■ 「アポロ11号でその実力を実証した伝説のボールペン」
フィッシャー スペースペン AG-7 アストロノート 10,500円
□1969年世界で初めて
有人月面着陸を成功させたアポロ11号。
この時に使われたのが、
このフィッシャースペースペンAG-7だ。
当時、NASAから
宇宙でも書けるボールペンを作って欲しいという依頼を受け、
フィッシャー社が100万ドルもの巨費を投じて開発したものだ。
宇宙で書けるボールペンとして
30年以上経った今も、
NASAが認めている唯一のペンである。
□そもそも、なぜ、
宇宙で書けるボールペンがわざわざ必要だったのか。
普通のボールペンではなぜだめなのか。
宇宙には空気がない。
つまり、無重力。
私たちが普段使っているボールペンは実は、
重力を使ってインクをペン先へと押し出している。
何気なくボールペンを使っているが、
ペン先はいつも下側を向いているので、
無意識のうちに重力の恩恵を受けている。
この重力に頼ったボールペンだと
無重力空間に持っていっても書けなくなってしまう。
という訳で、宇宙用のボールペンが必要だったのだ。
□では、
このスペースペンは無重力という問題をどのように解決したかというと、
その秘密はプレシュライズド インクカートリッジというものに
隠されている。
密閉されたインクカートリッジの中には、
空気の代わりに窒素ガスが充填されている。
さらに、インクとこの窒素ガスの間には、
通常のボールペンではあまり見かけることのない
スライドする仕切りまである。
カートリッジ内は窒素ガスで
一定の圧力で保たれており、
その圧力によって
常にペン先側にインクが押し出されるというものだ。
こう書くと、
なにやらものすごく難しく感じるが、
要はところてんを押し出す仕組みをイメージすると、
わかりやすいかもしれない。
□無重力というのは、
私たちの日常生活ではあり得ない。
では、このボールペンが活躍する場はないのか。
実は、日常生活でも結構ある。
それは、
立ったままメモをとるという場面。
実は、
この時に上向きとまではいかないが、
ペンが平行になっていることが多い。
これもれっきとした上向き筆記の一種。
こうした時に活躍してくれる。
会社で片付かなかった仕事を家に持ち帰り、
ソファーなどに寝転がって、書類に書きこむときや、
寝転びながら本を読んでいるときに線を引く、
といった時に、
大活躍してくれることだろう。
□ボディは見るからに、
月に行ったという風格漂うボディ。
宇宙服のごっつい手袋をしたままでも操作しやすいように、
ノック式になっている。
それをぐいと押し込んでみると、
「カチッ」というメカニカルな音がする。
ペン先を引っ込めるには、
ボディ横に飛び出ている
丸いボタンを押し込んであげればいい。
この時にも「シャキッ」といういい音がする。
□私はこうした造りの良さそうなペンを見ると、
どうしても分解して中がどうなっているのかを
確認したくなってしまう。
ボディをクルクルと回してはずしてみようとした。
ところが、
いくら回してもなかなか外れない。
ようやくのことではずして、
その結合部を見てみれば、
明らかに普通のボールペンよりも
ねじ山がたくさん切られている。
きっと気密性を高めるためなのだろう。
インクも特殊に開発されたもので、
100年以上、蒸発することがないというからすごい。
私よりも長持ちしてしまうことになる。
さらには、
-40度〜+100度という極度の寒さ、
暑さの中でもスムーズに使うことができる。
まさに、
極限状態での筆記を可能にするボールペンだと言えるだろう。
制限速度時速100kmの日本に
200km以上ものスピードが出せる車がある。
そんなスピードを出すところもないのだから、
必要ないと思う方もいるかもしれないが、
これは、
車の余力を愉しむということだそうだ。
その意味で言えば、
このスペースペンも同じかもしれない。
宇宙という極限状態を耐え抜いたペンを
日常生活の中で愉しんでみるというのもいいものだと思う。
でも、
近い将来、
宇宙旅行に行くこともあり得るかもしれないので、
その時のために、
今から1本持っておくのもいいと思う。
■ 心地よい文具 リストへ
Copyright (C) 2003 Tadashi Tsuchihashi,All rights reserved.