文具で楽しいひととき
パイロット
カスタム823 B
私の場合、原稿を書く時は万年筆のB(太字)が最もしっくりとくる。このことが今更ながらにようやくわかった次第。何を今更そんなことを…と思われるかもしれない。自分でも相当に遠回りをしてきたなぁと思う。
引き出しの中にはすでに20本ぐらい、ペンケースにはさらに10本ぐらいも、これまで手に入れてきた万年筆がある。そのペン先は EF、F、M、B さらには Bよりも太いものもある。時間をかけてそれら1本1本とじっくりと向き合ってきて、原稿書く時にはBが最もしっくりくるということがわかってきた。
ただなんとなくいいというのではなく、絶対に B がいいという確信にも似たものすらある。酸いも甘いもかみ分けてきたからこそ、わかったという感じである。
■ なぜ原稿を書くのに B がいいのか
それは私が無意識のうちに書く文字の大きさと、 B の太さがしっくりとくるから。
私が無意識に文字を書く時、その一文字は一マスの高さである1cmに収まるくらいの大きさ。つまり、結構大きめである。
この大きさをたとえば EF や F あたりで書くと、文字の中には隙間だらけで何とも心細い。一方、Bよりも太いもので書くと所々文字がつぶれてしまう。
■ 原稿用紙のマス目から字幅を考える
ならば文字を小さく、また大きく書けばいいように思うが、原稿を書く時にいつもより文字を小さく、はたまた大きくなどと気を使っている暇はない。頭の中に浮かんでは消えるアイデアをどんどんと書きとめていかねばならない。この時、自然に書いていくことしか私には出来ない。それが先程の1cm くらいの大きさ。その大きさの文字が一番気持ちよく書けるのが B という訳なのだ。
これまでその原稿用としてペリカン M 800とパイロット823のコースを使ってきた。コースはその滑らかな書き味に惚れこんでいるのだが、いかんせん私が自然に書く文字には少しばかり太過ぎる。
そこで、このコースは原稿用ではなく一筆箋や手紙などで活躍してもらうことにした。手紙であれば、比較的ゆったりと書くので自分なりに意識していつもより大きな文字を書くことだってできる。
さて、こうして原稿にBが合うと確信できるようになったのは、個人的に大きな収穫である。今では「Bでいいのだ!」とキッパリと気持ちの整理がついた。そういえば、数年前にマンスリーダイアリーを選ぶときに7冊ものマンスリーダイアリーを買い込んで比較検討して決めたことがあったっけ。やっぱりたくさん使うことで見えてくるというものはあるんだと思う。
パイロット823のコースを原稿に使わないと決めたはいいが、このパイロット823の万年筆としての魅力は捨てがたい。
それはつまり、他のパイロットのものよりもやや重めのボディ、そしてプランジャーというメカニカル感溢れるインク吸入方法といったことだ。こうしたことに私はすっかり魅了されてしまったので、この823のBをもう一本新調することにした。今回もコースの時と同じボディカラーのブラウンを選んだ。
ペン先の区別がつくということで言えば、違う軸色を選ぶのが妥当だが、このブラウンの美しさには惹かれるものがある。まるで琥珀のようなやや渋めのスケルトンブラウン。
そのブラウンとペン先、そしてクリップなどのゴールドは同じ色調のため、溶け合うようにしっくりとくる。金のペン先は黒いボディよりも、むしろ、こうしたブラウンボディの方が似合うと思う。
書き味は、ペン先がコースから B に変わっただけなので、字が少し細くなるだけでそれほどの違いはないだろうと思っていたがそうでもなかった。
【左がB 、右がコース】
コースの方がペン先の腰のしなやかさがある。つまり、 B の方は少しばかり硬めな印象だった。これはちょっと意外だった。しかしながら、私が原稿を書く時というのはいわゆる「殴り書き」状態で、ペン先のしなりを味わっている暇などほとんどない。私は今回の823 Bを無調整のままの状態で購入した。ペン先をルーペで見てみると、予め面が作られている。
しかし、その面の位置が気のせいかもしれないが、私が書くスタイルとちょっと違うような気がした。これは、ペンを少し立てて書く時に、そのペン先の面がピタリとくるように感じた。私は結構ペンを寝かせて書く方なので、その面の少し下側を使って書いているような感じがする。
とは言っても、ザラザラする訳ではなく、B ならではのスムーズさがある。
ちなみに、フルハルターさんで研いでもらったコースは、結構ペンポイントの下の方までツルリと仕上げられている。
今回この823 B を手に入れようとしたのには一つ理由があった。実は、今5冊目となる新しい本を書かせていただいている。いつもなら1冊の本を書き上げた自分へのご褒美に万年筆を新調していた。しかし、今回は気分を少し変えて、その本を書くために新調することにした。
先程、書き味がほんのわずかだがまだ自分の書き味にしっくりと来ていないと言ったが、この本を書いていく中で少しでも馴染んでいけば、それはまた本の完成時のひと味違う自分へのご褒美となるかもしれない。そんなことを夢見ながら今は黙々とこの823B と向き合っている。
■ 記事作成後記
823 Bで書き込んだ本の草稿もおおかた終わりつつあります。ただ、ペン先の具合はほんの少しだけ、私の癖を覚え込んでくれたかなという感じです。まだまだ書き込みが足りないようです。。
私は、今回のパイロット カスタム823 B をアサヒヤ紙文具店さんで購入しました。
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