文具で楽しいひととき
ぺんてる
スマッシュ
■ 書き味は五感全体で感じるもの
ペンの書き心地というものは、ペン先が決める部分が大きい。
滑らかに書けるとか、ちょっと書き応えがあるといったペン先の個性が書き味に大きく影響する。しかし、このペン先だけが書き心地の全てを決めている訳ではない。その書き味を支えるものにはペン先の安定感であったり、グリップの握り心地、ペンの重さ、長さ、さらにはペンを手にした時の質感や全体的な見た目といったものもある。五感を通じてそうしたいろんな情報が脳に送られ全てが重なりあって総合的に判断しているのだと思う。(たぶん。。)
このスマッシュは、その要素の中で「質感」という点で他のペンにはないものを持っている。その質感を支えているのがボディに使われている様々な素材。
メイン軸は、プラスチックが使われている。そのプラスチックも見るからにプラスチックという感じがあまりしない。
表面は細かなザラザラ加工が施され、指先を滑らせるとザラザラとツルツルのちょうど間くらい。厳密に言うと、ややザラザラよりの質感。
■ ポンプのようなラバーノック
その上にあるノックボタンはラバー素材となっている。
サイドにはポンプのようなヒダヒダがあり、これをポイと渡されたら、誰もが押さずにはいられなくなるというフォルムである。
ノックの押し心地は、いつものぺんてる製図シャープペンにある、やや重め、そしてノックストロークに遊びがない精巧なつくり。ノックをするとポンプのヒダヒダがしっかりと縮んでくれる。
このノックボタンのスタイル、どことなくラミーサファリのボールペンを想い起こさせる。ノックボタンから一転して今度はペン先に目そして指先を移してみる。
私はペンの中でもっともこだわるべきデザインポイントはペン先であると密かに思っている。ペン先は私たちが文字を書くときに常に視界に入る重要な部分である。
■ グリップと一体化したペン先
ここが美しいとその美しさに呼ばれてキレイな文字が書けそうな予感がする。。。では、このスマッシュのペン先をそうした視点で見てみよう。これが実に美しい。他のシャープペンにはない独特な美しさがある。グリップからペン先に行くにしたがい、優しくなだらかなラインで繋がっている。そこには口金と言われるペン先部分はなく、グリップと一体化してしまっている。思わずウットリと見とれてしまうほどだ。
指先で触れてみると表面はラバーのようなマットな質感。表面は確かにラバーであるが、これが押し込んでも凹まない。しっかりとした硬さがある。試しに分解してみると、ベースとしてはメタル素材であることがわかった。机の上にこのペン先部分だけを転がしてみると、メタル製独特なコロコロという音がした。
再びペン先パーツをペンに戻して、スマッシュの一番の楽しみな部分に話を移してみたい。
■ 指先を受け止めてくれる飛び出したラバー
それは、ボコボコと飛び出したグリップ。
グリップの表面には2mm 角ほどのラバーが「小さく前ならえ!」をしたようにキレイに一列になってグルリと6列並んでいる。その一つひとつのラバーたちはグリップのベースから1mm にも満たないくらいだが、わずかに飛び出している。
先程のノックボタンでは、ノックせずにはいられなかったが、このグリップは見ているだけで握らずにはいられなくなる。やさしい心もちで指の腹をグリップにそおっと添えてみる。すると、まずラバーたちが優しく迎え入れてくれる。
次に指に少しばかり力を入れて握ってみる。今度はラバーたちが凹んでいく。その凹み具合が全て一緒ではない。あるものは完全にしゃがみこむようにへこみ、あるものは中腰くらいにへこむ。一つひとつのラバーにまるで意思でもあるかのように。
つまり、このメタル&ラバーの凹凸グリップは、力の入れ具合に応じてそれをフレキシブルに受けとめてくれるものなのだ。このグリップを耳元に近づけて、力を入れた指をゆっくりと離してみる。すると、「プチプチ」という音がかすかに聞こえ、しゃがんだり中腰になっていたラバーたちが元に戻っていくのが耳で確認できる。
私は何だかとっても幸せな気分に包まれてしまった。ちなみに、このグリップは「F3構造」という名前が付けられている。「F3」とは、「Fits Fingers Finely」。つまり、指先に心地よくフィットするグリップという訳だ。
ペン先の一番先端のパイプを見てみると、ここだけシルバーになっている。
ボディ全体がオールブラックの中でここだけシルバー。この際だから、ここもブラックにすればと思ったが、いやいやここはシルバーでなくてはならないと合点がいった。なぜなら、もしここもブラックにしてしまったら、芯がどれくらい出ているか確認しづらくなってしまう。
このスマッシュは、4mm のスリーブ、取り外せるクリップ、そして芯の硬度表示という製図シャープペンとして備えるべき三拍子がしっかりと揃っている。しかし、このスマッシュはぺんてるでは製図シャープペンとしては位置づけていないそうだ。
製図シャープペンクオリティを普段使いできるというポジショニングらしい。とは言っても抜かりなく作り込まれていて、たとえば芯の硬度表示の部分。この芯の硬度表示は一般的にノックボタンの近辺にあるものだが、スマッシュではグリップのすぐ上にある。ここは握るところにもなるので、硬度表示を仮に触って表示の窓が動いてしまわないように完全にロックされているという念の入りよう。
表示を替えるには、グリップ部分を一旦緩めなくてはならない。
窓のパーツがカチカチと動く仕組みになっている。
私はこのスマッシュを手に入れてまだ1ヶ月ちょっと。そんな短い期間だが、使ってみて自分との相性がとてもいいのを感じた。なぜかわからないが、このスマッシュで書くといつもよりも私の文字がキレイに書いていける。
これもペン先の美しさ、そして独特なグリップのおかげなのだろうか。
ぺんてる スマッシュ シャープペン
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