文具で楽しいひととき
山櫻
伝書紙
男性でも使いやすいシンプルな一筆箋は意外と少ない。一筆箋というと、柄などをあしらったものが多く、男性が仕事で使うにはちょっと。。と個人的にかねがね感じていた。そんなあるとき、山櫻さんとの交流がはじまった。
山櫻さんと言えば、名刺や封筒で有名。どちらかというと少々カチッとしたイメージがある。その中でやわらかなイメージの「+lab〔プラスラボ(R)〕」というセカンドブランドを展開している。手紙をはじめメッセージを伝えるためのアイテムを幅広く品揃えしている。そのほとんどが女性向けのデザインだ。
その「+lab」が5周年を迎えることになり、男性にも使いやすい手紙ツールを展開したいというお話をいただいた。そこで、かねてより私が感じていたシンプルで男性でも使いやすく、それでいて少しだけ個性も主張できるものを提案させていただいたところ、ぜひに!ということになり、商品企画ディレクションをさせていただくことになった。
それが、この「伝書紙」。「でんしょがみ」と読む。文字通り書いて伝えるための紙。たとえば、一筆箋として「人に伝える」のはもちろんのこと、シンプルなデザインなので「自分に伝える」メモとしても使える。
■ 多種多様な紙
今回、8種類のラインナップでスタートする。詳しくは後ほどひとつひとつ紹介していくが、8種類それぞれ違う紙を使っている。おおまかに言うと、ハリのある厚い紙とヒラヒラ、ハラハラと薄く半透明な紙を選んでいる。表面がすべすべとなめらかなものもあれば、逆に書いた時の歯ごたえというか、書き応えが楽しめるものもある。色々な書き味が選べるというのが特長のひとつだ。
パッケージ裏面には、それぞれの紙の説明があります
■ 紙に存在感を与えるエンボス
ハリのある紙が5種類あり、それらにはエンボスという加工をしている。エンボスとは表面に凹凸をつける加工。企画当初、私は活版印刷で罫線を表現したいという考えがあった。それを山櫻さんに伝えたところ、一枚一枚プレスしていくので、どうしてもコストがかかり、販売価格は1,000円を優に超えてしまうと言われてしまった。ただ、印刷による罫線ではなくあくまでも凹凸だけで罫線を表現する点は、山櫻さんもいいですねと共感してくださった。そして、山櫻さんのほうで考えだしてくれたのが「抜き加工」で「エンボス」を表現するという方法だった。実は、この「抜き加工」は山櫻さんのお得意の加工のひとつ。
山櫻さんでは、封筒や二折カードなどをその形に型抜きしながら、折り目に「折り筋」と呼ばれる凹凸をつける加工を行っている。その手法を「伝書紙」の「エンボス」表現で応用することになった。いつもはキレイに折るためにつける折り筋だが、「伝書紙」ではその折り筋がデザインとなるばかり、カギ括弧や広く出っ張った面など、これまでにやったことのないものばかりで、職人のみなさんには本当に色々とご苦労をかけてしまった。ただ、職人の方々もいっちょやってみようじゃないかと職人魂を俄然燃え上がらせてくれた。
伝書紙を製造している工場
これが紙を型抜きする抜き型ならびにエンボスの型
厳密にはエンボスとデボスの2種類があり、エンボスは紙の表面が出っ張っているもので、デボスは逆に凹んでいるものだ。ちなみに、このエンボス表現は大きな紙を一枚一枚型抜きする時に、型を上下から押しつけて一緒に行われる。なので、罫線のエンボスがずれるということがない。個性的なエンボスを加えることで真っ白な紙が一挙にエッジの効いたものになった。一方、薄い紙を使った3種類はエンボスではなく印刷になっている。
■ 個性派揃いの8つのラインナップ
それでは、ひとつひとつを詳しく紹介していこう。
□ No.1 紙:さくらCoC 025 加工:エンボス
「さくら」という紙は、山櫻さんの名刺用オリジナル紙。紙を選ぶときに、ぜひ山櫻さんらしい紙を選びたいと思い、これを採用した。厚くハリがあって、表面がとてもなめらか。そこに逆カギ括弧が大きくエンボス加工されている。あえてカギ括弧を逆にしたのは、送り先の社名や名前を少し上に書きやすくするため。そうそう、全ての「伝書紙」は横書きも縦書きもできるフォーマットになっている。
とてもなめらかな紙のため万年筆で書くと、インクが乾くのに少々の間が必要となる。
□ No.2 紙:ダンデレード 加工:デボス
この紙を一枚手にとり光にかざすと、レイド(すの目)と呼ばれる縞模様が美しく浮かび上がる。指先をそっとはあわせても、その細かなレイドは感じられる。便箋やノートなどによく使われる紙だという。その表面には、横罫線のデボス(凹み)がクッキリとした直線で加工がされている。一行12mmとゆったりしているので、太字の万年筆でもおおらかに書いていける。このNo.2以外にも横罫線フォーマットはあるが、全てにおいて上の行がゆったりとしている。これも宛名を書きやすくするためだ。もし上下がわからなくなったら、それを目印にして頂くといいと思う。
ほどよい書き応えがある。細字で書くとレイドをペン先がとらえる感触があるが、太字だとレイドを悠々と乗り越えていくのか、レイドは感じられない。
□ No.3 紙:淡クリームキンマリ 加工:印刷
手帳などに使われるという「淡クリームキンマリ」。すべすべとした質感があり、いかにもペン先がスムーズに進んでいきそうな紙。淡いクリーム色の紙にあわせて、オレンジ色の方眼罫(5mm)が印刷されていて、暖かみがある。一筆箋としてはもちろんのこと、ToDoリストやメモにも使いやすい。
万年筆で書いた際、インクがうっすらと裏抜けするものがあった。私が試した範囲ではパイロットのブルーがやや目立った。
□ No.4 紙:トモエリバーマット 加工:印刷
手帳界隈では、よく知られている紙「トモエリバー」。この「トモエリバーマット」は、事典などに使われるという。紙はこんなに薄くても成立するのかというくらいの薄さ。マットというように薄さの中にも手に吸い付く感触がある。ページのめくり心地もよさそうなので、事典に使われるというのも納得だ。
わずかに半透明で下の文字がうっすら見える。フォーマットは5mmドット罫。このドットは限りなくうすいグレーにしている。パッケージ上で見ると、20枚が重なっているので、グレードットが濃く現れるが、一枚をヒラリととると、とたんにドットは存在感を薄める。
万年筆との相性もよい。うすい紙に書くという非日常が味わえる。万年筆の筆跡はいつもよりわずかに太めに出る印象がある。
□ No.5 紙:紀州再生上質 加工:エンボス
紙選びの際に、少しグレーがかった紙もぜひ入れたいと希望して、山櫻さんに探してもらった紙だ。手にすると、以前どこかで出会ったことがあるような記憶が蘇る紙である。この横罫線も12mm間隔。しかしちょっとというか大いに違う。行そのものが凹凸としているのだ。一行目が凹で二行目が凸という具合に。すこしクラフト紙っぽい紙のせいか、エンボスのカドがクッキリと出ていて気持ちいい。
グレーのこの紙にブルーインクで書くと、いつもよりワントーン落ちついた印象になる。
□ No.6 紙:ダイヤバルキー 加工:エンボス
手にしただけで細かな繊維が感じられる紙。つまりほどよくザラザラしている。絵本や図録などに使われるそうだ。この紙には大胆なエンボスを施し、メッセージを書くスペース全体が盛り上がっている。言わば、メッセージのためのステージといった感じだ。上には宛名スペースがゆったりとあり、ステージの右側はそのまま紙の端まで続いている。当初、その右端の処理を左同様に区切って四角くすることも検討した。しかし、いざ書いてみると、右側というものは成り行きで文章が長くなることもあり、このフリースタイルにした。
こまかな紙の繊維をペン先が捉える書き応えがある。鉛筆で書いても楽しい紙だ。
□ No.7 紙:HS画王 加工:デボス
画用紙に使われる紙で、さきほどの「ダイヤバルキー」よりさらに紙の繊維がたっぷりと感じられる。この横罫線は大らかな点線というユニークなフォーマット。実際に書いてみると、意外と落ちついた印象になる。画用紙ということでインクの発色もよい。
□ No.8 紙:白夜 加工:印刷
No.4の「トモエリバーマット」も薄い紙だったが、これも負けず劣らず薄い。一口に薄いと言っても、色々個性がある。これはとりわけ半透明さが高い。「トモエリバーマット」はサラサラとした質感があったが、これはシャラシャラとしている。この紙には、No.7と同じ点線横罫。ただ、こちらはより細かくて、点線の幅は3mm。たとえるなら、先ほどのNo.7は「大雨」で、こちらは「小雨」といったらいいだろうか。半透明なので、「霧雨」と言った方がむしろしっくりとくるかもしれない。
表面はツルツルしていて裏面はマット。印刷はツルツル面にされているが、どちらに書いてもよい。万年筆で書けないこともないが、じんわりとにじむ。とくに太字系だと顕著。いくつかのペンで試したが、ぺんてるの「プラマン」との相性がよかった。半透明ということで独特な一筆箋になる。
*
企画当初は、男性が使いやすいシンプルでちょっと個性的な一筆箋というコンセプトだったが、完成したものを改めてひとつひとつ見てみると、いやいや男性になにも限る必要はない。女性の皆さまにも十分に使ってもらえるものに仕上がった。紙愛好家の方々にも大いに楽しんでいただけると思う。
山櫻「伝書紙」全8種類(各20枚入り)はこちらで購入できます。
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