイン賞を受賞している実力派だ。
PFit よりこのズーム707の方が
ふさわしいような気がしなくもない。
トンボ鉛筆の方に
このバウハウス ミュージアムに PFit が販売されていますね、と
ある時お話ししてみると、トンボ鉛筆の方も
このことはご存知なかった。
ということは、
バウハウス ミュージアム側 でPFitを
独自にセレクトしたということなのだろう。
実は、
PFitもデザイン的な評価は高く、
「red dot design award 」、「iFデザイン賞」などを受賞している。
2006年に発売され、すでに5年が経過しているが、
ここにに改めてその魅力を見ていきたいと思う。
□この PFit は、ノック式ボールペン。
ノック式ボールペンを基本要素に分解してみると、
ボディの軸、ノックボタン、そしてクリップの大きく三つに分けられる。
この中で、
PFitはボディをこれでもかと短くしている。
短いペンということで言えば、
これまでにもたくさんのものがあった。
PFit がユニークなのは、
ボディを短くし、
それに対し、クリップの方をむしろ長くしているという点。
バウハウスの考え方の一つに
「形体は機能に従う」(「美の構成学」より)とある。
クリップの機能と言えば、
それは、とりもなおさず、ポケットなどに挟むことである。
しかし、今回のPFitでは、
この短さゆえに「はさむ」以外に
もうひとつ別な機能も考え合わせなければならない。
それは、
手にして書く時にクリップもろとも握るということ。
つまり、
クリップがクリップとして使われる時以外は、
ボディの一部、
具体的に言うと「グリップ」でなければならないということである。
PFit では、まさしくそのような形になっている。
ボディとクリップとの間にほとんど隙間がなく、
まるで溶け込む様にひとつの塊になっている。
まさに「形体は機能に従う」というものを感じる。
9cmほどしかない PFit を握ってみると、
クリップが張り出していないので、
この短さの割に手の中に自然になじむ。
これを助けているのがボディ両サイドにあるラバー。
ペンのグリップを良くするために、
多くのペンでは、ラバーグリップというものがよく使われている。
ラバーグリップと言えば、
ペンの軸をグルリと一周すべてに付いているものが多い中、
PFit は、あくまでも両サイドだけ。
一般のペンは丸軸なので、
手にする時にどこを握るかの想定がつかず、
そのためすべてをラバーにしておく必要があるのだろう。
PFit では丸軸ではなく、
一方は角張っていて、
もう一方は丸くなっているという特殊な形をしている。
この形のため、
手にする時の向きはある程度限られてくる。
一番気持ちよいポジションを探すと、
平らになっている面をつまむという所に落ち着く。
その時に指が来る両サイドだけにラバーを付けたのだろう。
考えてみると、ペンを握るのは3本の指。
親指と人差し指でボディをしっかりと挟んで、
ペンをコントロールする。
残りの中指はどちらかというと、
縁の下から支えているような役目。
こうした理由からもグリップは、
あえて2ヶ所にしたにとどめたのだろうと思う。
□このラバー、
クリップを挟むという点でも
大いに役立っている。
まずは、PFitのクリップの基本構造からお話しよう。
これまでのクリップは接点がほとんどの場合、
クリップ先端の1点であるものが多かった。
今回の PFit のクリップでは、
一見すると、
クリップとボディがほぼすき間なくピタリと接しているので、
面で押さえているように見える。
しかし、実はそうはなっておらず、
もう少し複雑な構造をしている。
クリップを広げて内側を見てみると、
そのことがよくわかる。
そこは、面にはなっておらずデコボコとしている。
ボディ側には、四角い凹みがあり、
そして、その位置にピッタリとくるように、
クリップの内側には凸がある。
ここがうまい具合にかみ合い、
ホールドする。
この部分だけで言えば、
接点は点になっている。
PFitのクリップには
もう一つ接点がある。
それは、
クリップ内側の外周の部分。
ここも挟むときに
ボディにピッタリと接する。
つまり、PFitの接点は「点+線」という構造。
しかも、
この外周のラインとかみあわされる面は、
グリップのラバーになっている。
点、そして外周のライン、そこにはラバーという
三段構えによるクリップ。
小さくかわいらしい外観だが、
クリップのはさむという点では、
むしろ、これまでのペンよりも上とも言える。
実際にポケットなどに PFit を挟んで見るとよくわかるが、
とてもフィット感がある。
□この様に、今回のPFitでは、
「クリップ」と「グリップ」が実に上手い具合に相互補完をしあっている。
まず、
ボディを短くして、クリップがグリップになっている。
そして、
グリップのラバーが
実はクリップする時にも効果を発揮しているという点。
文字にすると、
「クリップ」と「グリップ」で
なんとも紛らわしくなってしまうが、
これは、改めて見てみると、
とても興味深い構造をしている。
「書く」そして「はさむ」というそれぞれの機能性を
小さくなったらと言って妥協せず、
とことん追求している。
やはり「形体は機能に従う」ということが感じられる。
きっとバウハウスミュージアムでも
こんな点が認められて選ばれたのかもしれない。
やはり機会を作って、
一度バウハウス ミュージアムを訪ねて
その点を是非とも確認してみたいと思う。
(2011年5月17日作成)
□記事作成後記
今回、ご紹介したオレンジクリップのPFitは、
日本では、販売が終了になってしまったそうです。
(海外では、今も販売されています。)
現在、日本で販売されていますカラーは、以下のラインナップとなります。
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