文具で楽しいひととき
ペリカン
ペリカンのペンを愛用している人は多いと思う。
私のお気に入りはM800。私の手の大きさにピタリときて、たっぷりとした太軸ボディを優しく握ると大らかな気持ちで書いていける。万年筆で書くっていいものだなとM800を持つたびいつもそう思う。
ところで、このM800の「M」とはどういう意味か、ついこの間まで私は知らなかった。ちなみに、Mにはたとえば、300、400、600、800、1000などがあり、いずれも万年筆である。万年筆好きの友人と「M」はきっと「万年筆」の「M」だよ、などと冗談を言ったりしていたが、実のところ私もその人もちゃんとした意味を知らなかった。ペリカンにはボールペンの「K」、シャープペンの「D」というのもある。その関連性がさっぱり分からない。
先日、万年筆のイベントでペリカン日本の方に、そこのところをお聞きしてみた。なるほど!という理由だった。
■「M」は吸入万年筆
これらの記号は、それぞれのペンの特徴を表すドイツ語の頭文字をとったものだったのだ。まずは「M」からいこう。
Fullhalter(万年筆)mit(備えた)Mechanik(機械)
つまり、機械を備えた万年筆。ここで言う、機械とは吸入機構のことである。万年筆の頭文字の「F」ではなく、あえて機械の「M」をとっているのだ。というのも、このあとで紹介する別なタイプの万年筆と明確に区分けする意味があるのだろう。個人的には、ペリカンの吸入メカが好きだ。尻軸はとても軽やかにスムーズに回転していく。このメカはすばらしいと吸入の度に感じる。
そのメカの「M」ということで、納得感もある。
■「P」はカートリッジ式万年筆
ペリカンには、吸入機構を持たない万年筆もラインナップしている。それらを「P」なにがしと呼んでいる。
Patronen(カートリッジ)fullhalter(万年筆)
ドイツ語でカートリッジは、「Patronen」というそうだ。その「P」をとっている。「吸入機構」に対して「カートリッジ」という区分けになっている訳だ。なお、ペリカンでは両用式も「P」が使われているという。両用式の頭文字ではなく、あくまでもカートリッジの「P」としているのは興味深い。この「カートリッジ」としている点について、ちょうど読んでいた「万年筆バイブル」伊東道風著(講談社選書メチエ)で、なるほどという記述があったので引用したい。
『原理から考えれば、両用式というのはカートリッジ式の中に含めて考えられる』
『つまるところ、コンバーターというのは「吸入できるカートリッジ」という発想になります』
■「K」はボールペン
Kugel(球状)schreiben(書くもの)
ボールペンはボディではなく、ペン先に注目している。ペン先にボールがあるので、球状を意味する「Kugel」からとっている。個人的には「Kugel(クーゲル)」と言われると万年筆を思い浮かべそうになるが、ここは球・ボールのKと覚えておこう。
■「D」はシャープペン
「D」という記号とシャープペンは私の中で最も結び付きにくいものだった。
Druck(押す)stift(鉛筆)
シャープペンはメカニカルペンシルと呼ぶこともある。メカの「M」はすでに使っている。そこで別な面に注目したようだ。「Druck」は押す・力を加えるという意味があり、シャープペンの芯を押し出すという構造をイメージしたそうだ。
■「R」はローラーボール
これだけは、唯一すぐ分かる記号だ。ローラーボールの「R」をそのまま使っている。
*
というような記号のカラクリになっていたのだ。この情報がすぐに何かに役立つかということでもないが、意味を知った上でそのペンを使うと少しは気分的に落ち着いてくる。「M」は万年筆の「M」ではなく、メカの「M」だったということが、個人的にはペリカンの吸入へのこだわりが感じられて、なんだかうれしかった。
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