2009.10.27(191)

「ノート用にあつらえた万年筆」

ペリカン 

スーベレーンM400 by フルハルター

ペリカン スーベレーンM400 by フルハルター

2009年10月1日に小山龍介さんと共著で「ステーショナリーハック!」を出版させていただいた。実はこの本、かなり以前から企画自体はスタートしていた。私がメルマガを始めた頃だからもうかれこれ5年くらいのお付き合いになるマガジンハウスの編集者がいらして、その方から2007年のお正月に万年筆でこう書かれた年賀状をいただいた。「デザインステーショナリー+仕事術のような本を出したいですね。」と。この年賀状がきっかけとなって、この本の企画はスタートした。という訳で足かけ約2年でこの本は実現したということになる。

十月十日で子供を産むところをその倍の時間をかけたというこもあって私にとっては思い入れのこもった本なのです。こうして、せっかく本が出版されたのでこれは何かしっかりと形に残しておかねばなるまい。

■ 自分へのご褒美という「大義名分」

そうだ、2年間頑張った自分へのご褒美として万年筆を買おうじゃないか。心の中にいる私の分身たちが、「そうだ!そうだ!そうするべきだ!」と言っているのが聞こえてくる。

いつも何かを買おうとする時は、心の中のやはり分身たちの「それ本当に必要なの?」「もう1日考えてみてから決めたら?」という消極的な声が聞こえてくることが多かった。しかし、今回だけは全会一致であった。そして晴れて万年筆を堂々と買うことにした。

単に万年筆を買うのではなく、本を出させていただいた記念に万年筆を買うというが何とも特別な感じがあって嬉しい。

では、今回はどんな万年筆を買おうか。記念とは言え、飾っておくのではなく日々仕事の中でバリバリと使えるものでなくてはいけない。原稿を書くときのための万年筆としてはペリカンM800やパイロット823あたりはすでにある。

ペリカン スーベレーンM400 万年筆 by フルハルター

パイロット 万年筆 カスタム 823 コース by フルハルター

さらに、この用途で万年筆を増やしていっても、彼らの出番が少なくなるだけだ。さて、どうしたものか。そこで、まず自分の1日の生活の中でペンを持つシチュエーションを思い浮かべてみた。

朝一ではToDoリストを書く。これはキャップレス デシモがすでに担当している。

パイロット キャップレス デシモ 万年筆

 

そして、次に行うのがスケジュール帳の予定の記入。これは、現在ラミー2000のペンシルがここ1年間担当してくれている。

ラミー ラミー2000 ペンシル 0.7mm

これを万年筆に変えるというのはあるにはある。しかし、予定がコロコロと変更してしまう私にはやはり簡単に書き直せる方がいい。ということで、スケジュール帳のための万年筆というのは、却下。

そして、次に考えられるのは、取材や打ち合わせ時のノートの筆記。これは、えーと・・・・、そうか!!ノートのペンというのはこれ!というものがなかった。

ある時はジェットストリームを入れたラミースイフトやぺんてるのグラフ1000のシャープペンあたりを使っていた。なるほどノートのペンとして万年筆という手があったか!考えてみれば1日の中でも結構な量を書いている。実は、これまでもノートに万年筆で書いていたことは幾度もあった。

しかし、私の所有しているのがどちらかというとBやMといったやや太めのペン先だったので、ノートの筆記にはあまり向いていなかった。

私がノートに書くのは、どちらかというと外出先が多い。取材やクライアントの打ち合わせ等がそうだ。とすると、比較的コンパクトでそれでいて細字系がいいだろう。かなり条件が絞られてきたぞ。この条件に見合うものを考えてみた。どんな万年筆を買おうかと、あれこれ悩んでいる瞬間が一番楽しいものだ。

余談となってしまうが、ついこないだ読んだ本「「暮らしのヒント集」(暮らしの手帖社)の中でこんな素敵な文章があった。「旅をするとき目的地に早く到着することばかり考えがちですが、時間をかけてゆっくり途上を楽しむプランを組み立てて見ましょう。目的地にたどり着くまでが旅ですよ。」

というもの。これには激しく同意してしまった。ゆっくりと途上を楽しむのは旅だけではなく、万年筆などの買い物にも当てはまると思う。

「趣味の文具箱」のバックナンバーの全てをよっこらしょと持ってきて机の上にドサッと置き丹念に眺め、タップリと途上を楽しんだ。

■ その末に選んだのが、ペリカンのM400

ペリカン スーベレーンM400 万年筆 by フルハルター

言わずと知れたペリカンのスーベレーンシリーズ。ペリカンには、スーベレーン1000を筆頭に800、600、400そして300というラインナップが揃っている。

ペリカン スーベレーンM400 万年筆 by フルハルター

【左:M800、右:M400】

400は上から三番目の大きさ。上から考えると三男ということになるが、私はこんなイメージを持っている。1000がおじいさん、800がその息子のお父さん、そして600が長男、400は次男、300は長男の子供、つまり孫という勝手なイメージ。ということで400、三男ではなく、次男。私も次男なので、勝手に親近感を感じている。

結構小ぶりなボディのせいか、私のような大きな手の男性よりも女性優しい手の方が似合いそうな気もする。

ペリカン スーベレーンM400 万年筆 by フルハルター

しかし、私はこのコンパクトさにとっても心惹かれてしまった。実際、私の手に収めてみると確かに小さい。小さいゆえに取り回しやすく、取材のときなど、忙しくペンを走らせる時にもまさにちょうど良い。そして、何よりこの小さなボディにも吸入機構が備わっている。そんなメカニカル感がいい。小さな精密機械と言った感じがしてくる。

ボディは、400で決まり、ペン先は細字のFあたりかな、、、ここまで心に決めて、善は急げと大井町のフルハルターさんの所へ向かった。出発前にはあらかじめ定休日を確認することも忘れなかった。あふれでそうになる喜びを押さえながら冷静に定休日を確認するなんて大人な対応なだと、自分に感心してしまう。

フルハルターさんの定休日は火曜日と水曜日、今日は木曜日なので大丈夫。勇んで出発!今にもスキップし出しそうな足を落ち着かせて向かった。いざ着いてみると、店の前に1枚の貼り紙が…。何と、遅い夏休みで、お休みだという。

ガックリと肩を落とし、行きがけには期待と喜びでM800ぐらいに大きかった私の体はすっかりしょげかえってM400くらいになっていた。しかたなくトボトボと家路につく。

そして、気を取り直して翌日に再びフルハルターさんへ。今度は過度の期待をしないようにM600くらいの普通の体のサイズで向かった。ドアを開けて森山さんに開口一番 M400が欲しいのですがと伝える。内に秘める私の興奮をよそにいつも冷静な森山さんはそこにおかけくださいと言って私の気持ちを落ちつかせくれる。

そして試し書き用のM400をどうぞとキャップを外して渡してくれた。「小さい…そして軽い。。」

ペリカン スーベレーンM400 万年筆 by フルハルター

これまでも何度もM400を手にしたことはあったが、今更ながらにそのことを感じてしまう。今回はノート用の万年筆であることをお伝えすると、じゃあ愛用のノートで試し書きをしてみてくださいと言ってくださった。

■ いつものノートで試し書き

あらかじめ持参しておいたA5サイズのリングノート開き、書いてみる。

ペリカン スーベレーンM400 万年筆 by フルハルター

手にしているこれは、ペン先がかなり細めだった。これはFですか?と訪ねてみると、一番細いEFだという。EFにしては少し太めな印象だった。

国産のパイロットあたりだとFぐらいに相当する細さだ。これがペリカンのEFなのか。あまり細すぎることがなく、これはかえってちょうど良いかもしれないという考えがよぎる。試しに5mm方眼の一マスに自分の名前を書いてみる。

ペリカン スーベレーンM400 万年筆 by フルハルター

しっかりと書けた。もう一つ太めのFだとノートにはやや太すぎるかもしれない。しかし、EFよりも気持ち太めでもって万年筆らしい滑らかさでノートにも書いてみたい。

そこで、EFをややFよりに研いでいただけませんか?とお願いをしてみた。厳密にどこまでできるかわかりませんが、やってみましょうと引き受けてくださった。こうしたことにも対応してくれるのでやはりフルハルターさんは信頼感がある。

そして、最後の儀式である名前と住所、電話番号を書きとめる段になった。森山さんによると、ペンの大きさ太さによって微妙に握り方や書き方は違うそうなので、以前に注文した人も必ず毎回書いてもらうそうだ。こうして楽しい注文作業は終わった。

そして2週間程の月日が経ち「出来上がりました」という嬉しい連絡が入る。キラキラと輝いている私のM400がおとなしく待っていてくれた。

ペリカン スーベレーンM400 万年筆 by フルハルター

書いてみる。

この瞬間がちょっと不安がありながらもワクワクドキドキしてたまらなく嬉しい再びノートを広げ、書き慣れた自分の住所書く。しっかりとした安心感のある細字。

ペリカン スーベレーンM400 万年筆 by フルハルター

注文した通りEFよりもやや太めに仕上がっていた。

ペリカン スーベレーンM400 万年筆 by フルハルター

EFということで書き味はさすがにBなどのように滑らかとまではいかないが、軽く書いているとサラサラと気持ちよくペンが進んでいく。これは書けばもっともっと良くなっていくと、森山さんは教えてくれた。愛しいまなざしでペン先に目を近づけてみるとそこには、「B」という刻印があった。

ペリカン スーベレーンM400 万年筆 by フルハルター

なんと森山さんはもともとBであったペン先をEFに研ぎ出してくれたようだ。何だか森山さんからご褒美をもらった気分になってしまった。

ペリカン スーベレーンM400 万年筆 by フルハルター

フルハルター

*今回の私のようにBからEFに研ぎ出すというのは、フルハルターさんでは、現在行っていないようです。

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