文具で楽しいひととき
ラミー
CP 1 ペンシル
ラミーのペンは、すべて「バウハウス」の哲学をもとにデザインされている。
■ バウハウスを最も感じるペン
その中で最もバウハウス的ペンは?と聞かれたら、私の頭の中には、いくつかのペンが浮かぶが、私の中で最近、じわりじわりと存在感を持ち始めているのが、CP1というペン。機能とは関係のないものを一切そぎ落とし、そぎ落とすことで見えてくる本質の部分をさらに一つひとつ見つめ直し、つき詰めたというのがこの CP 1には全身からみなぎっている。
私の個人的な見解だが、ラミー2000よりも、そのそぎ落とし加減では上を行っているのではないかとも感じる。ゲルト・アルフレッド・ミュラー氏デザインの中では、ラミー2000の方が目立っていて、 CP1はその影に隠れてしまっている。私はようやくその魅力にハタと気づかされた次第。今回はこの CP1をペンシルをベースに細部をいろいろと探検してみたいと思う。
シンプルなボディながら実に探検しがいのあるペンである。探検というのは、私がペンのディテールをこうしたコラムで書いていくときに、あくまでもイメージとして自分自身が小人のように小さくなり、ペンの上を登ったり下ったりして探検していく感じなので、あえてこう言っている。
ちょうど「ミクロの決死隊」のような感じだ。私がバウハウス的と最も感じるのはボディの一つひとつが実にシンプルな形状で構成されているところ。
ます、ボディは完全な円柱スタイル。グリップからノックボタンの手前まで軸の細さは一定になっている。そんなの普通のペンと同じじゃないか、と思われるかもしれないが、グリップに握りやすい加工をしたり、一見、円柱のように見えてもグリップの部分だけわずかに太くしているというペンもあったりする。
■ ボディはストレートな筒状
この CP1の円柱をタップリと実感するには、ペンを分解してみるといい。
こうすると完全な筒スタイルになる。
こうしたマットブラックのボディと言えば、ラミー2000があるが、実際に並べてみると見た目には結構違う。
触り心地にいたっては全くの別物。基本、同じザラザラだが CP1の方が気持ちサラサラとしている。これはラミー2000のボディが樹脂製であるのに対し、CP1はメタルボディという素材の違いによるものだ。次に探検隊(と言っても私1人)はノックボタンの方へと歩みを進めていく。
完全に平たんだったボディがここでいきなりガクンと下がって、小さな凹みのようなところに出くわす。
いわゆるノックボタンの「押ししろ」部分だ。ここが何とも格好いい。
■ 道具感のあるノック
銀色のマットなメタルパーツになっているのだが、その質感が作り上げられた人為的なマットというのではない。
素材そのものが、そもそも持っているザラザラとした仕上げのままになっている。ラミー2000の、この部分はやや光沢に仕上げられているので対照的だ。
それぞれのノックボタンを取り外して比べると、一目瞭然。
CP1のこの自然な銀色を見ていると、古くからある「道具」というものを彷彿とさせる。このペンが作られた1974年の空気がここにまだ残っているようにも感じる。その銀の「押ししろ」パーツの上には、指を添えてノックするボタンがある。よくよく見るとこのボタンの直径がボディ直径よりもほんのわずかだけ小さくなっている。
これは、ラミー2000のペンシルでも見られる点だ。ボディと同じ直径にしてしまうと、バランス的に頭の方が重くなりすぎてしまうからなのだと思う。このボタンは斜め上からの眺めもいい。
ボディの円柱スタイルの口が火山の噴火口のように見え、その中心からノックボタンが出てきているのが確認できる。しかも、ノックボタンの付け根部分は、暗闇に包まれて見えないので、底知れぬ奥深さというものをイメージさせる。
■ リズムのあるデザイン
では、ノックを押してみよう。メタルパーツ特有の「シャキシャキ」という硬質な音がする。
ここで注目は、ノックボタンを押しこんだ時に、押ししろは完全になくならない。1mm かそれに満たないくらいの隙間ができる。その状態のまま、ペン先に目を移すとボディとペン先の間にも同じような隙間が確認できる。
その二つの隙間がピタリとリズムをあわせるように同じなっている。
美しい…。
ちなみに、ラミー2000のペンシルでは、ノックボタンを押し込むと、「押ししろ」は完全になくなりペン先にもCP1のような隙間もない。次にクリップに話を移してみたい。ラミー2000でも採用しているステンレス無垢クリップになっている。
同じように見えるが細部は結構違っている。まず、真上から見た所が、ラミー2000は台形を逆さまにしたようになっているのに対し、CP1は完全な長方形。
横から見ても CP1の方が根元の部分が幅広になっていたり、先端の作りも微妙に違っている。
CP1のクリップから感じるのは、基本的に四角と丸だけで構成されているという点だ。クリップの根元の角は、わずかに直角より広くなっているが、それ以外は四角と丸だけである。これは最後に書こうと思ったが、話の流れで今、申し上げておこうと思う。
■ ○ と □ だけで形作られている
CP1のシンプルなボディを改めてじっくりと見てみると、ペン先は、丸と台形、ボディは、円柱なので、直線と円、グリップは四角形と円だけ、つまりは基本、四角形と直線そして円だけで構成されている。
タイトルに「○□」と付けたのは、まさにこのことで、究極のシンプルな図形だけで形作られいる。かと言って、その2つの図形を組み合わせた、いわゆる積み木を並べただけのデザインかと言えば、全くそうはなっていない。美しさの糸のようなものが全身にピンと張り詰められている。この点がとてもバウハウス的であると感じる。
■ こんなにスリムでもバネ式クリップ
クリップについて、もう一つ付け加えておきたいことがある。CP1のクリップもバネ式になっている。
いつもはこのバネ式クリップは、根元を押して、バネが使われているなと実感する訳だが、この CP 1では感触だけでなく視覚的にも確認できるようになっている。ノックボタン、そして消しゴムも外してクリップのすぐ下を見てみると、ほんのわずかだが、バネが見える。
クリップの根元を押し込んでみると、バネが沈み込んでいく。次に書き心地について。手にして真っ先に感じるのは軸が細いということ。
これは私がラミー2000のやや太いボディを握り慣れてしまったせいなのかもしれない。CP1の軸の直径は約8mm 。鉛筆の丸軸が7.5mm くらいなので、実はそれよりほんのわずかに太いのだが、印象としては不思議と細く感じる。
この細さには理由があって本「ラミーのすべて」によると、CP1は、そもそも女性向けに作られたものらしい。長めの台形(厳密には円すい台)をしたペン先の先端には芯を掴んでいる銀のパーツがちょこんと出ている。
この部分が個人的にはちょっとだけ気になった。それは、黒いパーツから銀色のパーツに変わる所が結構盛大にガクンとした段差になっているため。もう少しこのラインが自然であったらいいのにと思ってしまった。
どうやら、この銀色のパーツはラミー2000のペンシルと共通部品になっていたので、その影響なのかもしれない。
これを補うために、私はノックボタンをカチカチと3回を押して、いつもよりも芯を長めにしている。
こうするとバランスがいくぶん良くなる。芯が長く出ていると、折れやすくなるが、これはそもそも0.7mm なので、それ程筆圧の強くない私には大丈夫だった。これで CP 1のほぼ全てを探検し終えたことになる。
このペンを「シンプル」という言葉でまとめてしまうのには違和感を覚える。では、どういう言葉が適しているかと言われても、ピタリとくるものが思いつかない。しいて言えば「バランスの良さ」ということだろうか。これ以上書くとどんどん離れていってしまいそうな気がする。
とにかく、このペンが今も新品で手に入るというのはとてもうれしいことだ。
ラミーCP 1 ペンシル
*関連コラム
「使うほどにわかる計算しつくされたデザイン」ラミー2000 ペンシル
「ラミーらしさあふれる新作」ラミー ピュア
「水性ボールペンの魅力が存分に味わえる」ラミー スイフト SWIFT
オールアバウト 「ドクター ラミー インタビュー記事」
文具コラム ライブラリー
pen-info SHOP