2017.06.13(383)

「早春の夜明けに赤く染まった富士」

プラチナ万年筆

#3776センチュリー 春暁

プラチナ万年筆 富士旬景シリーズ #3776センチュリー春暁

日本一の万年筆を作りたいという想いが込められた「#3776 センチュリー」。その限定シリーズとして富士山を囲む湖をモチーフにした「富士五湖シリーズ」は、昨年の「河口」で完結した。毎回、インプレッションを書かせて頂いている私も、ついに終わったか、、という感慨深いものがあったのと同時に、終わってしまうのか・・・と心のどこかで寂しさも感じていた。きっと皆さんも同じ気持ちなのではないだろうか。

そんな中、プラチナ万年筆さんから新しいシリーズをスタートするという連絡があった。それが「富士旬景シリーズ」である。四季折々の富士山の美しい風景を切り取ったシリーズだ。このシリーズ製作にあたって、ベースとなる写真集がある。「富士山に呼ばれる写真家」の異名を持つ、ロッキー・田中氏の写真だ。一生のうち99点の富士山を撮ることを信条にし、すでに80数点が写真に収められている。「呼ばれる」と言うように、何日もずっと待って撮るのではなく、そろそろかなと富士山に呼ばれ、出かけて撮影するという独自のスタイルを貫いている。

シリーズ第一回を飾るのは、「春暁(しゅんぎょう)」。

プラチナ万年筆 富士旬景シリーズ #3776センチュリー春暁

プラチナ万年筆 富士旬景シリーズ #3776センチュリー春暁
この写真が「春暁」のベースとなっている

■ 赤く染まる美しい富士山

春の夜明け、わずかに明るくなりかけた頃、富士山をとりまく一帯が暗さの中にも色々な赤で染まりだす。その瞬間を切り取ったのが、今回のモデルだ。ボディは、美しいレッド。レッドボディと言えば、「ブルゴーニュ」がある。まずは、その違いから見ていこう。並べてみるとよくわかるが、「ブルゴーニュ」の方がずっと濃く、「春暁」には透明感がある。とは言え、「ブルゴーニュ」を単に淡くしたということではない。もともとの赤の色味が違っている。明るいところで見れば、透明感が少しばかり強調されるが、通常の室内では独特な深みのある赤にも見える。

プラチナ万年筆 富士旬景シリーズ #3776センチュリー春暁
手前が「春暁」、奥が「ブルゴーニュ」

そして「春暁」の一番の見所は、一本のボディで表現されたレッドのグラデーションだ。先ほどの赤に染められた富士山は、日が昇りつつある明るい赤や、影になった深めの赤といった、美しいグラデーションがある。それを、このボディで表現している。ボディの両端にある天冠と尾栓はボディより、わずかに濃いパーツを使っている。しかも、ここだけは表面がザラザラとしたマット加工。ボディの中で最も深みある部分だ。淡い色合いの胴軸とそのままつなげ合わせたら、ギクシャクとしてしまう。それをうまく馴染ませているのが、ボディに施された「マット光線彫り」。

プラチナ万年筆 富士旬景シリーズ #3776センチュリー春暁

プラチナ万年筆 富士旬景シリーズ #3776センチュリー春暁

「河口」でも採用された繊細な線が表現できる手法である。今回は、はじめて一本一本の溝の内側がマットになる手法が試みられている。両端に近いところは、光線彫りの密度が高く、内側に行くに従い線の本数は少なくなっていく。これにより、ボディの中央からほのかに濃くなっていくグラデーションを表現している。

■ 静かな隠れ富士

こちらも「河口」の時にも採用された天冠の内側に据えられた富士。今回はちょっと違った印象の富士山になっている。メタル製の富士山がネオブラックというガンメタのような表面加工がされている。マットな天冠越しから目をこらして見つめると、うっすらとまだ暗さの残る富士山のシルエットが確認できる。明け方の富士山という雰囲気を演出している。

プラチナ万年筆 富士旬景シリーズ #3776センチュリー春暁

プラチナ万年筆 富士旬景シリーズ #3776センチュリー春暁

■「春暁」にあわせたいインク

キャップをクルクルとはずすと、新鮮な眺めに一瞬目がとまる。ペン先の手前、首軸のところだけがうっすら白い赤、言わばピンク色になっているのだ。ペン芯とボディの間をつないでいる「中カバー」に白いものが使われている。一般には黒が使われているが、一部「ブルゴーニュ」もそうだが白の時もある。特に今回は透明感のあるボディなので、よりその白さが強調された格好だ。

プラチナ万年筆 富士旬景シリーズ #3776センチュリー春暁

さて、この「春暁」に入れるインクについて、定番のプラチナのブルーブラックもいいが、せっかくのグラデーションレッドをより活かしたい気もする。折しもプラチナ万年筆から「クラシックインク」が発売された。その「カシスブラック」が個人的に似合うと思う。

プラチナ万年筆 富士旬景シリーズ #3776センチュリー春暁

書いてみた。(サラサラサラ・・・)

うん、実にいい。

プラチナ万年筆 富士旬景シリーズ #3776センチュリー春暁

レッドのグラデーションボディから同じ色あいのインクが流れでてくる。筆跡も同じようなグラデーションになっている。ちなみに私が試したのは「M(中字)」。



「春暁」は限定3776本(シリアルナンバー入り)で2017年7月1日から発売される。ペン先は「SF(細軟)」、「F」、「M」、「B」、「C(極太)」の5種類。レッドボディではあるが、とても落ちついた色合いなので男性にも手にしやすいと思う。

プラチナ万年筆 富士旬景シリーズ #3776センチュリー春暁

プラチナ万年筆 富士旬景シリーズ #3776「春暁」 25,000円+Tax

〔追記〕
今回の「春暁」には、商品ならびにロッキー・田中氏の写真についての解説を収めたブックレットが付属しています。その巻末には「春暁」の写真が入った一筆箋が35枚綴じ込まれています。

プラチナ万年筆 富士旬景シリーズ #3776センチュリー春暁

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