文具で楽しいひととき
ラミー
スカラ
昨年発売されたラミーの本の中で、商品名だけが先行して発表されていた新作の「スカラ」。
2月下旬、日本代理店の DKSH ジャパンの発表会で初お披露目された。ここ数年のラミーの新作というと、「ノト」と「イコン」がある。そのいずれも、初めて目にした時はあまりのシンプルさにやや拍子抜けしたの私自身もよく覚えている。
しかし、そうしたペンも正式に発売され、だんだんと時間が経過するにつれ、そのよさがしみじみと伝わってくるというタイプだった。バウハウスには「流行を追いかけない」、「時間軸で考えない」という考えがあるそうだが、まさにそれを体現しているのを感じる。
■ ジーガーデザインによるデザイン
今回の「スカラ」のデザインはドイツのデザイン会社、ジーガーデザインによるもの。2人の兄弟を中心に活動をしており、これまで主にキッチンツール分野で活躍してきたという。
プロダクトデザインだけでなく、自らの「ジーガーデザイン」の名でアパレルブランドも展開している。ラミーのペンをデザインするのは今回が初めてとなる。商品名の「スカラ」は、ミラノのスカラ座からとっているという。オペラのように、このペンを持つ人を魅了するという想いが込められている。
ちなみに、ラミーでは、ペンに名前をつける際は、ちょっとした決まりがある。それは、どの国の人にも発音しやすいく、しかも短い商品名であるというものだ。たしかに「ピコ」、「サファリ」、「ティポ」など、言われてみると、たしかにそうなっている。
さて今回の「スカラ」の第一印象はどうだったか。これが、「ノト」や「イコン」と違って、初対面からすんなりとNEWモデルのペンとして受け入れることができた。「スカラ」を見て、私はこう感じた。
■ ラミーらしさが随所にある
「ラミー2000」、「ロゴ」、「ステュディオ」という、ラミーのいくつものペンの要素がほどよくミックスされている。では、そのディテールを見ていくことにしよう。その前に「スカラ」の商品構成から。「スカラ」には万年筆と油性ボールペンの2タイプがラインナップされている。
個人的には万年筆の方に惹かれるものがあったので、万年筆をベースにご紹介していきたい。
マットブラックとツヤツヤと輝きを放つクロームとの対比が美しいツートンボディ。手にすると、思っていたよりも軽量であることに驚く。
人間の目は結構よく出来ていて、その物を手にする前から、その材質の大方のところが想像出来てしまう。「スカラ」からは、樹脂という素材感はあまり感じられず、メタルというものが見た目にも触る前の肌感覚という面からも伝わってきた。
そう思っていたので、この軽さはちょっと意外だった。商品スペックを見てみるとたしかにオールステンレス製とある。そのボディの大半を覆っているブラックの部分はマットな質感となっている。しっとりとした触り心地でちょっとサラサラとしたラバーのようだ。
再び資料に目を移し、スペックを確認してみると「ラッカー仕上げ」とあった。つまり、ラバーではないということだ。この「ラッカー仕上げ」、そういえば、ラミーピコのマットブラックにも採用されている。たしかに、握った時の感触には同じものがある。
そして、この「スカラ」で最も印象的なのがクリップ。
ボディからグラマラスなクリップが張り出している。
一般に、ペンのクリップというと、ペンのトップ部分から少しばかり下の所から張り出しているものだが、これはペンのトップ部分から出てきている。しかも、ペンのトップとクリップのトップが完全にフラットになっている。
この独特な張り出し方をしたクリップ、ラミーの「ロゴ」を思い起こさせる。
結構大胆にクリップが張り出しているが、とって付けたという感じは微塵もなく、ボディにすっかりと溶けこむように馴染んでいる。ボディのメタル部分とクリップの付け根がピタリとあっていることもあり、その二つのパーツは、まるで一つの素材から削り出されたかのような一体感がある。
そのクリップの先端を見てみると、ラミーファンにはうれしい「ラミー2000」のクリップを彷彿とさせるフォルムをしている。もちろん、ステンレス製無垢クリップだ。しかも、このクリップがバネ式を採用しているというからたまらない。
それを確かめるためにクリップの根元の部分を上から押し込んでみた。しかし、これが一向に動かない。今度はクリップの先端をつまんで持ち上げるようにしてみると、この場合は広がっていく。
この時、ボディとクリップにすき間が生まれてクリップが広がっていく。ちなみに、「ラミー2000」のクリップではクリップを広げた時、こうしたスキ間はできず、クリップの根本が沈み込んでいく。
同じバネ式でも違う方式をとっているのだろうか。DKSH の方によると、「スカラ」では、このバネ式クリップに最も力を入れて作ったという。具体的には、クリップとペントップをフラットにし、同時にボディとクリップの接合部分も一般のペンよりも結構長めになっている。これにより、とても美しいクリップに仕上がっている。しかし、これらを保ちつつ、バネを搭載するのは、とても難しかったという。
また、先ほども触れたが、「ラミー2000」のバネ式クリップでは、クリップを広げると、根元がボディの中に沈み込んでいく。その沈み込みをスムーズにするため、ボディに作られるクリップの溝はどうしても少し横幅に余裕を持たせたものになる。このためクリップの先端を左右に動かすと、多少のガタツキが出てきてしまう。「ラミー2000」をお持ちの方なら心当たりがあると思う。
これはある意味でバネ式クリップの宿命とも言えることなのだそうだ。しかし、「スカラ」では、この点を大幅に改良している。試しにクリップの先端を左右にも動かしてみたが、全く動かないという訳ではないが、「ラミー2000」の時よりも格段に少なくなっている。
これはあくまでも私の個人的な憶測となるが、「スカラ」のバネにはコイル状のものではなく、板バネのようなものが使われているのではないかと思う。だから、クリップの根元をしても動かなかったのではと睨んでいる。これは、DKSH の方も詳細はわからないということだった。いずれにしてもラミーらしさがタップリと味わえるクリップだ。
キャップを開ける前にもう1ヶ所だけ触れておきたいところがある。それはキャップとボディの接合部。
うっかりしていると見過ごしてしまいそうになるが、ここに1mm にも満たないわずかな隙間がある。この隙間、ペンを目の前に持ってきて真正面から見ないと確認出来ない。その隙間からキラキラと輝くパーツが覗いて見える。おそらくラミーのことだから、これも全て計算づくでデザインしたのだと思う。キャップは引っ張って外すタイプ。
外してみるとクロームグリップ、そして、同じくクローム仕上げのペン先が現れる。
先程キャップの繋ぎ目の隙間からキラキラと見ていたのはこのグリップ部分だったのだ。このキラキラとしたクロームグリップのフォルムが「ステュディオ」の万年筆に似ているような気がする。キャップを外したままでもボディは十分な長さがあり、この状態でも筆記できる。
でも、せっかくの軽量ボディなので、私はキャップを尻軸にセットして使ってみたい。この方が全体的なプロポーションも美しい。
では、次に書き心地を。クロームグリップを握ってみる。
クロームが指先にまとわりついてくるフィット感が心地よい。先程、似ているといった「ステュディオ」より「スカラ」のグリップの方がやや細いという。そのせいか、握ったときの収まりの良さを感じる。これなら、男性だけでなく、女性の手にもしっくりときそうだ。個人的には万年筆の時はボディの中央よりを握り、かなり寝かせて書いている。そのようにしてみると、マットブラックの部分が指先にくる。
これはこれでマットな握り心地でいい。
キャップを尻軸にさすと、結構なロングボディとなるが、全体的に軽量ということもあってバランスは悪くない。
その軽さに誘われて、軽い筆圧でサラサラと書いていける。ペン先はスチール製。軽いと筆圧もそんなに必要がないので、ペン先のしなりがない、ステンレスペン先との相性は、むしろ良いように感じられた。
細かく見ていくと、「ラミー2000」、「ロゴ」、「ステュディオ」など、これまでのラミーのペンのエッセンスを取り入れているの感じるが、改めてその全体像を眺めてみると、決して何か似ているという感じはしない。それこそが、この「スカラ」らしさということなのだと思う。
■ 記事作成後記
「スカラ」のもう一方のタイプ、油性ボールペンの方も少しばかりを紹介しておきたい。
ラッカー仕上げ&クロームのツートンボディ、そしてグラマラスなバネ式クリップは共通。ペン先はツイストすると繰り出される。そのツイストの位置が少し変わっていて、クリップの先端、つまり中央よりもやや後ろ側になっている。
ボディの繋ぎ目は、そもそも見分けがつかないくらい同化しているが、それをさらに後ろ側に持っていって目立たなくしているのだろう。年末には、この2本の他にローラーボールタイプの発売も控えてるという。こちらもキャップ式ではなく、ツイスト式の予定。そのツイストの位置がさらに後側に下がってクリップあたりになるという。DKSH の方によると、このツイストとする時になんとクリップが途中から分かれるという仕組みも検討されているとのこと。
こちらも発売が楽しみだ。
ラミー スカラ
ラミー公式サイト
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