文具で楽しいひととき
プラチナ万年筆
#3776 西
昨年のちょうど6月の時期にもインプレッションを書かせていただいプラチナ万年筆 #3776限定万年筆。
光栄なことに今回もお声がかかり、どこよりも早く試させていただく機会を得た。これまで第一弾の「本栖(MOTOSU)」、第二弾の「精進(SHOUJI )」と書かせていただいているので、これまでの流れを踏まえてどんな点が違うかといったところを中心に紹介してみたいと思う。ご存知の通り#3776はそもそも富士山の標高を表しており、その限定は富士山のまわりに点在する富士五湖をモチーフに展開されている。
第3弾は、きっと「西湖」だろうと個人的に以前から睨んでいた。なぜかというと、前回の「精進」でインナーキャップに富士五湖のロゴが記されていた。その順番が「精進」の次が「西湖」だったからだ。私の読み通り今回のモデルは「西湖」だった。モデル名は「西( SAI )」という。
「西(SAI)」は富士五湖の中央に位置し、樹海と山々に囲まれた中にひっそりとたたずむ静かな湖。「本栖」ほどではないが美しい透明感のある水をたたえている。今回の#3776「西( SAI )」では、そうした奥深くひっそりとした透明感が表現されている。
■ 軸は、第一弾の「本栖」の時と同じ無色透明
最大の特長は、ボディ中央にあるリング、そして尻軸のリングがないことだ。
外観上クリップ以外にメタルパーツはなく、透明感をタップリと堪能できるボディとなっている。実は、この透明ボディかなり手間暇をかけて作られている。基本は通常の樹脂ボディと同じく、金型に成形用の樹脂を流し込んでいる。
ただボディの表面の艶やかさをより出すために金型の最終加工として金型の表面に「メッキ」を盛っている。「メッキ」というものは艶やかさがあるので出来上がった成型品にもそれが現れる。
通常、金型で成形したものはバフ掛けと言って研磨をするが、#3776の一連の限定ではそれを行わず、この「メッキ」を盛るという手法をとっている。透明感を出すために外側だけではだめで軸の内側にも気を配らなくてはならない。ちなみにその内側は金型を顔が映るくらいに鏡面に仕上げているそうだ。
この美しい透明感の影にはこうした手間があったのだ。
■ 透明度へのこだわり
透明度を上げるということは、一方でもし不純物などが混じってしまうと、それが見事に目立ってしまうということにも繋がる。製造工程において不純物ゼロというのは現実的には無理で、多少なりとも入り込んでしまう。
実は今回の「西( SAI )」では、製造したものの約半分はそうしたチェックにより外されてしまったという。いわゆる歩留まりがとても悪い。リングを外し美しい透明ボディにする、と文字に書くと簡単そうだが、実は、色々な苦労の上に成り立っている。
前回の「精進」にあったインナーキャップの富士五湖のプリントは今回はない。
せっかくの透明ボディを活かすということで採用しなかったのだろう。シリアル No.は
クリップの根元に彫刻されている。私がお借りしたものは「0000/3K 」となっていた。
「3K」とは3,000の意味。3,000本中の0本ということだ。お借りしたものは、あくまでもサンプルなので「0番」となっている。ペン先やペン芯など構造的には、今回は特に変更は加えられていない。
しかし、一つだけ特筆すべきことがある。それは「スリップシール機構」についてだ。「スリップシール機構」とは、キャップの気密性を高め、インクを入れたまま1年間放っておいても中のインクがドライアップせずにスラスラみずみずしく書けるというものだ。
プラチナ万年筆では、その後もひそかにこの実験を継続させていた。ネジ式キャップの#3776センチュリーを使い、インクを満タンにし、すでに1年間は放置するというところまでは行っていた。1年後に残っていたインクは72%だった。さらに1年間継続して2年後にはどれくらい残っているかがこのほど判明した。
なんと50%も残っていたのだ。これまで「1年間放置していても…」と言っていたが、それが「2年間、放置していても問題なく書ける」ということが言えるようになったのだ。
■ 顔料インクが使いやすく
この2年もの間、インクがドライアップしないというのは顔料インクがさらに身近になるということを意味する。一般の万年筆のインクは染料インクで、書いた文字の耐光性が低く水にも流れてしまう。一方、顔料インクは耐光性、耐水性ともに優れている。
ただ、万年筆の中でインクをドライアップさせてしまうとちょっと厄介という問題があった。それが、2年間放っておいてもいいというお墨付きを得た訳だ。今回の#3776 西( SAI )では、プラチナの超微粒子顔料インクの「ピグメントブルー」のカートリッジが付属される。
臆病者の私は、これまで顔料インクを使えずにいたが、これを機に本格的に使ってみようと思っている。
〔5mm方眼にB(太字)で書いた筆跡〕
それからもうひとつ今回新たに加わったものとして「中細(FM)」ペン先がラインナップされたことがある。「中細(FM)」とは、「中字」と「細字」の間くらいの細さというもの。ユーザーからの要望に応え数十年ぶりに限定モデルで復活させることにしたのだという。
限定万年筆というと、これまでにないボディの色であったり、材質など何かを新たに付け加えるというものが多かったように思う。そんな中で今回の「#3776西( SAI)」は、ボディのリングをそぎ落とし、よりシンプルに仕上げている。
限定万年筆としてはちょっと珍しい存在だ。しかし日々使う限定万年筆という点ではこれはこれでいいのではないかと思う。2つのリングを取り払ったことで万年筆の重量が1.8g 軽量化し、もともとリングがあったところの軸の直径も0.8mm 細くなっている。
わずかではあるが、軽量&スリムになっているのだ。そのせいだろうか、書き心地としても心なしかこれまでよりも軽快にペン先を運べる印象があった。
実は西湖は富士五湖の中でも2番目に小さい湖。スリムな今回の「西(SAI)」は、そうした点でも「西湖」らしい万年筆とも言える。
*「ピグメントブルー」のカートリッジ1本の他、コンバーターと顔料インクで書かれたことを示すスタンプが付属されています。
スケルトンボディに、コンバーターをセットしたところ。
一筆箋にピグメントブルーに書いて、
文末にこんな感じでスタンプを捺すという使い方もいいと思う。
ペン先は、F(細字)、FM(中細)、M(中字)、B(太字)の4タイプ。
プラチナ万年筆 公式サイト
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