文具で楽しいひととき
ブラウン BRAUN
電卓
思い起こせばこのブラウンの電卓と始めて出会ったのは、まだ私が会社で働いていた頃。
30~40人くらいのそれほど大所帯の会社ではなかったけど、違う部の人とはほとんどしゃべる機会はなかった。隣の部にいた先輩社員の女性の方が、このブラウンの電卓をさりげなく使っていた。服装や髪型は流行とは一線を画し、自分スタイルを貫く、というタイプの女性だった。
その方とはまだ一度も話したことはなかったが、ブラウンの電卓を使っているのを見て思わず「いい電卓ですね」と声をかけた。
日本製の電卓を使わず、あえてブラウンの電卓を使っているというのはなにかしらこだわりがあるもので、やはりその方もよくぞ聞いてくれたとばかりに「もう何年も使っていてこのデザインがとても気に入っているの。たとえばここがこうなっていて・・・・」などと色々と話をしてくれた。
今でこそ女性がラミー2000などブラックボディのステーショナリーを使うのはよく見かけるようになったけど、その頃はまだ女性が黒を選択しているのは、珍しかったように思う。しかもブラウンの電卓。その個性的な先輩女性にブラウンの電卓は実によく似合っていた。
その当時、ブラウンの電卓はたしか細々と販売されていた。私も気にはなっていたが、なんとなく後回しにしていたらいつの間にか廃番になってしまった。手に入らなくなると途端にその電卓への想いが強くなる。それから10年以上の年月が経ち、このたび、ようやく手に入れることができた。
今回はネットショップで偶然見かけ、その瞬間に購入に踏み切った。案の定、私が購入した翌々日には一時的に売り切れとなっていた。やっぱり私のようにずっと待ちこがれていた方がたくさんいたのだろう。私は、これまで自宅では「プラスマイナスゼロ」の電卓、そして仕事場では「トライストラムス」を使ってきた。
いずれも日本ブランドのものだ。それらはボタンの配置が日本仕様なので「プラス」のボタンが2倍の大きさであったり、「0」以外に「00」というボタンが備えられたりする。一方のブラウンの電卓はそれらとは違う配列になっている。
すっかりと日本仕様の配列に指が慣れてしまっていたので、果たしてブラウンの電卓を使いこなせるのか正直やや不安だった。モノの美しさに惚れて買ったが、やはり電卓としての機能も気になる。
でもそこはブラウンなので、きっと大丈夫だろうという安心感が心のどこかにあった。
■ 意外とコンパクト
商品が届いてパッケージを開けてみると、「あれこんなに小さかったっけ?」というのが第一印象。
間違えてSサイズを注文したかな?いやいやそもそもSやLなどのサイズはなかったはずだ。私が10年以上もの間、待ちこがれていたので、想像上のブラウン電卓は私の中でどんどん大きいものになってしまったようだ。左手で握ると実にちょうどよい。
本体右側から中指、薬指、小指が出るが、ボタンのところまでは一切邪魔しない、そういう絶妙なサイズになっている。改めてブラウン電卓を見ると、美しい…というため息しか出てこない。
何が美しいのかは言葉にはしにくい。だけど本能的にそう感じる。もう一つ感じるのは「静けさ」。
■ 専用ケースがセットされている
ボディの質感はブラウンのクロックなどに比べると気持ちザラザラとしている。
クロックは手にするよりも置いておくもの。しかし、電卓は手に持って使うので、よりグリップ性のいい、こうした質感に仕上げたのだろう。
この電卓にはケースが付いている。このケースがあることで手にした時の指がかりがよくなるというのが、まず役割としてある。ケースに入れていると、電卓の両端がやや厚みを帯びるので、そこに指がかけやすくなるのだ。
それから、これは先ほどの先輩女性が教えてくれたことだが、電卓の携帯性を考えてということもある。ケースからボディを取り外してみる。かなりきっちりとセットされていて外すのにはやや力がいる。
取り出した電卓を今度は裏返しにして再びケースに収納してみる。
こうするとボタンが完全に隠される。
鞄の中に電卓を入れる時など誤ってボタンが反応しないようにできる訳だ。
■ 次に操作性を見ていこう
この電卓はソーラーバッテリーではなくボタンでスイッチオンオフをする方式になっている。そのオン・オフスイッチがたくさん並んでいるボタン郡から少し離れた左上にある。グリーンとレッドのボタンだ。
普通なら、レッドの方がオンと思うところだが、これはグリーンがオンになっている。しかし、不思議なことに説明書などを読まずとも、私の指先はグリーンボタンを押して使い始めていた。たぶんそれは、そのすぐ下のボタンがグリーンになっているせいだと思う。
視界のすぐ下には、グリーンのボタン群が目に入ってきており、これらのボタンを私は使うのだからたぶん同じ色のグリーンを押すべきなのだと本能的にそう思えるようになる。数字のボタンは全てブラック。「÷」、「×」、「-」「+」などは茶色。そして、「=」だけはイエローという配色。
日本仕様のボタン配列とは、かなり違っている。実際に計算に使ってみると、これがまた不思議と使いづらいとは思わなかった。一方で、すごく使いやすいとも思わなかった。言うなれば、「自然な使い心地」。オン・オフのスイッチの時もそうだったが、何だか指がボタンに自然に導かれているのを感じた。
えーと、、どれを押すんだっけ?と考えるよりも早く、指が自然に動いていく。これこそがブラウンデザインの力なのだと思う。ブラウンのプロダクトの操作系ボタンはイエロー、グリーンなど色が決まっておりその配列が実によく考えられている。
一つひとつのボタンはとても小さい。これまで日本製の大きなボタンに慣れていたので、これはちょっと押しづらいかもと、当初思った。しかし、そうでもなかった。一つのボタンを押すと、指がピタリとそのボタンを覆い隠す。
どうやら、このボタンは指先のサイズから割り出されているようだ。それでいて、その両隣は一切隠されない。ボタン同士の間隔も絶妙になっている。そのボタンを横から見ると中央がこんもりと盛り上がっている。
指先を添えて押すときにとても心地よいものがあった。
このボタンを押していて気づいたことがある。黒い数字のボタンは表面がややツルツルとしているのに対し、それ以外のボタンは、逆に少しばかりザラザラしている。
色で分けるだけでなく押した時の微妙な感触もあえて変えているのだ。あくまでもさりげなく。もし、もっと大胆に感触を変えていたら計算をしていてもいちいち気になってしまったことだろう。こうした細部にわたる配慮が「自然な使い心地」を生み出しているのだと思う。
液晶の表示もかなり小さめ。
そこに表示される数字も小さい。日本の電卓と比べるとかなり小さい方だ。ボタンの数字とほとんど同じくらい。使い始めこそ小さいと感じたが、自分が押した数字と同じ大きさのものが表示されることに自然と慣れていった。
特に便利な機能もというものは付いていない。その代わり計算をするというただただ一点に集中して、その部分においては自然に、そして心地よく使える電卓になっている。やっぱり10年待って買ってよかったと思う。
ブラウン 電卓 復刻モデル BNE001BK は、こちらで販売されています。
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