文具で楽しいひととき
ラミー ピックアップなど
これまで pen-info では、13年間にわたり350種類以上の文具を紹介してきた。それらの文具を改めて振り返ってみると新製品というのはあまりなく、隠れた逸品だったり、定番やロングセラーといったものが多い。紹介してきた文具は、今も引き続き販売続けられているものがほとんどだ。しかし、中には人知れず「廃番」という末路をたどるものもある。気のせいかもしれないが、私がいいなと思った文具は、なぜだかわからないが「廃番」になることが多いような気がする。たとえば、この前アシュフォードの商品企画をしている時に、あるレザーアイテムにセットするペンをセレクトしていた。私がこのペンにしようと思ったものは、ことごとく廃番になっていた。今年出版させていただいた「仕事文具」でも同じようなことがあった。本書は雑誌「Think!」での8年間連載してきたものがベースになっている。それらの文具を改めてリストアップしてみると、いくつも廃番になっていた。私には廃番を引きつける何かがあるということなのだろうか。
ウェブの世界では、よく検索するキーワードをシステム側が察知して、FACEBOOKなどでは、それに関連した広告をあなたこれ好きでしょ、とさりげなく表示してくる。たしかに便利だとは思うが、なんだが自分の心の内側まで見透かされているようで落ち着かない。私がいいなと思っている文具もどこかでだれかが察知して、こっそりと廃番にしている、そんな力が働いてるのでは、と勘ぐったりしたくもなる。まぁそんなことは実際にはないのだろうけど。それくらい狙いを定めて廃番になっているのを感じる。そもそも私はニッチな嗜好性がある。そのことは自分でも十分わかっている。自分のニッチさが実証されてうれしいと思う反面、自分の気に入ったものが姿を消していくというのは寂しくもあり、複雑な心境だ。
とは言っても、人の好き嫌いというものはそうそう変わるものではない。これはこれで受け入れるしかないのだろう。特に50歳も近くなると、嗜好性はより頑固さが増していく。なので、私は今までどおりの嗜好性でこれからの人生もズンズン歩んでいこうと思っている。今回は、pen-info で紹介してきた中で廃盤となってしまったものに再びスポットあてて巡礼の気持ちを込めて紹介していこうと思う。
■ ラミーピックアップ(マネージャー)
「廃盤」は、いつも突然にやってくる。そう言えばあのペン最近見かけなくなったな、、とウェブで調べてみるとそのペンの姿がなくなっていることがある。このラミーピックアップもそうだった。ボールペンと蛍光マーカーというタイプの違うペンを一本にまとめた多機能ペン。そのまとめ方がすばらしかった。ペンの両端を使っており、ボールペンはグリップをツイストして行う。ユニークなのはペン先が出てくるのではなく、口金が手前にスライドして引っ込むことでペン先が露出するという芸の細かい動きをすることだ。蛍光マーカーは、ボディ中央のボタンを押すと、後軸がポンと少しだけ飛び出す。それを引き抜くとショートサイズの蛍光マーカーとなる。今見ても独自性たっぷりの多機能ペンだ。実に惜しまれるペンである。(合掌)
■ ラミー スピリット
「スピリット」お前もか!と思ってしまった。このペンはついこの間まで売っていると思っていたので、びっくりした。スリムボディのペン。メタル製なので、このスリムさのわりにズシリとくる。グリップには小さな穴がいくつもあいていて、どことなくマシンガンのようでもある。ボールペンと0.5mmシャープペンがある。私はシャープペンに心惹かれてしまった。ノックボタンを引き抜くと、とっても細い消しゴムが出てくるのだ。しかもそれが驚くほど長い。
■ トンボ鉛筆 デザインコレクション XPA
この pen-info の1回目として紹介した思い出深いペンだ。まるでアウトドアのような、または工具箱にでも入っていそうなツール感も漂わせるデザインである。後軸を引っ張ると、シャキーンとペン先がでてくる。このボールペンはインクタンクが密閉され内部が加圧されている。そのため濡れた紙面や上向き筆記もできるという、まさにヘビーデューティな仕様だった。そのリフィルの製造の関係で廃盤になってしまったそうだ。個人的には、ふつうのリフィルでもいいから継続してほしいと一度トンボ鉛筆の方に話したことがあったが、難しいという返事だった。最近では、身につける「ウェアラブル ペン」というキーワードを個人的にプッシュしている。そのカテゴリーペンとして、今一度市場に出てきてほしいペンである。
■ ライツ Xフレーム
なんでこんないいものがなくなってしまうのか、残念でならない。ハンギングフレームにフォルダーをセットして使うものだ。自宅の机の横でずっと私の書類アシスタントをしてくれている頼れる相棒だ。一番いいのは、書類の出し入れがとても楽なこと。穴を開けることもなく、とじ具もなく、ただただ放り込むだけでいい。このXフレームとのつきあいも10年となり、今ではかなりうまく付き合えるようになってきた。こうしたファイルでついついやってしまうのが、書類をどんどん入れてしまい、パンパンにふくれあがってしまうことだ。とくにXフレームのように入れやすいとその危険性は高まる。私はそれを防ぐために、年に4回の季節ごとにXフレームの全フォルダーを総ざらいして不要なものを出すということを課している。書類を「入れる」流れと同時に「出す」流れもしっかりと確保していれば、決して破綻はしない。人間が食べて、排泄するのと全く同じことだ。その出し入れスムーズにできるすばらしいファイルでと思う。復活が望まれるファイルだ。
■ デザインフィル カードメモ
これも惜しい商品だ。本「仕事文具」で掲載しようとしたらメーカーから廃盤のお知らせがあった。カードサイズのメモ帳。これがすごいのは、サイズだけでなく、薄さもカードくらいなところ。タイプライター用紙というとっても薄い紙にして、31枚も綴じ込んでいる。今も私の財布に忍ばせて、いざメモという時に備えている。
■ ゼブラ SL-F1mini
このペンの廃番ニュースはつい先日耳にしたばかりだ。先ほどのカードメモと一緒に常に財布に入れている。このペンにこれまでどれだけ助けられたことか。急にペンが必要になるということは結構あるものだ。たとえば、海外出張で飛行機に乗っている時。そろそろ着陸というタイミングでCAの方々現地の入国書類の紙を配りはじめる。ボールペンは上の棚にしまった鞄の中だ。空港に到着したら、すぐさまスーツケースを受け取り、現地SIMカードを買って電車に飛び乗りたい。飛行機を降りてから書類を書いていたのでは遅れをとってしまう。そうだ、財布にペンを入れていたっけ、、という具合に懐刀のように幾度も助けてくれたペンである。私は数本持っているが、念のため店頭で見かけたら、もう少し買い足しておこうと思う。
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「廃盤文具」ということで、色々と紹介したきたが、どれもこれも魅力的なものばかりだ。今、この原稿を書いている原稿用紙は10枚目に入ろうとしている。それほどこれら「廃盤文具」は語りどころが多い。ただ、一方でもはや手に入らないということで、その魅力が私の中で必要以上に増幅されて、良さをより感じてしまっているという節もあるのかもしれない。
*ゼブラ SL-F1mini アマゾンの在庫が少なくなってきているようです。
*2017年8月23日追記
ゼブラ SL-F1miniは、再販売されることになったそうです。
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