文具で楽しいひととき
TWSBI
ダイヤモンド 580AL R ニッケルグレー
万年筆は実際に書いてみないと、その良さは分からない。
先日、改めてそう感じた。ISOT(国際文具・紙製品展)でTWSBIの日本代理店である株式会社酒井さんのブースに立ち寄った。ブースにはすでに何人もの文具仲間の面々がいた。TWSBIという名前は前から知っていたし、リーズナブルなわりにちゃんと吸入式があることも知っていた。最近、個人的に注目している台湾のブランドでもあるので、頭の片隅にずっとその存在はあった。でも、これまで本腰を入れて手にすることはなかった。カラフルな印象があり、50代の私にはちょっと。。と感じていた。だから、ISOTの会場でも少し遠くから眺めていた。文具仲間にブースに招き入れられTWSBIを本格的に手にして書いてみた。いくつものタイプがある中で、グッとくるものがあった。それが、今回取り上げるダイヤモンドAL。
手にした時に指先から伝わってくる質感が、これはちょっと違うぞと思わせるものがあった。カラフルではない落ちついた透明軸も私好みだった。
■ そして、翌週には買いに
酒井の方によると、東京や横浜で品揃えのよいところは、新宿伊勢丹本館5Fの万年筆売り場であるということだった。お店に行く前に、ウェブでTWSBIダイヤモンドALについての予習も行い、TWSBI購入に向けた私の中の気持ちを徐々に盛り上げていった。ウェブによると、やはりというべきか、ダイヤモンドALにもカラフルなタイプがあった。それらではないシックなものにしようと、ノートPCをパタンと閉じつつ心に決めた。
そして、静かにお店に向かった。お店では一応試し書きをさせてもらうことにした。字幅はMとB。ISOTで試し書きをした時に、Bがいいなと心の中ではすでに決めてはいたけど、ダイヤモンドALのBを下さいと「万年筆購入」を簡単に終わらせてしまうのもなんかもったいない。それに、万年筆を買う上では何が起こるか分からないので、念のための試し書きをさせてもらった。ちょうど試し書き用のダイヤモンドALのご用意がござまいますと店員の方がそれらを持ってきてくれた。お店の方に許可をいただき、いつも使っている原稿用紙を出してそれで試し書きをしていく。試し書きはホームグラウンドである自分の紙で行う方がよい。書いてみると、やっぱりBがしっくりきた。試し書きという名の「確認書き」を終えた。
では、ダイヤモンドALのBをくださいと、ここで正式にお願いした。新品を持ってきていただき最終的な試し書きをさせてもらおうとすると、先ほど試し書きした万年筆とは何か見た目が違った。おなじアルミグリップなのだが、色合いが違うのだ。さっきのは、マットなグレーだったが、これはキラキラとしている。店員の方の説明によれば私が試し書きしたものは「ニッケルグレー」というもので、新品で出してもらったものは「シルバー」というものだという。同じダイヤモンドALでも、違うものだそうだ。そう言えば、事前の予習でもそんなタイプがあったような気もする。
改めて、シルバータイプとニッケルグレータイプを比べてみるとニッケルグレーの方がガンメタほどではないが、シックさがより一段深い。それにニッケルグレーにはレコード盤のような細かな溝もグリップにはある。どことなく精密機器という感じもするので、私はニッケルグレーにすることにした。
当初は、ダイヤモンドALのアルミということが私の頭の中を占領していて「アルミ」「アルミ」と思い込んでいた。「ニッケルグレー」という選択肢に気づけてよかった。やはり試し書きはしておくべきだと改めて感じた。今回のように何があるか分からない。
こちらが、メタル部分がキラキラしたシルバータイプ
■ 真面目な作り込み
ISOTの時にダイヤモンドALを手にした瞬間、これは!と感じるものがあった。それはボディの質感だった。この透明軸は何か違うぞというものが指先からひしひしと伝わってきた。よくよく調べてみると、ポリカーボネイドというものが使われているという。水槽などにも使われることもあり、透明感がすこぶる高く、頑丈という特長もある。その材質を肉厚に使っているように感じられる質感だった。酒井の方によると、そのポリカーボネイドの表面には樹脂コーティングをしているので傷もつきにくいそうだ。
そして、ボディ中央は多面体になっている。軸をクルクルと回転させながら目を凝らして見ていくと、ダイヤモンドの菱形カットが時折ピカリと反射する。私はボディの中央を優しく握るのがレギュラーポジション。ちょうどこの多面体カットに指先がくる。エッジは滑らかに加工されているので握り心地も優しい。
ペン先側を握るという人は、レコード溝のメタルグリップが迎え入れてくれる。
■ さて、インクはどうするか?
自宅に帰り、すぐにでも書き出したいが、その前にインクを入れなくてはならない。ふだん、私はペリカンの万年筆にはペリカンのロイヤルブルー、パイロットの万年筆にはパイロットのブルーという具合に、その万年筆の純正ブルーを入れることを基本としている。しかし、TWSBIには純正インクがない。どうしようかと帰りの電車の中で考えこんでしまった。そして、こうしようと決めた。「純正」という基本ルールの視点を少しばかり変えてみようと。すなわち、ふだん私が一番よく使っているパイロットのブルーインクを入れるということだ。つまり、私の純正インクを入れるという格好だ。
パイロットのブルーは、落ちついた色合い。この透明度の高いスケルトンボディに入れるとどうなるだろうか。ボトル越しに見ていた時には美しいとは思ったことは正直なかったが、多面体の透明軸越しに見てみると、これがなかなか美しい眺めだった。
そうそう、ピストン吸入機構の動きはとても軽やかだった。吸い込み力もよく、ぐいぐいとインクを吸い上げるさまを透明軸で見るのも楽しい。
■ 軽やかな書き味
書いてみた。
いつものクセでキャップを尻軸にさしてみると、キャップは深くまでかぶさらない。すごく長くなってしまう。書けないこともないが、振り回される書き味となってしまう。仕方なくキャップをささずに書いてみる。ボディ単体でもそこそこの長さがあるので、十分握れる。私のレギュラーポジションであるボディ中央の多面体の所を握っても尻軸は手の中にギリギリ収まった。これまでと違うスタイルではあったが、むしろ軽やかさというものが手の中に生まれていた。私の万年筆使いは原稿を書いたりと、どちらかと言うとスピードライティングが中心。その使い方においては、この軽やかさは大いに助けになってくれる。
ペリカンM800と比べてみた
ペン先はスチール製。しなりは感じられない。これはしなりを感じる万年筆ではないようだ。私はBを買ったが、私のが特にそうなのかもしれないが、すこぶるインクフローが潤沢でスムースに紙の上を走る。キャップから開放された軽やかさを手に入れ、いつもより筆圧をかけないで書いていく分には「しなり」のないペン先は全く気にならなかった。
*
今回の草稿をTWSBI ダイヤモンドAL R ニッケルグレーで書いてみた。スピードライティングにもしっかりついてきてくれ、筆跡のカスレも見られなかった。一軍万年筆のペンケースに入れて草稿用として使って、しばらく様子をみていくことにしよう。TWSBIをすっかり見直してしまった。
TWSBI ダイヤモンド 580AL R ニッケルグレー 10,000円+Tax
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