2022.06.21(509)

「原点と新しさの融合」

プラチナ万年筆

#3776 センチュリー DECADE

プラチナ万年筆 #3776 センチュリー DECADE

2年間インクを入れっぱなしにしていても中のインクが乾ききらない「スリップシール機構」を搭載した「#3776 センチュリー」。年に数回くらいしか使わないユーザーにはいつでもみずみずしい書き味が楽しめ、ヘビーユーザーには安心して顔料インクを入れて楽しめたりと幅広い層に支持されている万年筆である。その「#3776 センチュリー」が10周年を迎える。それを記念した限定モデル「#3776 センチュリー DECADE」が7月1日に発売されることになった。一足先にプラチナ万年筆本社でその全容を堪能させていただいた。

■ #3776 発売から44年

プラチナ万年筆 #3776
初代のプラチナ万年筆 #3776

そもそも「#3776」は1978年からスタートしている。作家であり、1000本もの万年筆を所有するコレクターでもあった故 梅田晴夫氏が中心になって理想の万年筆をというテーマに企画されたものだ。つい数年前まで販売されていたので、ご覧になった方も多いと思う。

プラチナ万年筆 #3776
初代のモデルはペン芯がエボナイト製だった

ボディにはギャザードと言われる細かな凹凸がある。手にフィットすることに加え、放熱の役割も担っている。書いていると体温がボディに伝わり、インクタンクの空気が膨張してしまう。それを表面積を広くすることで和らげるのだ。ちょうど車のエンジンのラジエーターのように。ボディのフォルムも個性的だ。キャップの先端はフラットで、尻軸が丸くなっている。初代のペン先は丸みを帯びた作りで、かなり硬質な書き味だったという。ここから「#3776」の歴史は始まった。

歴代モデルをズラリと並べてみると、静かに進化を遂げているのがわかる。ペン先は2代目(1980年)からはフラットな形状に変わり、しなやかな書き味になった。この2代目のペン先の基本設計は、現在の「#3776 センチュリー」まで受け継がれている。ただ、「#3776 センチュリー」はペン芯に大幅な改良の手が加えられている。インクフローが豊かになるよう設計変更されているのだ。こうした流れの先に今回の10周年限定モデル「DECADE」はある。

プラチナ万年筆 #3776
左から初代1978年モデル、1980年モデル、1982年モデル、1985年モデル、そして2011年発売の現行センチュリー。ボディの形状は少しずつ変更されている中、クリップは当初から全く変わっていない。

プラチナ万年筆 #3776
初代のペン先(左側)は丸みがあった。それ以降は刻印が一部変わっているが、同じペン先であることがわかる。

■ ギャザードのあるボディ

プラチナ万年筆 #3776 センチュリー DECADE

では「DECADE」の全体像を見ていきたいと思う。商品企画プロデュースをされたプラチナ万年筆 開発マネージャーの石花氏にお話を伺った。ボディのフォルムは天冠・尻軸ともにフラットなベスト型。プラチナ万年筆の金ペン万年筆はどちらかと言うと丸いバランス型の方が多い。だからだろうか個人的にはかなり新鮮に映る。そしてキャップをした状態の中央にはギャザードがある。初代のモデルより控えめではあるが、「#3776」の原点を感じられる部分だ。初代のものと握り比べてみると、ひとつひとつの凹凸は「DECADE」の方が緩やかになっていて、指あたりが優しい。石花氏いわく、このギャザードの丸みをつける加工には試作を繰り返し苦労したという。かねてより「#3776 センチュリー」の富士旬景シリーズなどで様々な樹脂ボディ加工をしてきたが、その切削加工技術が今回も大いに活かされている。

プラチナ万年筆 #3776 センチュリー DECADE

プラチナ万年筆 #3776 センチュリー DECADE
中央のリングは「#3776 センチュリー」とは違う。シンプルになっていて、キャップの口ギリギリまで来ている。

石花氏によると、キャップそして胴軸も「#3776 センチュリー」と同じものを使っているという。両端をフラットにし、ギャザード、リングを変えることでここまで印象が変わるのかとちょっと驚いた。何より大きな違いは、全長が「DECADE」の方が結構短くなっていることだ。

プラチナ万年筆 #3776 センチュリー DECADE

■ 新しいペン先

プラチナ万年筆 #3776 センチュリー DECADE

今回の「DECADE」はかなり力が入っている。というのもペン先も全く新しいものが開発されているのだ。このペン先開発にあたっては、プラチナ万年筆で長年万年筆の修理を担当されている修理部の松田さんの意見が反映されている。松田さんはこれまで4万本に及ぶプラチナ万年筆の修理を手掛けてこられてきた、言わばプラチナ万年筆の書き味を知り尽くした人物である。

プラチナ万年筆 #3776 センチュリー DECADE

まず、ペン先を見てすぐ気付くのが全体のフォルムだ。「DECADE」のペン先はスリムになっている。「#3776 センチュリー」はペン先の横の張り出しが広くとられている。今回の「DECADE」は、その張り出しが抑えられている。加えて、ペン先がだんだん細くなるラインのスタート地点が「DECADE」の方が手前に来ている。ちなみにペン先の全長は同じだ。修理部の松田さんによると、現代のユーザーはどちらかと言うとややしなりのあるやわらかなペン先を好む傾向があると言う。「DECADE」の今回の新しいペン先でもそうした味付けがなされている。

プラチナ万年筆 #3776 センチュリー DECADE
ペン先表面のフラットなつくりは同じだが、横幅がスリムになっている

プラチナ万年筆 #3776 センチュリー DECADE
ペン先の形状の違いは横から見ても分かる。ペン先側のペン芯が見えている面積が「DECADE」(下)の方が長い。

そのやわらかさをデータで見ると、今回の「DECADE」のFは「#3776 センチュリー」のFと中軟のちょうど間くらいのやわらかさがあるという。ペン先の先端をより細く仕上げたことによるものだ。さらにこのやわらかさに一役買っているのが、ペン先の刻印。「DECADE」のペン先には「10th.」という特別な刻印が入っている。その刻印をよくよく見ると、先端のところだけは刻印がされていない。「ちょうど良いしなり具合を色々と探っている中で、このペン先部分だけは刻印をしないようにしました」(松田さん)ペン先というとても薄い板に刻印される溝一つでしなり具合は大きく影響を受けるのだという。

プラチナ万年筆 #3776 センチュリー DECADE

こうした味付けを色々と調整し、「DECADE」のペン先は完成した。ペン芯は「#3776 センチュリー」と同じものが使われており、たっぷりとしたインクフローが楽しめる。

プラチナ万年筆 #3776 センチュリー DECADE

■ 書き味インプレッション

「スリップシール機構」の負荷が途中でフリーになる感触を手に感じつつキャップを外す。まずはキャップを外したままで書いてみる。フラットな尻軸で少しショートサイズだが、キャップなしでも十分握れる。私は最近キャップなしで書くこと多い。この方が万年筆ならびにペン先をダイレクトに操れる感覚がある。筆圧を少しかけると、しなりが効いていく。とは言え「センチュリー」のペン先だってしなりは味わえる。それぞれのしなり具合の違いを実感しようと、指先に集中して「DECADE」と「センチュリー」を書き比べてみた(それぞれのFで比較)。「DECADE」の方が軽めの筆圧でもわずかにしなりが効いていた。かと言って、やわらかさに気を取られてしまうほどではない。あくまでも書いた時の余分な筆圧をペン先が私に任せてくれとばかりに吸収してくれる、そんな感じだ。実用的なしなり具合と言える。

プラチナ万年筆 #3776 センチュリー DECADE

プラチナ万年筆 #3776 センチュリー DECADE

プラチナ万年筆 #3776 センチュリー DECADE
プラチナ万年筆のブルーブラックで書いてみた。ペン先はF。細身になったペン先は書いている時に目に入ってくる印象もまた違うものがあった。

次にキャップを後ろにさしてみる。これはこれでとても落ち着きがある。取り回しのしやすさは先ほどの胴軸単体の方が優っている。しかし、キャップをさすと自然にボディの中程を握ることになり、ギャザードがたっぷりと指先にあたる。ギャザードを楽しみたい時にはいいかもしれない。

プラチナ万年筆 #3776 センチュリー DECADE

プラチナ万年筆 #3776 センチュリー DECADE

今回の限定品には「富士紺(ふじこん)」というボトルインクがセットされている。書きたての時は爽やかなブルーだが、乾くと光の反射によって赤っぽくも見える。富士山の夜明けのグラデーションを表現したという。

プラチナ万年筆 富士紺インク

プラチナ万年筆 富士紺インク

プラチナ万年筆 富士紺インク

プラチナ万年筆 #3776 センチュリー DECADE
天冠には10周年のロゴ

プラチナ万年筆 #3776 センチュリー DECADE
尾飾にはシリアルナンバーの刻印がある



今回の10周年記念モデル「DECADE」。初代「#3776」のギャザードを取り入れつつ、一方では現代のユーザーの書き味にフィットしやすいペン先も新たに開発もしている。往年の「#3776」ギャザードを新しい書き味で楽しめる万年筆だと思う。

プラチナ万年筆 #3776 センチュリー DECADE

プラチナ万年筆 #3776 センチュリー DECADE
「DECADE」の限定セットには、コンバーター、ブルーブラックインクカートリッジ、そして特別カラーのボトルインク(富士紺)が付属されている。

プラチナ万年筆 #3776 センチュリー DECADE 限定3,776本  44,000円(税込) 字幅はF(細字)、M(中字)

協力:プラチナ万年筆

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