2007.09.25(139)

「段のあるペン先」

ナミキ

ファルコン 万年筆

ナミキ ファルコン 万年筆

今、発売されている「趣味の文具箱Vol.8」の中で、「銀座 ペンロード散歩」という企画があり、その散歩役を仰せつかった。銀座界隈に立ち並ぶ文具店を1店1店電車に頼ることなく、自分の足で歩き、そして、あわせて自分の目と手で色々な文具を見てまわるという企画。

この雑誌が秋発売ということで、取材中は8月のさなか、長袖に上着という服装で回らなければならないということを除けば、色々な文具を見ることができるのだから、それはそれは楽しい取材だった。

店に入ると、はじめのうちは仕事モードで臨んでいるつもりなのだが、あれやこれやと見ているうちに、いつしか個人的買い物モードに突入してしまっていた。そんな調子で取材をしている中、ライカなどのカメラをはじめ男のこだわり趣味アイテムがわんさとある、レモン社さんで見つけたのが、このナミキ ファルコン。さすがに、取材中に買うことが出来なかったので、先日、文具仲間の面々と買いに行ってきた。

■「エラボー」の輸出モデル

ナミキ ファルコン 万年筆

「ナミキ ファルコン」と聞いて、ご存じの方も多いと思う。以前、全国万年筆専門店会とパイロットが共同開発した「エラボー」という万年筆があった。「エラボー」とは、なんともユニークな名前だが、その意味には、皆さんもお察しのとおりの「この万年筆を選ぼう」ということと、それから、これはパイロットの方にお聞きしたのだが、英語の「Elaborate(エラボレート)」の「精巧な」という意味も込められているそうだ。ちなみに、「Elaborate」には、「苦心して作り上げる。」という意味もある。

その「エラボー」は、今は日本では販売されていないが、海外で、「ナミキ ファルコン」の名で今も販売されている。つまり、「エラボー」の輸出仕様ということになる。

■ 緩やかに盛り上がったペン先

このファルコンの最大の特徴は、ペン先の形状。ペン先の中程から緩やかに盛り上がって段のようになっている。

ナミキ ファルコン 万年筆

ファルコン(Falcon)とは、鷹やハヤブサの意味があり、なるほど、くちばしから頭にかけた勇ましいスタイルのようだ。

ナミキ ファルコン 万年筆

ペン先には、「NAMIKI」の刻印が燦然と輝いている。「いつかはクラウン」ならぬ、「いつかはNAMIKI」とあこがれている身としては、この刻印が何ともうれしい。

ナミキ ファルコン 万年筆

これ以外14Kなど最低限の情報しか刻印されておらず、とりたてて装飾的なものは施されていない。あえて、余計な刻印をなくすことで、この滑らかな段がより強調されている。ペン先はあまり手でさわるものではないと思うが、この滑らかさを前に、どうしても我慢ができず触ってしまった。見た目どおりの滑らかさがあり、とても気持ちいい。

このファルコンには、F(細字)、M(中字)、B(太字)の3種類がある。なお、ペン先の刻印はそれぞれ「S」が頭について、「SF」「SM」「SB」となっている。この「S」はSOFTの意味。私は、今回「SB」、つまり「柔らかな太字」を選んでみた。では、その柔らかさを堪能してみよう。

ナミキ ファルコン 万年筆

■ 節度あるやわらかさ。。

私はそんなに筆圧が強いほうではないが、そんな私でもその柔らかさをしっかりと感じることができた。その印象を一言で言うならば、「節度ある柔らかさ。」という感じだ。むやみやたらにしなるのではなく、適度な柔らかさというものがある。

ペン先の根もとは一般的なスタイルで、途中からグワッと盛り上がっている。この段のある部分だけが、気持ちよくしなってくれる。軽い筆圧でもしなりが味わえ、しっかりと筆圧をかけて書けば今度は、それ相応の柔らかさでもって応えてくれる。書いているこちらの意をくみ取ってくれているような書き味がある。あとを引く書き味だ。

ナミキ ファルコン 万年筆

ナミキ ファルコン 万年筆

私は、まだ使いこなせていないが、きっとこのしなりを力加減ひとつで操れるようになると、トメ、ハネ、ハライの効いた美しい日本語が書けるようになる気がする。

また、インクの出がとてもいい。ペンを横からみると、ペン先のふくらみに対して、ペン芯は一カ所だけ角度がついているものの基本は平らになっている。きっとこの部分に、インクが今か今かと出番を待っていて、書き出すと待ってましたとばかりに出てくるのだと思う。特に私の使っている太字のBだと、インクは結構みるみる減っていく。

ナミキ ファルコン 万年筆

よく買ったばかりの万年筆は、それまで持っていたものよりちょっとえこひいき心が生まれて、ついつい新しいものばかりを使ってしまいがちだが、このファルコンはその新しさを差し引いても、私の中で、いきなり上位にランクインを果たしてしまった感がある。

ボディの中でひとつだけ触れておきたいのが、クリップ。パイロットと言えば、あのまん丸の玉のクリップがトレードマークだが、今回のものには、そうしたものがないスッキリとしたスタイル。

ナミキ ファルコン 万年筆

このクリップを横から見てみると、まるで刀のように優しくしなっている。ポケットにさしてみると、このしなり、特に挟み口がやや一般のものよりも広がっているので、付け外しがとてもスムーズに行える。

アンダー2万円でこうした本格的な書き味が楽しめる万年筆に出会えて、私のペンロード散歩は大収穫だった。暑い中、長袖を着込んでまで歩き回った甲斐があったというものだ。

ナミキ ファルコン 万年筆

パイロット エラボーの方ですが、こちらで販売されています。(SB太字)

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