2012.07.24(260-3)

「ステッドラー工場見学 3」

ドイツ ニュルンベルグ

翌日はステッドラーの本社工場を訪問した。ニュルンベルグ中心街からほど近いやはりこちらも一面緑に囲まれた中にあった。

ステッドラー工場見学

もともとはニュルンベルグの旧市街地にあったのだが、手狭になったため、1988年にこの郊外の地に移ってきた。ここには本社オフィス、物流拠点のロジスティックセンター、そして工場がある。本社もあるということでショールームのようなスペースがあった。

ステッドラー工場見学

ステッドラー工場見学

ステッドラー工場見学

ステッドラー工場見学

■ ステッドラー製品がここから世界へ

まず案内されたのは、ロジスティックセンター。ここでは撮影が許可された。

中に入ってみると、ちょうど IKEAの倉庫のような感じで、見上げるほどの天井の高さがあり、そのぎりぎりまで棚がいくつもそびえ立っていた。そのひとつひとつの棚には段ボール箱に入った商品たちが出荷をじっと待っている。

ステッドラー工場見学

棚と棚の間には商品をピックアップするロボットが時速20km の速さで前後、左右、上下にと忙しそうに動いていた。

ステッドラー工場見学

時速20km というと、道路をかなりゆっくりと走る遅い車というイメージだが、ここでは結構なスピード感があった。たぶんそれは数メートルほどの狭い棚の間を動いていたので、相対的に速く見えたのだろう。そのピッキングロボットにより取り出された商品は、青いカートンボックスに入れられベルトコンベアに載せられ、次々と流れていく。

ステッドラー工場見学

まず行うのが出荷先の注文に合わせて箱詰めされる作業。これは、人の手によって行われる。コンピューターの画面を見ながら女性がいくつもあるサイズの段ボールからちょうどいい大きさのものな一つを取り出す。実は、それぞれの注文には、この段ボールを使いなさいという指示がコンピューターに表示され、女性はその指示に従っているだけなのだという。その段ボール箱を組み立て、ベルトコンベアで運ばれてきた商品の中から必要個数だけを取り出して段ボールに入れていく。

作業が終わると大きなボタンをポンと押す。そうすると、その段ボールが先へと進み、次に入れるべき商品がすぐに流れてくる。箱詰めされた段ボール箱は次の担当へとベルトコンベアで運ばれ荷物のチェックが行われる。ここにも人がいるが、チェックするのは人間ではなくコンピューター。チェックは重さを計って行われる。

重さで正しい商品そして個数が入ってるかがチェックされ、もしここで重さが違う場合はそれ以降の作業は出来なくなり、自動で一つ前の工程に戻されていく。内容チェックがOKであれば、箱の中の隙間を埋める梱包材が入れられガムテープで封をして宛名ラベルが張られ出荷されていく。

人の介入は最小限に抑えられ、コンピューターそして機械で出荷作業が淡々と行われている。ドイツで作られた全ての商品はこのロジスティックセンターから日本をはじめ世界各地へと出荷されていく。

■ 鉛筆の芯工場

次に向かったのは工場棟。ロジスティックセンターに引き続き撮影ができるかと思っていたら、ここからは再び撮影が禁止とぴしゃりと言われてしまった。ドイツはルールに厳格である。まず、見せていただいたのは鉛筆の芯工場。

ここでは黒鉛ならびに色鉛筆の芯の製造を行っている。黒鉛芯の主成分は、黒鉛と粘土。この配合の具合によって HB や B といった芯の硬度が決められていく。ちなみに HB の場合は黒鉛が60%、粘土が40%という割合。それよりも黒鉛が増えると2B や3B と柔らかくなっていく。原料となる黒鉛はバイエルン州で採れたもの、そして粘土はフランクフルトのものと、芯から完全にドイツのものが使われている。

工場の一角にはガラスケースに入った黒鉛と粘土の原材料が展示されていた。私は黒鉛の原料というものをはじめて見た。黒というよりも、ガンメタリックのような渋い輝きがあり、見ていてなかなか美しいものだった。この黒い輝きが鉛に似ていることから黒い鉛とも言われるようになったという。実際には鉛は一切入っていない。芯は原料を混ぜあわせて、ひとつの塊にするところから始まる。ちょうど私たちが見学した時は緑の色鉛筆の塊が作られていた。

人の背丈より少し高いくらいの、そして幅は3m くらいある機械の上には、大きなパイプのような口が開いていて、原料が入るのを今か今かと待ち受けている。ここに芯の材料が入れられていく。色鉛筆の芯は黒鉛は使わず色素と粘土。そのため、黒鉛芯ほど強度がない。色鉛筆の芯が黒鉛芯よりも一回り太くなっているのはそのためだ。

ステッドラー社ではそれに加えて「ABS」 (アンチ ブレイク システム)という独自の製法を取り入れている。これは木軸と芯の間に白いカバーのようなものを挟み込んで、それにより色鉛筆芯の折れを防いでいるというものだ。この白いものは素材的には色鉛筆芯と同じ粘土がベースになっている。ただ一般の粘土よりも強度があるものが使われている。この二重構造の色鉛筆芯を作るには、先ほどのパイプ状の口の中に一回り小さいパイプを入れる。

内側には色鉛筆芯の原料を入れ、外側には 「ABS」 の白い原料を入れる。両方の原料を入れ終わったら内側のパイプだけを引き抜いて、あとは上から押して塊にする。30秒ほどしっかりと圧縮させると外側が白、内側に色鉛筆芯という塊が出来上がる。出来上がったものは、直径約15cm、長さ40~50cm という丸太のような大きさ。

これをさらに押し出してちょうどパスタのような細い芯を作っていく。黒鉛芯の場合は、「ABS」の2層構造がないだけで、その他の製法は基本同じ。細く押し出されたものは鉛筆の長さの18cm ほどにカットされていく。階段をあがって別フロアに移動。どうやらここは色鉛筆芯ではなく黒鉛芯の製造が行われているということが入った瞬間にすぐにわかった。

というのも、置いてある機械全てがすっかりと黒ずんでいたからだ。少し進むと一辺20cm ほどの立方体の鉄のボックスにできたてホヤホヤの黒鉛芯がギッシリと縦に詰めこまれていた。上からは芯の断面だけが見えている。きっとこのボックスも当初はキレイなシルバーの鉄のような状態だったろうが、今ではすっかりと黒鉛色に黒ずんでいた。

このようにいたるところが黒ずんでいるせいかもしれないが、この黒鉛芯を加工している機械は、今回見せていただいたステッドラー社の工場の中でもとりわけ古く年季が入っているように見えた。年老いた機械が、まだまだ若い機械に負けてはおれんという感じで元気よく動いて次々に芯を作っていた。色鉛筆の時と同じように塊状だったものが細い芯に押し出され、鉛筆の長さである18cmにカットされている。

このカットされた状態だけを見るとすでに芯の出来上がりのようだが、まだ芯には硬さがない。実はクニャクニャと曲げられる状態。というのも、芯の内部にはまだ水分を含んでいるためだ。そのため加熱して水分を抜いていく。

メッシュ状のパイプに芯を入れてコロコロと転がしながら160度の熱を加えて8時間乾かせていく。パイプをコロコロと転がすのは、まんべんなく熱をまわすためと、中で芯が右へ左へと動きこれにより芯をまっすぐにする理由もあるそうだ。こうしてだんだんと硬い芯へと変わっていく。

そして次に本格的な焼き入れをしていく。その前にやるべきことがある。それは、芯の長さをチェックだ。中には芯が途中で折れてしまっているものもある。これを取り除いていく訳だ。はじかれたものは機械の下の容器に入れられる。これらは粉砕され再び芯の材料としてリサイクルされる。

この時、他の硬度と混ざってしまうと、リサイクル出来なくなってしまうので、硬度ごとにしっかりと分けられる。芯の長さが正しいものだけになり、焼き入れ作業に入る。今度は一挙に温度が上がり1,000度で10時間行う。ずっと10時間、1,000度ではなく、はじめはじわりじわりと熱くし、中盤で最も高くして、終盤は少しずつ温度を下げていく。

この1,000度で10時間は、HB や2B など硬度が違っても同じであるという。芯作りの中で、この焼きいれが最も重要な工程だそうだ。折れづらく、安定した芯がここで生まれる。このため、この焼き入れ機械は24時間それこそ365日休まず動かし続けられている。一度でも機械を止めてしまうと、再び同じ状態に戻すのが大変であるためだ。三交代制を敷き焼き入れの炎は常に守られている。

焼き入れされたら、次にワックス付けという工程だ。小さな浴槽くらいの大きさの容器にワックスがなみなみと入っている。覗き込んで見ると、ワックスというよりも油といった感じでうっすらと透明度はあるものの基本は真っ黒。この中に芯を全て浸してしまう

こうすることでワックスが芯の内部まで浸透していく。これは、滑らかな書き味を生み出すために欠かせない工程。ワックスの温度は120度で浸す時間は10~12時間。色鉛筆の場合は黒鉛芯よりも太いので最長で3日間付けこむ色もあるという。このワックスから引き上げると芯同士がくっついてしまっているので、遠心分離機にかけて一本一本分けていく。

こうして作られた鉛筆芯は前の日に見た第3工場の鉛筆製造行程へと運ばれ完成品となっていく。

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