文具で楽しいひととき
パイロット
カスタム823 コース by フルハルター
フルハルターさんで一本目の万年筆ペリカン スーベレーンM800を買って早1年が過ぎた。M800は、原稿を書くための万年筆として日々活躍をしてくれ、昨年一年間は最も出番の多い万年筆だった。いい書き味に触れてしまうと、もう万年筆はこれでおしまい。とならないのが万年筆の奥深いところ。さらに、違った書き味を求めてしまう。
そこで、昨年末にフルハルターさんで2本目を注文した。今回は、書き味だけでなく、インクの吸い味までも楽しめてしまうパイロット カスタム823 プランジャー(ペン先:コース)を選んでみた。
ボディは以前に買っていたカスタム742よりもわずかに長い。
■ プランナジャー インク吸入方式
私が選んだカラーはブラウン。キャップと胴軸がスケルトン仕上げになっている。このスケルトンが、ほのかに中が見えるというもので、大人っぽさが感じられる。そして、この万年筆の最大の特徴、と同時に喜びになっているのが、プランジャーというインク吸入方式だ。
いわゆるカートリッジやコンバータなどを使わず、ボディの中にインクをためこむ仕組みを持ったもの。しかし、一般的な吸入方式とは違う独特な方式になっている。
このプランジャーという吸入方式、カタログや雑誌で言葉としては知っていたが、実際にインクをいれるのは今回がはじめて。付属の取説とにらめっこしながら入れてみた。このプランジャーにインクを入れるためには、まず、専用のボトルインクを用意る。
パイロットから出ている壺みたいな大きなタイプだ。早速ペン先を入れて吸入したいところだが、その前に、やらねばならぬことがある。ボトルに栓した状態で逆さまにして、元に戻すという儀式を。
このまるでおじまないの様な作業は、インクをたっぷりと吸い込みやすくするため。と言うのも、このボトルの中には、筒状のものが入っており、いったん逆さまにすることで、その筒の中にインクがたっぷりと溜められるようになるのだ。インクの水かさをあげると、イメージしていただくといいと思う。
ここで、ようやく万年筆の登場。ペン先を上にしたまま、尾栓をネジって緩める。この上を向けるという行為は、おそらくペンの中にインクが残っているものが間違って出てしまわないようにということなのだと思う。新品の状態ではインクは入っていないのだから、必要ないような気もしたが、今後はずっとこのスタイルで行くわけだから、練習のためにも取説に従ってみることにした。相変わらずペン先を上にした状態を維持して、緩めた尾栓を引っ張っりだす。
■ 尾栓を押し込んでインクを入れる
ようやくここで、ペン先を下にすることが許され、ペン先をボトルの筒の中に深々と沈み込ませる。そして、いよいよ尾栓を押し込んでいく。
ボディの中に入っている空気を圧縮しているという負荷を指先に感じつつ、どんどんと押し込んでいくのである。
その負荷が、中盤から後半にさしかかったところで、一挙に軽くなる瞬間がある。
音はしないのだが、スポッという感じ。すると、一呼吸おいて、インクが入り込んで、その水かさがまるでエレベータのようにスーッと上がっていく。
何かを引っ張って吸い込むというのなら、理解できるのだが、これが不思議なのは、押し込んでいるのに吸い込んでしまうという点。実にまか不思議だ。よくよくボディの中をスケルトン越しに観察してみると、その謎をとく鍵となりそうな部分があった。
先ほど押し込んでいるときに、急に感触が軽くなった所は、内壁の幅がきゅうに広くなっていた。
これは、私の勝手な推測だが、きっとこんな感じなのだと思う。ボディの中にはインクを溜めるタンクがある。そして、先ほどの尾栓を引っ張ったり押したりすると中でスライドするゴム栓みたいなものがある。
このゴム栓は、インクタンクとピッタリのサイズになっているので、押し込んでいくと、ペン先から多少は空気が漏れていくとは言え、その量はわずかなので、段々と空気が圧縮されていく。そして、例の場所へとさしかかる。そう、インクタンクの内壁が急に広くなっている所だ。
それまで圧縮されていたものが、ここで一気に解放される。その解放された空気はどこに行くかというと、ペン先側は、相変わらず細い空間しかないので、おのずと、上側のインクタンクに逃げていくことになる。その空気が解放される勢いを使って、その時インクも吸い上げられるということなのだと思う。
ちょっと適切なたとえが思い浮かばないが、ギュウギュウ詰めの満員電車の横に、空っぽの車両が連結されて、乗っている人たちが、われ先にと空いている車両に急ぐという感じ、ちょっと違うか。。。
いずれにせよ、こんな感じでインクを入れてみると、ボディの半分ちょっとしか入っていない。失敗したかと思ったが、実は、これでいいらしい。構造上、完全に満タンにはならないそうだ。
■ 筆記するときは、尾栓を緩める
メーカー発表数字によると1.5ml入るという。感覚的にはもっと入っている感じがする。インクを入れ終わって、すぐ書く場合はそのままでもいいが、そうでない場合は、いったん尾栓を閉めておく。そして、書くときに再び緩めてやらなくてはならない。
この尾栓の開け閉め、面倒と言えば面倒だが、プランジャーを使っているという実感が味わえてなかなか楽しい。このインクの飲みっぷりの良さにあわせて、ペン先は極太の「コース」というサイズを選んだ。
太いペン先は、一筆ごとにたっぷりとインクを使うことになるので、当然インクの減りは早い。しかし、プランジャーなら大丈夫という訳だ。ちなみに、このカスタム823にはメーカーカタログ上では、F、M、Bしか選べない。今回「コース」を選べたのは、フルハルターさんだけの特別仕様だからだ。
2本目となる今回も森山さんに研ぎ出してもらったのだが、この時、念のため1本目のペリカンM800と、それで書いた原稿用紙をお見せした。すると、森山さんはルーペで、私のM800のペン先をじっと眺めて、「土橋さんは、ペン先がすこし右側に傾いているようですね。ペン先がそうなっていますよ」と言われた。
思いもよらない言葉だった。私は、そんな傾けて書いているつもりなどなかったものだから。森山さんいわく、「きっと、はじめは普通に書いていて、そのうちかなりのスピードになった時に、傾いているのかもしれません。」
私の殴り書きのような筆跡をみてそう分析されたのだろう。「では、今回は、その書き方に合うようにしましょう」と。そうして、1ヶ月後に出来上がったペン先は、ゆったりと書いても、そしてハイスピードになってもいつでも滑らかなものだった。
ちょうど、このプランジャー万年筆が私の所にやってきたのは、ドイツ出張の直前だった。せっかくなので、その出張先での執筆ペンとして持っていくことにした。
万年筆は、気圧が急激に変わる飛行機に持ち込む時は、インクを空にするか、インクを満タンしないとインク漏れの恐れがあると言われている。
しかし、このプランジャー式は、先ほどの尾栓をしっかりと閉めるという機構が付いているので、安心して飛行機に持ち込めるというメリットもあった。
パイロット カスタム823 コース by フルハルター
フルハルター オフィシャルサイト
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