文具で楽しいひととき
TOOLS to LIVEBY など
アジアの中で、私が今もっとも注目している台湾。そんなにたくさんの国に行った訳ではないので比較の対象は少ないが、その中でも台湾はとても私の性に合った。たとえば、町を歩いていてもゴミが落ちていなくてとてもキレイだし、町に停められているスクーターがすべて同じ向きにしかもほぼ等間隔でビシッと並べられていたりする。また、これはよく言われることだが台湾の人はみんな実に親切。タクシーに乗っても料金交渉されたことは一度もない。まるで、日本のどこかの都市にいるような居心地の良さがある。かといって、海外ならではの刺激が少ないかというとそんなことはない。ステーショナリー系ショップを回ってみれば、そのセンスの良さにうっとりしてしまう。このまま日本でオープンしたら結構な人気店になるのではないだろうか、というインディ系のショップがいくつもある。
今回の台湾出張では、日本の文具業界の方々20数名が参加された。後で紹介するが、メインの目的は金石堂書店で開催された「金石堂手帳展」というイベントに参加するためだ。私が台湾でお気に入りのショップを回ると話したら、一緒に行ってみたいという人たちが思いの外多く、ならばみんな一緒に行こうぜ!ということになり「台湾ショップツアー」を敢行することになった。
■ Plain Stationery Homeware & Cafe
はじめに訪れたのは、台湾の文具パワーブロガーであるタイガー・シェンさんのお店。この4月にオープンされたばかりの2号店「Plain Stationery Homeware & Cafe」にお邪魔した。忠考新生駅5番出口を出て15秒ほどという好立地。とは言え、大通りではなく路地裏にひっそりとたたずんでいるので、隠れ家的お店という雰囲気もあって落ち着きがある。
1号店に比べて2倍ほど大きい店内。今回はカフェが新設されている。コーヒーやオリジナルブレンドの紅茶、そして台湾のクラフトビールも楽しめる。買い物、とりわけ真剣に文具を選んで買うというのは、思った以上に体力を使うので、こうしたカフェを併設してくれているのはうれしい。
店内には、「いい思い出を作る」をコンセプトにタイガーさんの厳しい目でセレクトされたアイテムが並んでいる。タイガーさんは、日本の大学に留学されていたということもあり大の日本文具好き。店内にはかなりの割合で日本の文具がある。中には、こんな日本の文具があったのか、私たち日本人にも新鮮に映るものもあったりする。たとえば、北海道のメーカーによるオールウッド製のボールペン。ボディはもとより、ノックなどの機構部品に至るまで木製パーツで出来ている。タイガーさんの日本文具の掘り出し力にはいつも驚かされる。ただ、最近では日本文具を並べるショップも台湾で増えてきている。そのため、この店では日本文具の割合を少し落としてヨーロッパ系のものの割合を上げているという。そうした文具に混じって「シンワ」という計り専門メーカーのプロ用の直尺などがさりげなく置いてあるところがデザイナーでもあるタイガーさんらしい。店名に「Homeware」とあるように、コーヒー器具や台湾デザイナーによる靴下などもある。
*私がPlain Stationery Homeware & Cafeさんで買ったもの。
ブラックウィング鉛筆の限定色と思われるブラウンカラー。カラフルな替えの消しゴムもあったので、それらも購入。
カランダッシュの鉛筆。美しいダークブラウンに惹かれ1本購入。これでアイデアを書いたらうまく行きそうな予感がする。。
ハンガリー製だというクラシカルなクリップ。日頃よく使っているマニラフォルダーをとめておくのによさそうだと思い購入。やってみたらバッチリだった。紙を固定するところが凹凸に加工されているので、ホールド感もよい。
■ VVG Thinking
タイガーさんのお店から歩いて10分ほどのところにある「華山1914文創園区」。もともとは工場だったエリアに今はクリエイティブ系のショップやミュージアムが入っている。当時の煉瓦造りはそのまま活かしているので、アンティークな空気感が漂っている。その中にある「VVG(very very good) Thinking」。前回の台湾訪問ですっかり魅せられてしまったショップだ。今回はお店の方に許可を頂いて店内を撮影させて頂いた。
メインは書籍。その一冊一冊は全て販売されているものだが、商品というよりそれらが店内を効果的に演出する小道具として機能している。台湾語の本、写真集、さらには日本の本も多く並んでいた。日本の書店にあるような本のジャンルごとのカテゴリー表記は一切ない。しかし、見ているとゆるやかにカテゴライズされているのを感じる。その境界線は、グラデーションのように自然に溶け込んでいる。それらの本の合間には雑貨や文具、工具類、食器などが本とピタリと息をあわせるようにディスプレイされている。しいて言えば、そうした雑貨類がカテゴリーのアイコンになっているように思う。
VVGは台北だけでも10店舗もある。書店、ビストロ、カフェなどそれぞれで扱いアイテムは違うが、店内の独特なテイストはどこも同じようだ。日本にもぜひオープンして欲しいショップだ。
*私がVVG Thinkingさんで買ったもの。
鉛筆を2種類。黒い方は、スリム軸なので手帳の背にセットするのによさそうだ。そして、何に使うかわからず買った洗濯ばさみ4つ。洗濯干しにだけは使わないつもりだ。
■ TOOLS to LIVEBY
今回のショップツアーの中で、私が一番訪れたいと思っていたのが、この「TOOLS to LIVEBY」だ。前回の訪問の際、帰国直前に台湾の方からこのショップの存在を教えてもらった。そのときは時間がなく行けず、涙を飲んだ。今回は2店あるうちのひとつをみんなで訪ねてみた。最寄りの駅から歩いていると、はじめはカフェやコンビニなど台湾の町並みが続いているが、しだいに一般民家エリアになっていく。こんなところにショップがあるのだろうかと不安に思っていると、公園の前の民家と民家の間にひっそりとあった。決して大きなお店ではないが、独特なオーラは店の外にもあふれ出ていた。
私たちが行った時間は、すでに夕方5時を過ぎようとしている頃だった。この時間帯にもかかわらず、店内には若い人たちで埋めつくされていた。そのお客さんの手には小さなバスケットがあった。生まれたての卵でも入っているかのようにバスケットの下から両手で優しく支え、みな一様に大切そうにかかえていた。そして私も店員の方からそのバスケットを手渡された。
タイガーさんのお店と同じように、ここも日本の文具率が高い。そして、見ているとやっぱりワクワクしてくる。私になりに分析をしてみると、並べ方や演出の仕方によるものなのだろうと思った。パッケージなどは日本で販売されているままなのだが、メーカーによる什器は一切ない。そのひとつひとつが彼らオリジナルの机や什器の上に小道具などと共に並べられている。たとえは少し違うかもしれないが、絵で言うと額縁や壁の雰囲気が違うということなのだろう。人はモノをお店で買う時、その商品だけを見つめているのではない。視界には当然その商品のまわりも目に入ってくる。それを含めた印象が演出されていて、いつも見慣れている日本文具がとても素敵に映るのだろう。
30分ほど店内をそうした観点で見ていき、手にした小さなバスケットにたくさんの文具を入れていった。それを私も生まれたての卵をかかえるようにしてレジに向かった。
*TOOLS to LIVEBY で買ったもの。
TOOLS to LIVEBYオリジナルのクリップ。この他にもいくつもの形のものがあった。私選んだこのタイプは紙にとめると、四角いフォルムがおもてにくる。その中にインデックスを書き入れるのもよさそうだ。
芸が細かく、TOOLS to LIVEBYの頭文字「TTLB」が小さく小さく刻印されていた。
出発前に、TOOLS to LIVEBYのウェブを見て予習をしておいた。これは買うべしと心に決めていたものがあった。まるで工具のような真鍮の棒は、中にシャープペン芯が入っている。末永く使っていけるシャープペン芯ケースである。
TOOLS to LIVEBYでも鉛筆を買ってしまった。下の三菱鉛筆のものは、消しゴムをとめている金具がシックで格好いいと思い購入。帰国後に調べてみたら日本でも普通に売っているものだった。。その格好よさに気づかせてくれたTOOLS to LIVEBYに敬意を表して買ったのだと自分に言い聞かせた。上のブラック鉛筆はクリップが付いているので、なにかと便利そうだ。
手提げとショルダーのふた通りの持ち方ができるオリジナルトートバッグ。
*TOOLS to LIVEBYのお店の方に許可を頂き、店内の撮影をさせて頂いた。
*TOOLS to LIVEBYのオリジナル商品は、今後ハイタイドを通じて日本でも販売されるという。
■ 手帳総選挙 @ 金石堂手帳展
日本手帖の会が国内で開催している「手帳総選挙」。その100冊をそのまま台湾に持ち込み台湾でも行っている。今回で3回目を迎える。回を重ねるごとに、台湾での認知度は高まっているようで、たくさんの台湾手帳ファンが詰めかけていた。みんな熱心に使い心地を確認していた。台湾でも現地オリジナルの手帳はいくつも販売されている。日本と同じように年末には文具店や書店には手帳コーナーが立ち上がるところも多い。その中には、手帳を透明のパッケージに入れて、見られるページは数ページだけというものもあったりする。もちろん日本と同じで手帳の試し書きはできない。そうしたこともあり、すべて見放題そして書き放題というのは台湾手帳ファンにとっては天国のような感じなのだろう。
今回は、これまでと違う金石堂書店で開催された。板橋駅のすぐ上にあるショッピングモールだ。この駅は台湾の新幹線、ローカル線、地下鉄、バスがとまるターミナル駅ということで乗降客数がとても多い。実際、今回の手帳総選挙では、過去最高の800名以上の参加があったという。手帳のコアファンだけでなく、ふらりと書店に立ち寄った方も参加されていたようだ。そうのせいだろうか、ベスト10の顔ぶれを見ていると、表紙の好みで投票したのでは、という印象を受ける結果でだった。いずれにしても、これが台湾のリアルの声ではあるのだ。
*台湾での投票結果
1位 ポーチダイアリー(デザインフィル)
2位 mizutama 手帳A5(クレス)
3位 HAPPY MAKE DIARY A6(クーリア)
3位 トラベラーズノート(デザインフィル)
3位 Miffy 家計簿手帳A6(クツワ)
*写真左から1位そして10位まで
■ 手帳展の中で、トークイベントをさせていただきました。
「今、注目の日本文具のトレンド」と題して、タイガーさん、間辺さんの3人でお話しました。たくさんの台湾の手帳・文具ファンの方々にご参加いただきました。「ストレスフリー文具」、「機能系ふせん」、「表現力のあるペン」という3つのキーワードをあげ、その代表的な参加者の方々にも実物を手にしていただきながら紹介しました。最後の質疑応答では、かなり突っ込んだ内容の質問があり、台湾の文具度の高さを実感しました。私の感覚では、日本とほぼ同じ熱心度でした。
今回の「手帳展」に参加された日本・台湾の方々ならびに金石堂書店のみなさまとの記念撮影。
■取材後記
ショップツアーの途中に地元で人気だという小籠包のお店でランチ。食べ始める前に撮影をしているみなさん。台湾に駐在している文具仲間の日野さんに連れて行っていただきました。
* Plain Stationery Homeware & Cafe
* VVG (Facebook)
* TOOLS to LIVEBY
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