2005.06.21(81)

「宇宙でも書けたボールペン」

フィッシャー

スペースペン ブレット

フィッシャー スペースペン ブレット

1696年、世界で初めて有人月面着陸を成功させたアポロ11号。アポロ11号の重要な任務のために採用された今なお語り継がれているいくつかの名品がある。腕時計のオメガ スピードマスター、アルミ製アタッシュケースのゼロハリバートン、そして、今回ご紹介するボールペンのフィッシャー スペースペンだ。NASA(アメリカ航空宇宙局)から宇宙でも書けるボールペンを作って欲しいという依頼を受け、フィッシャー社が100万ドルものお金を投じて開発した。

■ カートリッジ内の圧力が一定に保たれている

このフィッシャースペースペンの最大の特徴は、そのリフィル(インクカートリッジ)にある。ふつうのボールペンの芯は、リフィルの中のインクを重力によってペン先側に出てくる仕組みだ。だから、重力のない宇宙では、これまでのボールペンは使えない。

そこで、フィッシャース社は、重力に頼らなくてもインクが出る方法を考え、窒素ガスにより、インクタンク内の圧力が常に一定に保たれるカートリッジの開発に成功した。これこそ、宇宙空間での筆記を可能にしたプレシュライズド インクカートリッジだ。

フィッシャー スペースペン ブレット

プレシュライズド インクカートリッジと言ってもちょっと分かりづらいかも知れないが、こんなイメージだ。インクカートリッジにはペン先側にインクが、そしてその後ろ側には窒素ガスが入っている。その間には、ふつうのボールペンではあまり見かけないスライドする仕切りがある。常に一定に保たれた窒素ガスの圧力によって、その仕切りが押しだされて、ペン先から常に一定のインクが出るというものだ。

実際に、宇宙に行って書けるかどうかを試してみるのが一番よいのだが、なかなか、そうもいかない。この無重力でも書けるというリフィルの凄さを実感するには、上を向いて書いてみるという方法がある。前述のとおり、通常のボールペンは、重力を使ってインクをペン先に押し出しているので、上に向かって書くと、じきに書けなくなってしまう。ボールペンの取扱説明書には上に向けて書かないでください、と明記していることもあるくらいだ。

そこで、このスペースペンで上に向かって書いてみるとインクはかすれることなく、見事に書き続けることができる。フィッシャーペンは全く問題ないのだが、その無理な体勢に私の方が先に耐えられなくなってしまった。

独自に開発されたちょっと粘り気のあるインクは100年以上の保管も可能だそうだ。私は37才でこのペンを手に入れたので、とうてい100年間は使えない。息子に頼んで孫の代まで使ってもらおうかと思っている。

■ 流線型ブレットフォルム

商品名にブレットとあるように、外観はまさに弾丸のようなフォルムをしている。クリップのないとてもすっきりとした、そのデザインの評価は高くニューヨーク近代美術館MoMAに永久展示されている。

フィッシャー スペースペン ブレット

キャップを引っ張ると、「プチッ」という音とともにペン先が顔を出す。その「プチッ」という音の正体は、グリップのすぐ上にぐるりと巻きつけられたゴムのわっかにあった。これがキャップの中を密閉構造にするためのシーリングの役割になっているようだ。キャップをはずすと、そのゴムがこすれて先ほどのような音がする。

キャップをした状態だとわずか9.5cmしかないが、はずしたキャップを後ろにさすと全長13.5cmと筆記に十分な長さとなる。

フィッシャー スペースペン ブレット

グリップ部分には、荒削りにつけられた細い溝がぐるぐるとらせん状につけられている。素手で握るとちょっとザラザラとしているが、宇宙服の手袋の上からならちょうど良いのかもしれない。

フィッシャー スペースペン ブレット

書き味はと言うと、独自に開発された粘着性の高いインクならではといった、まさに、粘り気のある書き味だ。サラサラと書けるゲルインクに慣れきってしまった今としては懐かしい書き味とも言える。

今回、スペースペンを手に入れたのでこれで、はれてオメガスピードマスター、ゼロハリバートンのアポロ11号の3つの名品が揃った。

フィッシャー スペースペン ブレット

これさえあれば、いつでも月に行ける、と言うわけでもないがその気分だけは十分に味わうことができる。

フィッシャー スペースペン ブレット
*アポロ11号の際に、実際に使われたのは、フィッシャースペースペン AG-7 というタイプです。今回ご紹介したブレットは外観は違いますが、中に使われているリフィルはAG-7と同じものです。

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