文具で楽しいひととき
国際 文具・紙製品展レポート
7月に開催されたISOT2016 国際文具・紙製品展。ISOTに限らず展示会場に入ると、いつも感じるのは「非日常」という独特な空気感。大きなブース、ブースから発せられる大きな音や声、そこにたくさんの人が集まっている。みんななんだか忙しそうだ。日常から入ってきた私は一瞬面食らってしまう。なんだかわからないが、自分もこうしてはいられないという気分になってくる。展示会にはお祭りのような一種独特なものがある。それに流されてはいけない。冷静に文具と向き合うためには、自分をしっかりと取りもどす必要がある。深く息を吸い込んで他の人たちの半分くらいのスピードでブースを回っていく。一休さんではないが「あわてない、あわてない」だ。そんな心持ちで11社を取材してきた。
■ 紙の可能性はまだまだある
ISOTのメインの入り口をくぐり抜けると大きなブースがズラリと並んでいて、多くの来場者の注目を集めている。もちろんそうしたところも見ていて刺激を受けるが、それと同じくらい私が楽しみにしているのが小さなブースの存在だ。一芸に秀でていると言おうか、エッジの立った新製品を発表しているところがある。このカミテリアブースもそのひとつだ。立体的に立ち上がる付せんや紙カバーのジョッターなど、紙をベースにあくなき挑戦に挑んでいるメーカーである。
今回も驚かせてくれた。「シュリット」というToDo管理ツールだ。手の平サイズの厚手のボードには横長の窓のような四角がいくつもくり抜かれている。そこには、半透明の紙がちょうど障子のようにピーンと張られている。この紙は昔懐かしいグラシン紙。古本のカバーなんかも使われているものだ。その半透明のところにやるべきToDoを1行ずつ書き込んでいく。たとえば、「牛乳を買う」といった具合に。そして、そのToDoが完了したら、ペン先で半透明の紙に穴を開け、跡形もなくビリビリと盛大に破ってしまう。障子を破っているような、罪悪感を覚えながら同時に心のどこかで爽快感も味わえるという、これまでにないToDoツールだ。(秋に発売予定。価格未定)
そして、これはジョッター用の紙。特に説明されなければ、ただのふつうの紙として使ってしまうところだろう。それくらいなんの変哲もない。紙を少しばかりたわませると、上の方に切りこみがあるのがわかる。ここが隠しポケットになっているのだ。基本はあくまでもジョッターとしてメモを書き、もしそれに関連するチケットなどの紙があれば、一緒にセットしておける。商品名は「Paccard」という。
■ 半透明の紙に色々な価値が
こちらも半透明の紙を使ったアイテム。ただ紙の種類は違って、日めくりカレンダーに使われているものだ。「純白紙」という名前の紙で、表裏性がはっきりとある。オモテはツルツルしていて、裏はザラザラしている。新日本カレンダーでは、この日めくりカレンダー用紙を活用した商品を次々に出している。その新作のひとつが小さな小さなメモブロック「365square」(320円+tax。2016年9月発売)。半透明の白い紙にうっすらと白い印刷がされている。水や月、雪、花といった古風な絵柄が光の加減でほのかに浮かび上がる。目を凝らさないと見えないくらいのはかなさだ。
同じ紙を使った便せん「365 letter 便せん」(A5 520円+tax 2016年9月発売)。便せんの下半分にだけほのかな色が印刷されていて、上にいくに従いだんだんと薄くなり半透明の白に同化していく。そのグラデーションが美しい。個人的にはグレーが気になった。先ほどのメモもそうだったが、半透明な紙にほのかに印刷されている。あらためて「はかなさ」というものもいいではないかと思ってしまった。
また、すでに販売されている半透明のノート「365notebook/Pro」に新しいタイプが加わっていた。既存のものは8種類のユニークな罫線下敷きが付属されており、それを半透明の紙面に敷くことで色々な罫線ノートとして使うというものだった。新しいタイプ「365notebook」は、380枚という大量の半透明紙が綴じられている。「365notebook/Pro」を使い終わり、2冊目に入った人はもう下敷きはいらないだろう、むしろ紙を増やした方がいいはずだと考え企画したそうだ。たしかにじゃんじゃん使える。ちなみに、下敷きは一枚だけ付属されていて、5mm方眼と7mm方眼になっている。A4サイズが2,180円+tax。A5サイズは1,280円+tax。いずれも2016年9月発売。
■ 異色の素材
「CORCHO CORCHO(コルチョコルチョ)」というブースの前で足をとめた。聞いたことのないブランド名だし、ブースには見たことのないメモ帳やノートが並んでいた。こうした初お披露目ブランドに出会えるのも展示会の魅力だ。日本ケミフェルトというコルクをはじめとする素材メーカーが展開しているブランドだという。ステーショナリー市場へは初進出となる。ブースには、薄くスライスされたコルクを表紙にしたメモパッドやノートがズラリとある。コルクならではの優しい手触りでそれでいてグリップ力もある。
スリムノート(無地と5mm方眼がある)各1,600円+tax
コルクのMEMO PAD A7(5mm方眼のみ) 350+tax
少し大きめの「+pluma」というノートは、表紙に付いているペンホルダーがユニークだった。表紙の右上にベルト状のヒモが出ている。そこにペンをさす。ベルトの端っこが表紙の裏側に出ているので、それとギュッと引っ張るとしっかりホールドされる。コルクのほどよいマットさによりペンはけっこうビシッと固定される。
+PLUMA(5mm方眼のみ) 2,400円+tax。
ブースにはコルク以外の素材を使ったアイテムもあった。これは同社の社名にもなっている「ケミフェルト」という機能素材。天然ゴムをベースにナイロン繊維が混ぜ合わされている。大型テレビの足ゴムによく使われているという。ゴムだけだと床に貼り付いてしまう。一方、フェルトだけだとすべりやすい。両社のいいとこどりをしたのが、この「ケミフェルト」。ほどよいグリップがありながら、完全に貼り付かず動かすこともできる。その素材をカバーに使ったメモカバーが展示されていた。触ってみると、細かな繊維のザラザラとした感触があり、たしかにゴムっぽいマットな質感もあわせ持っていた。ペラペラととてもうすく、少しスウェードに似ている印象がある。
MEMO PAD Paleta A7 540円+tax
MEMO PAD WEAR with MEMO PAD A7 1,800円+tax
CORCHOCORCHO
■ オールインワンな財布
一枚革で作られた実に機能的な財布、ベアハウスの「Fulltokeydell」。このスリムな中にお札、小銭、カードそしてカギまで収納できる。これはカギの出し方がいかしている。商品名のとおり「ふるとキー出る」のだ。財布をホールドしているゴムバンドをはずして財布を揺すると、下からキーホルダーが出てくる。しまう時は上のゴムバンドを引き上げればいい。カギは3〜4個ほどが付けられる。ちなみに最近の自動車の大きめのカギは付けられない。「Oリング」を使わず直接ゴムバンドにカギを縛るというシンプルなスタイル。「Oリング」も検討したそうだが、それを付けるとカギが斜めになって収納するときに引っかかってしまうのだそうだ。財布はズボンのポケットに入れていても、カギは鞄の中ということが多い。こうして財布からカギも出てきてくれれば、帰宅時にほんの数秒早く家の中に入れそうだ。
開くとタップリとした札入れ、そしてカード入れがある。カード入れはクリアフォルダーのように基本は2面開放だが、縦の下側だけは折り返しがあってカードが不意に出てこないように配慮されている。小銭は大胆にフタのない幅広ポケットのみ。これで小銭落ちたりしないのか心配だ。その点をアベさんにお聞きしてみると、財布を折りたたむ時に上手い具合に口が完全にふさがれるのだという。財布を開ける時の向きさえ間違えなければ、小銭は落ちてきたりしない。口が大きくあいているので小銭も探しやすそうだ。無駄がない実に考えられた財布である。
ベアハウス ThinkAism「Fulltokeydell」10,000円+tax。
一ヶ月ほど使ったアベさんの愛用品。少し汚れたホワイトレザーも素敵だ
■ アイレットの新たな可能性
「アイレット」という名は知らなくても、きっと一度は見たことがあると思う。主にヨーロッパのカタログなどで背に針金のわっか付いているものがある。それが「アイレット」。2つ付いていて、それを使うと穴を開けずに2穴ファイルに綴じることができる。基本用途はこうしたファイリングに使われている。ウキマさんのブースではこの「アイレット」というものの新たな可能性を探る面白いアイテムがいくつも展示されていた。これらは「アイレット」をテーマにデザイナー自由に発想してもらったものだという。手帳の表紙をホールドするゴムバンドの留め具として使ったものや「アイレット」をシール状にして冊子の背にペタリと貼って綴じられるようにしたものなどがあった。「アイレット」を「貼ると」色んなも形になるという思いを込めて、これらのアイテムを「hal+(ハルト)」というブランドで今後商品化を進めていくことを考えているそうだ。
カードに貼ってこうしてヒモで吊せば飾りにもなる
■ 循環型ノート
素材の良さを引き出すことに長けたMUCUを運営するK- DESIGN WORKS。今回は全く新しいブランド「FLEXNOTE」を発表していた。このアイテムで一番実現したかったのは、「FSC認証紙」を使用することだったという。地球環境や生産地域の社会に配慮して適切に管理された森林の木材によって作られた紙を「FSC認証紙」という。今のことだけを考えて木材を伐採して紙を作るのではなく、その後の森やその周辺の環境も考えて、たとえば伐採した後に植林などをして森を取り巻く環境を末永く守っていくというものだ。「FLEXNOTE」の中紙には「FSC認証紙」の「金菱(きんびし)」という紙が使われている。白色度が高い美しい紙だ。環境のことも考え、今回はあえてインクは使わず、無地紙面に。その代わりに5mm方眼、7mm横罫線が表裏に印刷された下敷きを付属。それを敷いて書けるようにもしている。
ノートの綴じ具は、ひとつひとつ独立している。紙にはT型の切りこみがあり、そこに綴じ具がセットされているので、紙を破らずに自由に足したり、取り出したりができる。ベルギーのノートメーカーATOMAと基本同じ方式だ。K- DESIGN WORKSでは、これを「T-BIND SYSTEM」と名付けた。綴じ具はアルミの削りだし。ここらへんの素材の使い方はMUCUらしさが垣間見れて楽しい。森林の循環により生み出された紙を使い、ノート本体においても中紙が使っては外され、そして足されていくという循環スタイルになっている。今後はユーザーの声を聞きながら、リフィルや表紙素材のバリエーションなど、充実を図っていく予定とのこと。まずは、「START KIT」というキット製品での販売を2016年11月から始めるそうだ。「FLEXNOTE」START KIT 2,800円+tax。
■ 浸透印が作れるマシーン
「シャイニー」ブランドの様々なスタンプを扱うスタンテックブース。今回はちょっと趣向の違うものが発表されていた。スタンプ台いらずにポンポンとスタンプできる浸透印。それが作れるマシーンだ。作り方は意外と簡単でトレーシングペーパーで版下を作り、それと真新しい浸透印をセットしてスイッチを入れる。これで印面が作れるという。個人が使うというよりもショップや企業の総務部が使うタイプの商品だ。必要なハンコがスピーディに作れるという時代になっているようだ。
シャイニー S-2300フラッシュマシーン 近日発売予定
後編では、LIHIT LAB.、カール事務器、ゼブラ、マックスブースの新作を紹介します。
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