文具で楽しいひととき
Düller
万年筆 by ディートリッヒ・ルブス
久しぶりに、デザインにいちころになってしまった。第一印象もとてもグッときたのだが、そのデザイナーが誰であるかを知るともうこうしてはいられないという状態になってしまった。そのペンとは「Düller」の万年筆。これは「デューラー」と読む。「Düller」はイデアインターナショナルが展開するステーショナリーブランド。コンセプトはドイツのバウハウス。
これまで、ボールペンやシャープペン、ノート、筆ペンなどを送り出している。余計なものをそぎ落とし、機能美を追求したデザインが全てに貫かれている。また、この「Düller」では、これまでステッドラーとコラボしたモデルを出すなど、本国ドイツとの取り組みも積極的に行っている。
■ BRAUN ディートリッヒ・ルブス氏
そして、今回のペンでもドイツとのコラボが実現している。ドイツを代表するデザイナー、ディートリッヒ・ルブス氏とのコラボだ。この方の名前をもし、ご存知ないという方でも、デザインされたプロダクトならきっと目にされたことがあると思う。
ルブス氏は1962年にブラウンに入社し、数々のプロダクトデザインを手がけてこられた方だ。代表的なものは、電卓そして、今も販売されているAB1等のクロックシリーズである。ちなみに、電卓の方は大変残念ながら現在は廃盤となってしまっている。
御年71歳となるディートリッヒ氏はすでにブラウンを定年退職されている。現在はブラウンのアドバイザーを務めておられるが、実際のデザインは、今は行っていないという。
ちなみに、ルブス氏は、これまでブラウン社以外の仕事をしたことがなく、今回のDüllerのペンシリーズがはじめてとなる。海外メディアでは、「ルブス氏復活!」と取り上げているところもあるという。
ペンの話しに入る前に、まずは、パッケージから説明しなくてはならない。それほどにこだわったパッケージになっているのだ。このパッケージ、見てのとおり、ノートブックスタイルをしている。
ハードカバーで、見るからにしっかりとした作り込み。そして、期待を裏切らないのが、表紙を開けると、中身もちゃんとノートになっているところだ。
1ページ目には、このペンをデザインしたルブス氏によるメッセージがドイツ語で綴られている。内容をかいつまんでご紹介すると、
「Düllerは、世界に通用する新しいデザイン手法に一貫して則っています。これにより、カラフルなプラスチックや行き過ぎた高級筆記用品などの世界と離れ、Düllerの筆記用品を機能的にデザインすることが可能となりました。味のあるデザインや独創性、そして高度な製造品質が特徴です。」
ということが書かれている。
そして、すでに皆さんの目にも入っていることだろう、ペンがノートの中に埋め込まれている。このペンの為に、特別に誂えられたかのようにピッタリと万年筆が収まっている。
これはもう「セミオーダー」ではなく、「フルオーダー」と言うべきピッタリ具合である。あまりにも、ピッタリと収まっているので、このペンをどうやって取り出せばいいのかあたふたと、してしまった。隙間がないので、指をいれようにも無理なのだ。
なんのことはない。上からほじくり返さなくても、ページをめくればいいのだ。
全てのページには、このペンの為にキッチリとくりぬかれている。がさっとページをつかみ、それを拡げれば、目的のペンを手にすることができる。
■ 存在感のあるショートサイズボディ
では、いよいよ、ルブス氏がデザインしたこの万年筆を見てみることにしよう。
「ブレットペンシル」と呼ばれる弾丸のようなスタイルのペンがあるが、この万年筆はちょうどそれくらいの短さ。
おもわず「ブレッドペンシル」と言ってしまったが、私がそう思ったのは、この短さのせいだけではない。ボディの後ろ側が、やや細くなっているということもあったため。短いうえに、ボディもそれほど太くない。
スペック上で見たら「コンパクト」なペンということになるだろう。しかしながら第一印象としては「コンパクト」という形容よりは、むしろ「存在感」という言葉の方がしっくりとくる。
ディテールにこだわり抜いたデザインになっているのだ。ボディの材質は、アルミニウム。手に取るとアルミらしいざらざら感の代わりに、サラサラとした質感が指先にやってくる。表面にはブラックのマット塗装がされているからだろう。
■ ブラックとグリーン
当然アルミということで軽い。日々の実用道具として気軽に使えそうな親しみのようなものを感じる。全面マットブラックの中で要所要所にシックなグリーンが使われている。イデアの方によると、このグリーンは、ルブス氏がブラウン時代にデザインした電卓にあったボタンのグリーン、そしてクロック(AB1A、AB5など)の頭についているアラームボタンのグリーンがベースになっているという。
ちなみに同じデザインのボールペンとシャープペンもあるのだが、それらのグリップにあるギザギザ加工では、当初、ルブス氏からブラウンのオーディオに使われていたボリュームのつまみのギザギザと同じスタイルにしてほしいというオーダーがあったそうだ。
今回のペンでは、残念ながらそこまでの作り込みは出来なかったという。いずれにしもてブラウン好きには、なんともたまらないディテールだ。ペンの中で顔というべきクリップに目を凝らしてみると、シンプルながらオリジナリティあふれるフォルムをしている。クリップを上から見ると、端から端まで実直に伸びている。
クリップには先ほどのグリーンが使われていて、ボディに配置されたグリーンのアクセントとピッタリと息を合わせるかのようだ。今度はそのクリップをやや横から眺めてみる。
特長的なのは、クリップの先端の形。先端がスプーンのようにカーブを描いている。
新しいデザインのようにも、古くから伝わる何かの道具のようにも見えてくる。いずれにしても美しさを感じる。クリップの厚みは約1.1mm と、クリップにしてはやや厚めの部類に入る。一般的なクリップと違うところはクリップの両端を折り返すという加工はあえてとらず、細いながらも鉄板のままになっている点。
それにより、厚みのあるクリップであることが一目でわかるので、クリップの頑丈さというものがとても伝わってくる。このクリップもボディと同じアルミ製なのだろうか。どことなく真鍮製のようにも感じる。
マットブラックのボディの中で1ヶ所だけ、「Düller」のロゴマークがある。そこだけはツヤツヤとした加工になっている。その奥ゆかしさがいい。
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(心の中のつぶやき)
あぁ、キャップを開ける前だというのにもう、こんなに書いてしまった・・・。
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では、いよいよキャップを外してみる。一瞬、どこからキャップを引き抜いていいのやら戸惑ってしまう。それくらいボディは一体感があるとも言える。目印は、後軸にあるグリーンのアクセント。
精密に作られたそのつなぎ目をまっすぐ引っ張ると、「シュッ。。」という小さな音とともに外れる。
■ キャップが後軸にピタリと収まる
キャップを外した状態では到底筆記出来ないので、キャップを後軸にセットすることになる。このキャップをセットするのが実に気持ちいい。
ペンの後軸は、一段細くなっており、それまで全く気づかなかったのだが、その段差には、とても狭い隙間がある。
そこにキャップの口がスウ~ピタッとはまる。 ちょうどパズルで最後のワンピースをパチリとはめこんだ時のようなピッタリ感に包まれる。すると、そのつなぎめはほぼフラットになる。この状態で、ペンを机の上に置いてしばし眺めてみる。
全体のバランスがとてもとれている。キャップからボディ中央までは、やや太めのラインになっているが、手にするグリップの所へくると、あくまでも自然に細くなっている。そして、先端には「私は万年筆です」と誇らしげに金色のペン先がついている。先程まで短かったボディとはうって変わって書くためのフォルムへと変身を遂げている。
インクはカートリッジのみの対応。カートリッジは小さいタイプ。
さて肝心の書き味は、どうだろうか。
■ 硬質な書き味
ボディが長くなり、すっかり筆記体勢になっているそのペンを手にとり、こちらも筆記体勢へと入る。スチール製ということもあってか硬めなタッチ。
日頃ボールペンに馴染んでる方にもおそらくすんなりと手にすることができるだろう。ペン先にはドイツのシュミット製のものが使われており、私の手にしているFはヨーロッパのものにしては、やや細い印象。
インクフローは、すこぶるいいとまではいかないが、まずまずといったところ。
このペンの良さは、ペン先というよりも、アルミで作られた静かなる美しさをたたえたボディ、そしてその軽快さにあると思う。ブラウンの電卓やクロックも日々の生活の中で使うものである。これもやはりそんな使い手に必要以上にデザインを意識させない配慮を感じる。
しかし、フト見た時に「あぁ美しい。。」とも感じられる。そんな万年筆である。
Düller 万年筆 by ディートリッヒ・ルブス
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