文具で楽しいひととき
フィッシャー
スペースペン B-4
このペンとはじめて出会ったのは行きつけの洋服屋さんだった。
その店ではいつもボタンダウンシャツを買っている。その日もシャツを買いに来ていた。私のシャツ ショッピングは毎回同じものを買っているので、それこそコンビニで牛乳を買うくらいのスピーディさだ。レジで会計する時に、現金の持ち合わせがなかったのでカードで支払うことにした。
「では、こちらにサインを」を店員さんに言われ、さし出されたのがこのペンだった。
あぁフィッシャーのボールペンだと、そのペンがなんであるかは私もわかっていた。ただ実際に手にして書いたことはまだなかった。両手でさし出されたそのペンを受け取り、自分の名前を書いた。
「あれ、なんか違う。。。。」
劇的に違うという訳でもなかったのだが書き終わってペンを店員さんに返した後も手の中に余韻が残っていた。それ以来、このペンのことは、ちょっと気になるボールペンとして頭の片隅にずっと居座り続けていた。
その出来事から何年もたって、このたび手に入れることにした。頭の片隅にあったものが机の上に移動したという感じだ。
■ フィッシャー スペースペン アストロノート B-4
これまで「B-1」として販売されてきたものが2014年1月より「B-4」にモデル名が変わった。このペンの中に入っているボールペン リフィルは、アポロ11号の有人月面着陸の時に採用されたもの。実際に月に行ったタイプは、「AG-7」と言って、ボディがシンプルなデザイン。
今回私が手に入れた「B-4」はチェック柄を敷きつめたデザイン。
洋服屋さんで、このペンをはじめて手にした時、実は惹かれたのは書き心地よりもノックボタンの押し心地ならびにその解除の操作感だった。ボールペンのノックボタンは、これまでの人生で何回も押したり戻したりしてきている。
■ メカニカルなノックの押し心地
しかし、この「B-4」のそれは、ちょっと違うものがあった。ノックに親指を添え、押してみる。
ジョキ。。。とまるでハサミを切る時みたいな金属音がする。押し心地としては重いという訳ではない。かと言って、軽い訳でもない。バネで負荷のかかったリフィルを直接押し込んでいるような感触が親指に伝わってくる。
そして、押し切ったところでシャキとペン先が繰り出される。このノックの押し心地もさることながら、ノックを解除する時の操作感も魅力的。
■ 余韻のあるノック解除
ふつうのノック式ボールペンは再びノックすれば解除できるが、これは解除専用のボタンがある。ここを押す。ボタンを押し込むストロークはとても短い。
押すと、「ジャキ」とも「ジョキ」とも違う独特なメカニカル音を立てながらノックボタンが上がっていく。ノックボタンが上がりきった瞬間に手の中に残るショックの余韻がとても心地よい。
中のリフィルならびにノックボタンが上に戻る反動に手もほんのコンマ数ミリくらいのものだが上に持って行かれる感覚がある。これは目を開けたままよりも、目を閉じて全神経を手元に集中させて味わってみるといい。
「ショックの余韻」というものがより実感できる。この独特な余韻を生み出している内部機構は一体、どのようになっているのか気になり、確認してみた。スペースペンの特長でもあるが、ボディをねじって外す時にふつうのペンよりもたくさん回さなくてはならない。
つまり、ネジ山が長いのだ。外してノックボタンの内側をのぞき込んでみた。すると、なるほどこうなっていたかというものが見えてきた。内側にはほぼスキ間はなく、ボディサイズに合わせたピストンみたいなものがある。
まるでシリンダーの中のピストンのようだ。
ノックボタンを押し込むと、そのピストンらしきものがそのまま前に押し出されていく。ノックを押した時に、あたかもリフィルを直接押し出しているようだと感じたのは、きっとこの機構のせいだったのだろう。ハサミのようなジョキという音がしたのも中のピストンがボディの内側と触れあう音だったのだと思う。
■ やや重みのある書き心地
ノックボタンのことばかり書いてしまったが、最後に書き味についても触れておきたいペン先を紙の上に添え、そのまま走らせてみる。
やや重みのある書き味だ。重みと言っても、ペンが重いという意味ではない。たしかにオールメタルなので、それなりの重量感もあるが、とりたてて重いと感じる程ではない。
重いといったのは、ペン先の走り具合。
今や滑らか油性ボールペンにすっかりと手が慣れてしまったので、この重さはちょっと新鮮だ。ややまったりとしたボールの転がり具合がある。久しぶりにボールペンを書いていると実感できた気がする。
ノックの押し心地もそうだが、書き味についても道具を使っているということが五感を通じてひしひしと感じられる、そんなボールペンだ。
□ フィッシャースペースペン B-4(B-1)は、こちらで販売されています。
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