文具で楽しいひととき
パイロット
カスタム74
今、私の中でちょっとしたマイブームがある。それは、1万円、厳密にいうと10,000円+消費税ということになるのだがその価格の万年筆を買うこと。もちろん、それ以上の価格帯の万年筆にも魅力を感じる。しかし、そうしたものとはちょっと違う魅力が1万円万年筆にはあると思っている。私は、なにかを買う時極力そのシリーズの中で低価格のものを選ぶようにしている。
■ 一点に研ぎ澄まされている
もちろん、お財布に優しいという理由もあるが、それだけではない。それは、その商品の本質の部分がタップリと味わえるから。考えるにメーカーにとって、限られた予算の中で一つの完成されたものを作るのはすごく大変な作業であるはずだ。低価格で良いものを作るにはあれもこれもと欲張りにいろいろな機能をつけることは出来ず、「よし、これだけに特化しよう!!」というものにおのずと絞られていく。
別の言い方をするならば、ある一点に研ぎ澄まされていくといった感じ。シリーズの低価格を選ぶと、その「研ぎ澄まされ感」というものがとても感じられる。私はこういうのが、とっても大好き。
車もいろいろと装備がついているハイグレードのものではなく、最低限のものにして、味わっている。低価格タイプというと、ともすると安いというイメージしがちだが、一方では、そのシリーズ全体のコアとなる部分がより際立ったモデルであるともいえる。これは全くもって私の勝手な解釈なんですけどね。
さて、そういう観点で万年筆を見てみると、日本の万年筆には、10,000円モデルというものがしっかりと用意されている。しかも、そのラインナップにかなり力を入れているようにも感じる。今回は、その中でパイロットのカスタム74を取り上げてみようと思う。
私自身、2年くらい前から愛用し一昨年、中学に入学した長男へのお祝いにもプレゼントしたモデル。この「カスタム74」の「74」、一体この数字にどのような意味が隠されているのだろうか。そういえば、パイロットのカスタムはこの74をベースに、「742」、「743」というシリーズもラインナップをしている。
■ 創業74周年にちなんで
「74」という数字にことの他深い思いが込められているに違いない。そこで、パイロットコーポレーションの方にその点をお聞きしてみた。その方によると、この「カスタム74」はパイロット社創業74周年の時に誕生したということで名付けられたという。なるほどそうだったのかと、一つ謎が解けた。発売は1992年12月今から18年前ということになる。
私が愛用している「カスタム74」は、ボディがスケルトンのタイプ
ボディのサイズは太すぎず、かといって頼りない細さということもなく、ちょうどよいい。自然に手にすることができる。
この「ちょうどいい」、「自然」というのは言葉にしてしまうとすごく当たり前だが、使い手にあまり意識させないサイズ感というのは、作る上では、結構難しいと思う。このカスタム74の隣に742、743を並べてみると数字が大きくなるに従い、ボディの長さもそれに歩調を合わせて大きくなる。
【左から カスタム74、742、743】
そして、ペン先も74が5号、742が10号、そして743が15号と、やはり大きくなっていく。
ペン先は大きくなるほど当然値段も張るが、大きければいいとも限らない。大切なのはバランス。74は程よい大きさに程よいペン先がついている。ボディバランスは、ちょうどよいと思う。
私の持っているものはスケルトンなので、普段はあまり伺い知ることのできない中の様子も垣間見ることができる。なるほど、こうなっていたのかと思ったのはキャップの内側の作り。
1万円の万年筆と言えどもキャップの中にももうひとつのキャップ、「インナーキャップ」がついている。ペン先をキャップにクルクルとネジって収納していくとこのインナーキャップに、ペン先の根元からピタリとセットできる。
これにより収納時にペン先が乾燥するのを防いでくれている。いつも初めからみずみずしい書き味を楽しむことができる。細かなところでは、インナーキャップの少し手前には、等間隔に筋のようなものが見える。
これは、尻軸にさしこむ時にキャップがしっかりと固定できるためだ。パイロットのカスタムにはどのシリーズにも、尻軸のほとんど同じ位置にクルリと金属のリングがついている。
■ 尻軸にピタリとセットできるキャップ
そのリングのところに指をはわせると、このリングの部分だけがボディの面より少しばかり盛り上がっているのがわかる。先程のキャップの筋は、このリングで固定されている。
つまり、このリングと筋によって、キャップの固定を担っているわけだ。そんなことはどうでもいいから書き味に進んでくれよ、という声があちらこちらから聞こえてきそうだが、もうちょっと語らせて欲しい。。もうちょっとで終わりますから。。
つまりですよ。単に 尻軸にカプリとキャップをかぶせるのではなく、リングでもって支えているということは、書くたびにキャップを抜き差ししたとしても尻軸り周辺にあまり傷がつかないということになるのではないだろうか。
長く使っている742の方を確認してみると多少の擦り傷みたいなものはあるが、確かに、傷は少ないように感じる。
さぁ、お待たせしました。では書き味にいってみましょう。キャップを尻軸にセットし、ボディのややペン先側を優しくつまみ書いてみる。
■「普通」という気持ち良さ
もう私は、2年もこのカスタム74を使っているが、その書き味を一言で言ってしまうならば、「ふつうに気持ちいい」ということ。いつ書いても、かすれもなくササッと必要なことを書きとめられる。ペン先はやや固めな印象。
この硬さは、カスタム74は発売された1992年当時の日本人の書き味にあわせて作られたという。当時はボールペンやシャープペンが普及していた時代。多くの人たちの筆圧は強くなっていたという。と同時に、日本人の筆記がすっかりと横書き中心となっていった時代でもあった。
そうした時代背景もふまえてやや硬めでそれでいて弾力性のあるペン先を新開発したという。なるほど確かに、硬いタッチながらも、少し筆圧をかけると、ペン先側だけがややしなる。ふとした瞬間につい手にすることがこのカスタム74であることが多い。
きっとそれはボールペンやシャープペンで書いていてもそのモードのまま書けるからなのだろう。
万年筆であるということを必要以上にすることなく、自然に書くことができる。あまりにも「自然」なので、このよさは1年から2年としばらく使わないとなかなかわからないものかもしれない。
* パイロット カスタム74
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