文具で楽しいひととき
アサヒヤ紙文具店
クイールノート マーブル
私の行きつけの文具店アサヒヤ紙文具店さん。
店内の万年筆が並べられているガラスショーケースの中に前からずっと気になってしょうがないものがあった。それはまるでアンティークのような風格がある一冊の本のようなグリーンの手帳。表紙にはマーブルと呼ばれる美しい装飾が施されている。「これは販売されているものですか?」とお聞きすると、あくまでもディスプレイ用のもので売り物ではないとのことだった。
売り物でないと言われると、ますます欲しくなってきてしまう。アサヒヤさんに行くたびガラスショーケース超しに、いつもその手帳を指をくわえて眺めていた。そして、このたびアサヒヤさんで、そのマーブルーノートを正式発売することになった。アサヒヤ紙文具店オリジナルの「クイールノート マーブル」という。
■ 美しいマーブル表紙
以前ご紹介したことがあったが、アサヒヤさんには「クイールノート」というやはりオリジナルの手帳がある。今回のものはそれをベースにして作られている。
サイズは大きいA5サイズを新たに加え、2サイズでの展開となっている。今回、私はまず小さいA6サイズから始めてみることにした。まずなんといってもこのマーブルが美しい。私は一目惚れをしてしまった。
このマーブル模様をじっと見つめていると、まるでマーブルの中に吸い込まれていくようなそんな感覚に襲われる。
■ 手作りされたマーブル原画を装丁
この吸い込まれていきそうな臨場感のある迫力は、マーブルそのものであるからに他ならない。このマーブルは印刷されたものではなく、マーブル職人さんがひとつひとつ作り上げたマーブルそのものなのである。マーブルの表面をそっと指先でなぞると、絵の具が乾いた後の独特な少しザラザラとしたものがある。つまり、絵で言うところの原画のようなものだ。
アサヒヤさんの店主萩原さんの解説によると、このマーブルーの作り方はかなり手がこんだものらしい。
大きな容器にマーブル用の特殊な液体を入れる。この液体は、海草を煮出したものだという。海草入りということで液体はドロリとしている。そこに絵の具を垂らして、櫛のお化けみたいなもので水の上に波紋を作り上げ、マーブル特有の模様をこしらえていく。
海草によりドロリとしているためマーブル模様の挙動が抑えられて意図した模様が作りやすくなる。そして、水の表面に紙をハラリとかぶせて、紙を水から離すと美しいマーブル模様が紙に転写されていく。
実は、紙の表面には、「みょうばん」というものがあらじめ塗布されている。これにより紙の上に絵の具が定着がよくなる。水の上に絵の具を垂らし模様を作る、そして紙に転写するというそれぞれの作業はいずれも一発勝負。いくら同じ色の絵の具で同じような模様を作ったとしても出来上がるものは常に違ったものになる。
一発勝負という緊張感の中一枚一枚手作りされたマーブルの紙をこの「クイールノート マーブル」では贅沢にも表紙に使っている。そうしたことをふまえて改めてマーブルを見ていると、職人さんの集中した息づかいみたいなものが感じられてくるる。マーブル模様には流れるような優雅さと、一方で時の流れが止まったような緊張感というものも共存している。
このマーブルはイギリスの老舗マーブル工房「コッカレル」というところのものだという。
■ 9柄あるマーブル模様
「クイールノート マーブル」には全部で9柄の美しいマーブル模様がある。その中には、私が当初一目ぼれしたグリーンもある。念のため全柄を机に広げてもらい、選ぶことにした。それらを見ていると選ぶことをすっかり忘れて、その美しいマーブルについつい見とれてしまう。
こういう色選びは頭で考えず、体で感じる直感を信じた方がいい。その直感に従い私は、当初一目ぼれしたグリーンとモノトーンのふたつを選び出した。
この2つのどちらかにしよう。次に、この手帳に使う万年筆を添えて、そのお似合い具合をチェックしてみた。グリーンはペリカンの特に緑縞との相性がいい。
一方、モノトーンはオーソドックスなブラックボディの万年筆が似合う。甲乙付けがたい。
なんとなくマーブルの吸い込まれ具合に迫力がある、モノトーンタイプを一冊目として我が家に連れて帰ることにした。たぶん2冊目にはグリーンにすることになると思う。マーブルは表紙の全てではなく、中央あたりだけにバランスよく付けられている。使っていく中で比較的痛みやすい背そして角の部分には保護用パーツが丁寧に貼り込まれている
。
特にコーナーの三角のところは律儀に折り込まれている様子が確認できる。その境目に指をはわせてみるとマーブルの方が上側になっている。
と言っても、単にブラック表紙の上にマーブルを貼っているのではない。それだと表紙が必要以上に分厚くなってしまう。そこでコーナーと背の部分だけにブラックのパーツを先に貼り込んでそのブラックの部分を少しだけ覆い隠すようにマーブル紙を貼り込んでいっている。
つまり、重なり合っているのは、境界線の部分のみ。先程「クイールノート」をベースにしていると言ったが、厳密にいうと「クイールノート」より30枚本文ページが多くなっている。やや分厚くなったことで、姿としてはより「本」っぽさが強調されている。本紙の罫線も「クイールノート」とは違う。
■ 万年筆でゆったり掛ける8mm罫線
「クイールノート」が5ミリ方眼だったのに対し、このマーブルは横罫線。8mmのゆったりとした行間で罫線も落ち着いたセピア色。
本文紙は満寿屋さんの原稿用紙のものが使われている。ページの見開き性も申し分なく、開いたページが自ら閉じようとしてくるのを手で押さえ込むという煩わしさはない。
手づくりマーブルということで、実は使っていく上で注意というか覚悟しておかなければならないことがある。それは「水」や「こすれ」によってマーブルがかすれてしまうということ。手づくりマーブルなので、これはむしろ当然とも言える。絵の原画だと考えれば、至極当たり前だ。使っていく中でこすれていくのを「味」と見ていくしかない。
しかし、この原画を最後の1ページを使うその瞬間までしっかりと堪能したいという方のために、アサヒヤさんでは、ちゃんと対策を考えてくれている。透明のカバーを予め付属してくれているのだ。私は基本的に何においてもあまりカバーをしない派である。それは、その素材そのものを楽しみたいと思っているからだ。
しかし、このマーブルーノートにカバーを付けてみたところ、これはこれでいいじゃないかと思うようになった。それは、カバーの透明度がとてもクリアであること、そしてカバー独特のブカブカとした違和感がないことだった。このカバーは上側が全て開放されていて、ノートをそこからスルリとセットできるようになっている。
そのため、カバーをしているのに手帳が窮屈そうにしているというそぶりが全くない。しかも、表紙を開くとそのカバーの内側がそのままポケットとして使うことができる。
といってもせっかくの原画マーブルである。初めからカバーに入れてしまうのもそれはそれでちょっともったいない。そこで、私ははじめはカバーを付けずにマーブルをじかに目と手で楽しみ、そのかすれ具合にもよるが、後半あたりからカバーに入れてみようと計画している。
私はこれを取材手帳や度や出張の時に携帯する手帳として、ガシガシと使ってみようと計画している。こういういい手帳は机の上で日記を書くというのが本来の姿なのかもしれない。私も以前はそう考えていた。しかしながら日記など元来書かない私は本棚にたまっていく一方であった。やはり使ってこその手帳だ。
* アサヒヤ紙文具店 クイールノート マーブル A6サイズ
□ クイールノート マーブルは アサヒヤ紙文具店のみで販売されています。
*関連リンク
「万年筆のための手帳」アサヒヤ紙文具店 クイールノート
「私の愛用原稿用紙」満寿屋 原稿用紙 102
「美しい細字を書きたい。」パイロット カスタム743 フォルカン
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