文具で楽しいひととき
ステッドラーなど7ブランド
鉛筆
以前、pen-info で「一人鉛筆選手権」をとり行った。
それまで、なんとなく鉛筆を選んでいたが、一度腰を据えて自分に最もしっくりくる鉛筆を選ぼうじゃないかと、思ったのだ。残りの人生で書ける文字数も限られていることだし。。その時はいくつかの鉛筆ブランドのハイエンドモデルから選んだ。三菱鉛筆のハイユニ、トンボ鉛筆のMONO100、ステッドラーのマルスルモグラフ、ファーバーカステルのカステル9000。それらを同じ硬度(HB、B、2B)で徹底的に書き比べていった。その結果、私が選んだのがトンボのMONO100だった。自分にとっての定番鉛筆も無事決まり、その後の鉛筆人生は平穏に過ごしていけると思っていた。
ところが、そうはいかなかった。ある時、ストックしている鉛筆ケースからコヒノール1900の4Bを取り出し、何の気なしに書いてみた。すると、すごくいいのである。4Bという迫力のあるその数字、そして明らかに太い鉛筆の芯。それなのに書いてみるとふつうにいいのである。私の好きなトンボMONO100にどことなく近いなめらかさがあった。コヒノール1900においては、私にしっくりとくる硬度は、なんと4Bだったのだ。
私の好みはHB近辺にあるものとばかり思っていたので、この出来事には大いに驚かされた。ということは、コヒノール1900のように、他のブランドでも硬度を幅広く検討してみると、その中に私好みの書き味が隠れているのではないか、そう私は考えた。そして早速、銀座 伊東屋 K.Itoya の4Fの鉛筆売り場に向かった。ここは鉛筆の品揃えが豊富で、しかもほぼ全ての鉛筆にはテスター(試し書き用)が用意されている。うれしいことに大きな紙まで設置されているのだ。思う存分鉛筆の試し書きができる。
*伊東屋さんの広報の方に許可をいただき店内の撮影をさせていただきました
30分くらい時間をかけて大きな紙を真っ黒にしつつ試し書きをさせていただいた。選び方は、私の定番鉛筆であるトンボMONO100のHBを基準に行っていった。この書き味に近いと思う鉛筆を選んでいくことにした。最終的に6ブランド11本の鉛筆を選び、買ってきた。
■ ステッドラー マルスルモグラフ B、2B
実は、当初の「一人鉛筆選手権」でトンボMONO100と最後のギリギリまで悩んだのが、このステッドラー マルスルモグラフだった。MONO100はひたすらなめらかであるのではなく、ほどよいなめらかさがある。例えるなら芯の強さのあるなめらかさ。それでいてわずかにオイルタッチな書き味も感じる。ルモグラフもそれによく似たタッチがあるのだ。ただ、わずかに私の手はMONO100のなめらかさの方に軍配を上げた。
そして、改めてルモグラフを書いてみた。様々な硬度があるなかで私はBと2Bに心地よさを感じた。じっくりとMONO100と書き比べてみると、2Bの方がなめらかさに落ちつきがあり、私好みであった。MONO100に比べてわずかに硬い印象があるような気もする。Bの方は、その硬さがさらに増すが、私のストライクゾーンに十分入っていた。
■ 三菱鉛筆 ハイユニ HB、F
なめらかな書き味ということで言えば、やはりハイユニだろう。多くの愛用者がいる。HBを書いてみると、これぞハイユニ!という安定感のあるなめらかさが手の中に押し寄せてくる。これはこれでとても気持ちいいが、私には少し滑らかすぎる気もする。そこで一段階硬めのFを試してみた。わずかにしっかりとしたタッチの中にもハイユニならではのなめらかさも同時に感じる。ちなみに「F」は「Firm(しっかりとした)」の頭文字。まさにその「しっかり」が味わえる書き心地だった。念のためHBも買ってきたが、好みでいえばF>HBという感じになる。
先ほどのルモグラフではB、2Bというやわらかめを選んだが、ハイユニでは一転して硬めのFだった。これぞ、鉛筆それぞれに個性があるということなのだ。
■ ファーバーカステル カステル9000 2B、3B
ルモグラフ、ハイユニはなめらかさが味わえる系の鉛筆だった。カステル9000は、その対極の硬さに特長がある。私が選んだのは、かなりなめらかめの2Bと3Bだった。カステル9000を書く時に感じるのは、ドライなタッチの書き味。この表現で読者のみなさまにはたして伝わるだろうか。書き味を言葉に置き換えるのは難しい。
カステル9000の3Bは、削った芯先が結構太い。その存在感に圧倒される。しかし、書いてみるとちょうどよい滑らかさなのだ。MONO100のHBに近いものがある。2Bはそれよりもわずかに硬め。でも十分気持ちよく書いていける。ある意味で硬質・ドライタッチなカステル9000らしさを感じられる書き味とも言える。この2Bの書き味も捨てがたくて今回購入してみた。
今回の硬度選びはMONO100のHBを基準にしてはいるが、全く同じである必要はない。というか同じというのはあり得ないのだろう。要は自分が書いていて気持ちよければいいのだ。
■ リラ REMBRANDT 2B、3B
リラという鉛筆、なんとなくの私の記憶では滑らかというイメージがあった。改めて書いてみると意外と硬めだった。選んだのは2Bと3Bだった。やわらかいと思っていたのは、私の記憶違いだったのかもしれない。3Bで書いてもなめらかすぎることはなかった。書き続けても、すぐに芯が減ってしまうことがなさそうな、そんな強さもあわせ持つ滑らかさだった。鉛筆それぞれでなめらかさに独特の「味」があるのを改めて感じた。
2Bは、それよりわずかに硬さがある。筆跡も少しだけ薄くなる印象がある。
■ カランダッシュ TECHNOGRAPH 777 2B
カランダッシュは、私の中でカステルに近い硬めのややドライなタッチという部類に入る。このTECHNOGRAPH 777は、まさにその書き味だった。色々な硬度で書いてみると、B系の2Bに落ち着いた。2Bでもまだ硬さが手に残る。筆圧を入れると多少の滑らかさがあるが、軽く書くと独特の硬さを一層感じられる。そんな個性も今後の選択肢のひとつとして楽しんでみたいと思う。
■ カランダッシュ GRAFWOOD775 HB
同じカランダッシュでも、こんなにも違うのかと驚かされた。こちらはなめらかさが筆記後に手の中にじんわりと残る。選んだのはHB。MONO100のHBをほんのわずかに硬めにしたくらいだった。軸が少し太く、塗料もタップリと塗り重ねられているようだ。それが書く時の振動を少し減らしてなめらかな書き味にしてくれているのかしれない。なかなか上質な書き味だった。先ほどのTECHNOGRAPH 777 よりこちらの方が私好みだった。
■ DERWENT GRAPHIC 3B
イギリスの鉛筆ブランドDERWENT。絵を描く人向けのアーティスト向け鉛筆という印象を私はかねてより持っていた。選んだのは、3B。ドライタッチがある中でなめらかさも共存していたのが、この3Bだった。なめらかさの中にも書き応えのようなものも感じた。
*
今回のベンチマークとしてトンボMONO100のHBを基準にして、7ブランドの中で好みの硬度を探してきた。その結果、Fから3Bまで実に幅広い硬度を選ぶことになった。先ほども触れたが、これこそがそれぞれの鉛筆の個性の表れということなのだと思う。私の中でMONO100だけでなく、新たな選択肢が生まれた。これからの鉛筆ライフが少しだけ幅広いものになった。
銀座 伊東屋 K.Itoya
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