文具で楽しいひととき
ラミー
ラミー2000
もうかれこれ数年前から買おう買おうと思いつつついつい先延ばしになっていた一本。ちょうど、一年前に妻が万年筆をプレゼントしてくれるという時も、そのお店に在庫がなく、あえなく手に入れることが叶わなかった。このたび、タイミングがうまい具合にピタリとあって買うことができた。
何も、そんなに難しいことではない。お店に行って「ラミー2000万年筆をください!」と言えば、それで済むことなのだが、自分の中の「ラミー2000万年筆が欲しい指数」というものが頂点に達した時と、あわせて、懐具合というこの2点がピタリとあわなければならないのだ。これを逃すと、また数年先になってしまうと思い、意を決して手に入れた。
ラミー2000シリーズの中で、私は4色ボールペンを10年くらい前から愛用している。今回新しく手に入れた新品の万年筆と比べてみてこれらが、最初は同じ材質だったとは、にわかに信じがたいほどの違いがあった。
10年使い込んだものは表面がツルツルと落ち着いた光沢を放っていて一方の新品は、木炭を思わせるマットな佇まいを見せている。はじめはこんな質感だったのかと、わが子の小さい頃の写真を見る思いがした。
今回の新品の万年筆も10年経つと、私の手によって光沢あるものに磨き上げられるのかと思うと、なんだかとてもやる気がみなぎってくる。せっかく4色ボールペンを取り出したので、この2本を色々と見比べてみた。長さは同じだが、万年筆のほうが軸にややふくよかさがある。それにあわせるかのように、クリップも万年筆の方が若干大きいものがしつらえてある。
同じシリーズでも安易にパーツの共有化というところからデザインを考えるのではなく、あくまでもそれぞれのペンにとって最適な大きさということをベースに作られていることが伺える。ラミー2000は社長に就任したばかりのドクターラミーがデザインに重点をおいてつくり上げたはじめてのペンなのでこうした細かな点までこだわり抜いたのだろう。
■ キャップの開け閉めが心地よい
キャップはまっすぐに引っ張るとはずれる。キャップをする時に「カチッ」と、いかにも精巧に噛み合わされているという音がする。一般にハイクラスの万年筆だと、ネジ式になっていることが多い。しかし、ラミー2000では、ネジ式キャップにするのではなく、あえて、このカチッとはずす方式になっている。
これはきっと、キャップをはずしたときのグリップ部分をシンプルに仕上げたかったからではないかと思う。全体に凹凸のないスラッとしたボディラインをしており、ここにネジ山が切られていたら、きっと全く違う印象になってしまったことだろう。
■ ボディラインがうっとりするほど美しい
カチッとキャップをかませる方式にしても、グリップにはネジ山こそできないが、キャップを受ける段差ができてしまうものだ。しかし、そこはさすがラミー、見事な工夫が凝らされてる。グリップの両サイドにほんのかすかな突起があるだけ。
シンプルなラインを崩すことなく、同時に、キャップを精巧に噛み合わせるという相容れない二つのことを見事に実現している。ペン先は首軸から5mmほどしか出ていない。私はこの姿が、どうしても、アルマジロのように見えてならない。。
キャップをはずした状態でも軸は結構なロングボディになっているので尻軸にキャップをささずとも十分筆記することができる。しかし、この万年筆は、どうやらキャップをさした方がいいようだ。と言うのも、全体にとても軽量ボディなので、キャップをさしても重心がどうのこうのと気にせずに、スッと手にして自然に書くことができる。
■ ほどよいしなりが味わえる14金ペン先
小さく出ているペン先ということで、私はてっきり固めの書き味だと勝手に決め付けていた。ラミー2000のボディ全体が放つドイツらしいデザインからしても柔らかさというよりも、むしろ硬さみたいな印象のほうが強い。しかし、これがとても柔らかさに満ちている。小さいながらもペン先はよくしなり、紙の上にペン先をあてた時のタッチがとてもソフトで気持がいい。
ペン先の両サイドは、スパッとした直線ではなく、やや内側にたわんだような感じになっている。14金ペン先ということに加え、こうしたこともこの気持ちよい柔らかさを生んでいるのだろう。また、硬いと思いきや、実は柔らかいというギャップも実際以上に柔らかさを感じさせてくれているようだ。
インクの吸入方式は、尻軸をひねる吸入式。よく言われていることだけど、この尻軸のつなぎ目が本当にわからない。ヘアライン加工がボディ全体に埋め尽くされているのだが、そのエアラインのつなぎ目までしっかりと考えているのではと思ってしまうほどの見事な一体感がある。
■ インク窓は書く時は姿を消す
グリップのちょっと上には、吸入したインクの残量が見える窓がある。まるで曇りガラスの様になっていて全体のマット仕上げと馴染んでいる。一般のインク窓と違って、窓のすぐ内側にインクがあるのではなく、まるで内側に別なタンクがあって、2重になった窓越しにインクを眺めているようなぼんやりとした感じだ。
この窓、面白いことに窓を真正面にすると、見えるのだが、筆記体勢に入って、斜め後方からみるとまるで手品のように見えなくなってしまう。
考えてみれば、筆記時には見える必要がないものではある。ペン先に意識を集中させて書くことに専念できそうだ。このラミー2000以降、ラミー社はデザインにシフトしたペンを次々に発表しペンの世界で独自のポジションを確立していく。
ラミーの原点の思想がぎっしりと詰め込まれたペン、やはり、今回手に入れてよかったと思う。
今年で40歳を迎えたラミー2000。私より1歳年上ということになる。同年代ということもあって、とても親近感を覚えてしまう。
□ 追記 (2006年12月9日)
読者の方々から、ペン先のサイズは?というお問合わせを何件かいただきました。私が購入したのは、M(中字)です。
ラミー2000 万年筆 は、こちらで手に入ります。
YouTube「pen-info」チャンネルでも紹介しています。
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