文具で楽しいひととき
ペーパーワールド チャイナ
2008 展示会レポート
北京オリンピックもあり目覚ましい経済成長を遂げている中国。そんな中国も、アメリカ発の金融不安の影響を受けていると日本のニュースで報道しているの見かけていた。実際に、上海の中心街を見てみると、相変わらず高層マンションが建ち並んでいるものの、確かに昨年に比べ建設中のマンションの数は少ない印象を受けた。
特に、夜にマンションを見あげると、明かりが付いていない部屋も結構あった。やはり影響をうけているのだろうか。ただ、町中の中国の人たちに目を移すと、これは国民性なのかもしれないがとても活気に満ちていた。まだまだこれからも発展しそうなパワーを秘めているように私には感じられた。
そんな中、上海で11月27日~29日の3日間、文具の国際展「ペーパーワールド チャイナ 2008」が開催された。
4回目となる今年は、23カ国から631社が出展。昨年が618社だったので、規模的にはさほど変わらない。展示会の出展社数は、ある意味その業界の景気の善し悪しをはかるひとつのバロメーターとも言えるので、ひょっとすると、中国の文具市場がやや停滞気味なのかもしれない。出展社の顔ぶれは、その大半の80%近くは中国系の企業、そのほか、ドイツ、アメリカ、イタリアなどの欧米企業、そして、もちろん日本のメーカーも出展していた。
今年も個人的に気になったブースを見つけ取材を行ってきた。
■ 小中学生向け万年筆
展示会場は、全体で4ホールあり、それぞれカテゴリーごとに分かれていた。そのひとつ、筆記具だけを集めた展示ホールの中で見つけた万年筆メーカー、南昌海源筆 有限公司。1981年創業と歴史的にはそれほど古くはないが、万年筆一筋に製造を行っているという。
1996年までは、中国国内市場で販売し、1997年からはヨーロッパや南アフリカなどの文具メーカー向けに客先メーカーの万年筆を作るOEMを行っている。確かにブースには、とあるドイツメーカーのものも展示されていた。
万年筆の中でも同社が得意としているが、小中学生が使う低価格のものだ。プラスチックボディにスチールペン先。
若い世代向けということで、カラフルなものが多い。
いわば、ペリカノジュニアと同じ市場を狙った万年筆ということなのだろう。
材料こそ他社から仕入れるが、それ以降は、自社の工場でペン先やペン芯に至るまで完全に自社で製造している。また、彼らがしきりに力説していたものに、カートリッジインクがあった。彼ら曰くだが、生産量は世界でもトップクラスだという。
ちなみに、欧米に輸出するインクはブルーで、中国国内向けはブラック。やはり、中国は書道の墨の文化があるからだろう。そう言えば、我々日本でも、新品の万年筆を買うと、最初に黒インクが付いてくることが多い。
中国国内での万年筆の市場性について聞いてみた。特に彼らのメインターゲットである小中学生については、政府の規制で小学生3年以上は、万年筆を使うようにという一定のルールがあるとのことだが、それほど徹底されているわけでもないそうだ。
こうした中国の小中学生向けの万年筆のペン先には、やはり、漢字を書くということで細めのFが標準になっている。現在、中国での万年筆市場は、やや縮小ぎみとのことだった。たしかに、今回のペーパーワールドチャイナの展示会会場では、昨年同様万年筆メーカーは10社にも満たなかった。
筆記具の展示ホールのほとんどは、鉛筆とボールペンが中心だった。
■ 英雄 礼賛 万年筆
中国の万年筆メーカーと言えば、きっと誰もがあげるであろう「英雄(HERO)万年筆」。
その英雄万年筆が今回は出展していた。同社は、今なお続いている中国万年筆メーカーの中でもっとも古い歴史を持っている。そんな有名な英雄であっても、出展スペースとしては、それほど大きくはなかった。中国における万年筆事情をひとつ表しているのかもしれない。ブースの看板を見ると、気になる文字があった。「英雄 礼賛」となっていた。
「礼賛」は、「英雄」とは別に2005年より立ち上げられたブランド。「礼賛」の方が「英雄」よりも高級なイメージ。「英雄」は主に仕事をする時の実用的な位置づけで、伝統的なデザインであるのに対し「礼賛」のほうは、よりステイタス感があり、デザインもヨーロッパテイストを意識しているという。
礼賛の中でも、もっとも人気があるのが、「礼賛910」というモデル。装飾的なものがないシンプルなデザインになっている。
「英雄」にしろ、「礼賛」にしろ、中国の万年筆の中でよく見かける特徴は、ペン先が、ほんの少ししか出ていないタイプのものが多いこと。これは、昔からあるタイプで、ユーザーの間ではこうしたクラシカルなスタイルを望む声が今なお多く、現在も採用しているのだという。
■ 中国ならではの万年筆を発見!
「英雄 礼賛万年筆」のすぐ隣のブースで思わず立ち止まって見入ってしまった1本のペンがあった。
それは、今年世界中の注目を集めた「北京オリンピック」のペン。
聖火ランナーが手に持つ「トーチ」をかたどった、というよりも「トーチ」そのものだ。
このペンを製造している「上海福士制筆有限公司」は主にメタル製ボディのペンを専門にしているメーカー。1940年代に今のオーナーの祖父が万年筆製造をはじめ
三代にわたってペンを作り続けている。さて、この「トーチペン」、シルバーの部分は、メタル製。
この加工が大変難しかったと、社長が熱く語ってくれた。確かに、ボディはまっすぐではなく、緩やかにカーブを描いており、軸の直径もラッパ状に段々と拡がっている。はじめにまっすぐになっている普通の筒状のメタルをすこしずつ加工して、こうしたカーブ、そして広がりを作り出していくのだという。
私が質問をしようとすると、それを遮って、なおも力説は続いた。ボディには「トーチ」と同じ赤の唐草模様のようなものがあるが、これは、成形した後に印刷をしているのだという。彼曰く、平面のものに印刷するのは簡単だが、
こうした特殊な形のものに印刷するのは、かなりの技術を要するのだという。
ようやく質問することを許され、このペンはどうやって書くのかを聞いてみた。赤いパーツがキャップになっていて、これをはずすと、ペン先がでてくる。なんと万年筆になっていたのだ。
もちろん、実用的に使うことも可能だという。このペンは北京オリンピックの公式のもので、2万個限定で製造された。一般の文具店やデパートなどでは一切販売されておらず、北京オリンピックに関わりのある企業だけに限定して販売されているものだそうだ。
そうそう、これは余談になるが、オーナーと名刺交換をしたときに、私の名刺をみて「オー、ペンインフォ!」と目を丸くしていた。彼は私のウェブサイトをよく見てくれているのだそうだ。中国で私のサイトを知っている方にお目にかかれるとは、とても驚きであるとともに、実にうれしいことだった。
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