文具で楽しいひととき
ISOT2011
国際 文具・紙製品展レポート
■ 欧文印刷
模造紙のような紙の表面がホワイトボードになっている「消せる紙(けせるし)」を作っている欧文印刷。同社では、紙の表面に特殊な加工ができる印刷技術を持っており、「消せる紙」もその応用の一つ。その「消せる紙」をさらに応用した商品が今回発表されていた。
まず一つ目は「WePad 」。
これは携帯用のホワイトボードセット。本体は二つ折りされており、それを広げると、内側がホワイトボードになっている。
面白いのは、広げても180度あたりでピタリと止まるようになっている。これなら片手に持ったままでも、書き込みやすい。ちょうどサッカーやバスケットでコーチが選手に指示をするボードみたいな感じだ。セットには、このホワイトボード本体以外に、ボードマーカー、そして消しゴムスタイルのイレイザーも付いている。
それらをひとまとめにできる専用ケースもついているので、このまま鞄に入れて持ち出すことも可能。
そしてもう一つが「NuBoard」というもの。
こちらは、リングノートスタイルのホワイトボード。A4サイズのリングノートの中にガッチリとしたホワイトボードが綴じ込まれている。
ここにボードマーカーで書いていく。なるほど、と思ってしまったのが、透明のフィルムがホワイトボードの上に2枚綴じこまれている点。どういう風にこれを使うかというと、たとえば、まずホワイトボードに何かを書き、そこに仮の案を上書きする時、フィルムをかぶせてその上に書いていくことができる。
フィルムを戻せば、元の状態を確認することもできる。いろいろとプランをシミュレーションする時にこれはよさそうだ。さらにホワイトボードに書いた図などを閉じて持ち帰る時に、このフィルムがあることで書いた文字を保護してくれるという役割もあるそうだ。
■ プラチナ万年筆
前々回のコラムでもご紹介した#3776の NEWバージョン。そのレギュラー版ともいえるブラックタイプが早くも展示されていた。
名前は「#3776センチュリー」というそうだ。実物を手にさせてもらったが、従来のものと質感が全然違っていた。
これまでのものはボディがサラサラとしていたが、今回のものはツヤツヤとしていて指先に吸いついてくるような感触があった。#3776のギャザードの質感にも似ているようにも感じられた。「ブラックインブラック」という名前も付け加えられていることもあり、黒さに一層深みがある。
私は、従来の#3776を持っているが、新たにこの新しいタイプも買おうかと検討している。
■ クロコラボ
ISOTの会場には数年前から「デザインステーショナリー ワールド」というコーナーがある。そこで見つけたちょっと驚きのノート。クロコラボというブランドで、ブースにはクロコダイルスタイルのアイテムがズラリと並んでいた。
その中で注目したのはノートブック。見るからにゴツゴツとしていて、クロコ革独特の表情がある。
手にすると、見た目通りの凹凸感が指先にしっかりと伝わってくるきっとこれは牛革か何かの革をクロコダイル風に型押ししているのだろうと思った。しかし、それにしては、一冊で1,365円という価格は安いような気がする。ブースにいた担当の方に、この表紙は何革ですか?とお聞きしてみると、
一言「紙です」という驚きの返事が返ってきた。試しに表紙を裏返してみると、確かに裏面は白い紙で、そこには型押しされた跡がしっかりとあった。
これを見て、私はどうにかこれが紙だと理解するこが出来た。それほど表紙の質感が紙っぽくない。
少しザラザラとしていて明らかに革の風合いというものがそこにはある。なんの紙を使っているかお聞きしてみたが、それは企業秘密とのことで教えていただけなかった。この表紙の加工にあたっては、革のタンナーの方と共同で行っているという。機械も革を作るときのものを使い、あくまでを革を作る工程とほとんど同じであるという。
これはインパクト大なノートだ。
■ K-DESIGN WORKS
同じく「デザインステーションナリーワールド」に出展していた「MUCU」でおなじみのK-DESIGN WORKSのブース。今回も目を引く新作が展示されていた。それはデスクカレンダー。
カレンダーそのものよりもそのスタンドに惹かれてしまった。木の板にちょっと見たこともない工具のようなものが取付けられている。
これは、「ハタガネ」と呼ばれるもので、木や紙を束ねて接着した後にそれをしっかりと固定するための道具なのだという。
以前からこの「ハタガネ」という道具に魅力を感じていて、買ってしばらく机に置いておいたという。
それを今回のカレンダーに使ったという訳。真鍮製で、もちろん無垢材になっている。ネジを緩めれば取り外せるようになっている。
カレンダーだけでなくメモなども挟んでおくこともできる。そして、木の板にもこだわっている。材質は、チーク材と杉の2種類がある。特に杉材の方は、見るからにいろいろな現場を渡り歩いてきたという風格が全身から漂っている。
実はこれ、工事現場の足場で使われてきたものだという。足場として何回か使われるといずれは廃棄されてしまう。その杉材をリユースしている。所々にペンキがはねたところがあり、それと真鍮の「ハタガネ」との組み合わせが実に絵になる。
■ メタフィス
今回のメタフィスブースでは、ちょうど昨年のISOTの時に参考出品されていたものが正式商品として幾つも並んでいた。
その一つが「gum」という消しゴム。
2mm というとっても薄いまさにガムのような形状の消しゴムだ。スリーブには、アルミが使われている。このスリーブの横には、スリットが入っている。これはギュッと握った時に、中の消しゴムをしっかりとホールドできるようにするためだという。
さすがに2mm という薄さなので単体では結構クニャクニャと柔らかい。
細かな配慮としては、スリーブの内側をアルマイト加工をしている。これは、消しゴムを出し入れしている時に、消しゴムがだんだんとアルミとこすれて汚れてしまうのを防ぐためだという。また、肝心の消字性にもこだわっている。
通常、消しゴムを作る時には熱処理して、固くさせているが、高温で処理すると、硬く締まった消しゴムになり消字力が落ちてしまう。今回のものは、低温で処理しているので柔らくて、密度が粗くなった事で消字力が上がったそうだ。
消しゴム自体は柔らかくなってしまうが先程のアルミスリーブがあることでそれを補ってくれる。薄いので、手帳のポケットに入れておくなど携帯性もぐっとあがる。
■ カール事務器
今回、日本文具大賞の機能部門を受賞したカール事務器の鉛筆削り「Angel 5」。
この「Angel 5」は新製品ではなく、1963年に発売された50年ものロングセラー商品。メタルボディには、2穴パンチの「アリシス」でも採用している上質な塗装が施されているが、基本となる構造は当時からほとんど変わってないという。特に刃は、何十年も前のものも今でも現役で全く問題なく使えるという耐久性がある。
この「Angel 5」では鉛筆の削り仕上げにもこだわっている。カール事務器は「シャープライン」と呼ばれる削り仕上げの設定になっている。これは鉛筆の芯先からのラインが少しばかり弓なり状に反ったように鋭く削る設定。日本語という画数の多い漢字を書く時に、この方が芯先が尖って書きやすくなる。
■ スタンテック
回転印をはじめ、数多くのスタンプを作り続けているシャイニー。
そのシャイニーでは、数年前からシーリングスタンプを日本でも展開している。今回、そのシーリングスタンプに新しいものが登場していた。これは内部機構に「二重てこ」を搭載したモデル。
シーリングスタンプはギュッと握って刻印を作るため、結構な力を必要とする。その力を軽減してくれる。実際にシールを押してみたが、確かに軽く押してもしっかりとした刻印が作れるようになっていた。
また、スタンプでは自分で消しゴムのスタンプが作れるというものがあった。
これまでも、消しゴムはんこがつくれるというものはあったが、今回のものは、シャイニーならではの回転印になっている点が新しい。
彫刻刀もセットされているので、これでオリジナルの回転印をつくることができる。
■ シード
消しゴムメーカーのシードブースで、商品ではないが、思わず目をとめてしまったものがあった。それは、消しゴムによるカーヴィングの作品。
よくフルーツカーヴィングといってパイナップルなどのフルーツを美しいオブジェのようにカットするというアートがある。そのカーヴィング アーティストの方に消しゴムを素材として提供したところこのような美しい作品を作ってくれたという。
消しゴムには、到底見えない美しい出来栄え。
消しゴムは適度に柔らかく刃が入りやすいので、こうした細かな加工に適しているのだという。それにしてもすごい。これは、もはやアートの域に達している。
■ 日東電工
最後にこちらも最終商品ではないが、今後のデジタルペンの行方に大きな影響を及ぼしそうな技術が展示されたので、ぜひご紹介しておきたい。これは手書きしたものがデジタル化されていくという技術。
それ自体はこれまでもいろいろなメーカーから出されていた。今回この日東電工のものが新しいのは、ペンを選ばないという点だ。
つまり、自分のお気に入りのペンを使ってデジタルデータ化して保存できるというメリットがある。原理は紙の回りにある枠から光が出ていて、反対側でそれを受け取るという仕組み。厳密にいうと、四角いフレームの上と右側から光が出ていてその反対側で受け取っている。枠の中にペンで書くとその光を遮断する。その座標軸をもとに、デジタルデータ化していくというものらしい。
紙も特別なものではなく、いつものものを使うができる。試しにちょうど持っていた万年筆で書いてみたが、しっかりと認識してくれた。
この技術を開発した日東電工は粘着テープなどを製造する材料の専門メーカー。今回の技術を自らデジタル文具として商品化するのではなく、他のメーカーに技術提供していくことを考えているという。
ペンも紙も選ばず、自由に書いてデジタル化できる世界かもすぐそこまで来ている。
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