文具で楽しいひととき
レイメイ藤井
ダ・ヴィンチ リフィル
手帳や万年筆ユーザーの間では、すっかりお馴染みの「トモエリバー」。巴川製紙所が作り出している紙だ。文具ユーザー界隈で紙をこうして名前で呼ぶようになったひとつのきっかけの紙と言ってもいいと思う。薄いのにインクの裏抜けがしにくく、特に万年筆ユーザーの間で人気が高い。
レイメイ藤井が展開するシステム手帳ブランド「ダ・ヴィンチ」。そのレイメイ藤井で1990年から「トモエリバー」はシステム手帳リフィルとして採用されている。1990年は私自身、会社勤めをし始めた年なので印象深い。当時、会社の中をグルリと見回してもパソコンはまだなく、ワープロという文書作成をするものが部署内に1〜2台あった程度だった。今考えるとよくやっていたと我ながら思うが、当時はアナログツールを駆使して仕事をしていた、そんな時代だった。そのためシステム手帳は今よりもたくさんの情報を入れるという役割を担っていた。スケジュールやノートはもちろんのこと、名刺ホルダー、アドレス帳、さらには地図のリフィルというのもあった。今は、スマホで難なく管理しているものが、当時はシステム手帳に綴じ込まれていた。限られたシステム手帳空間の中で、よりたくさんのリフィル、つまり情報を入れるために「トモエリバー」が採用されたのだ。
今回は、その「トモエリバー」について色々な角度からご紹介していこうと思う。
■「トモエリバー」の歴史
「トモエリバー」は巴川製紙所によって1981年に作り出され、その翌年に市場に登場した。実は、はじめは手帳用紙として作られた紙ではなかった。では何のための紙だったのか。それは、輸出用の聖書用紙だったという。とてもページ数が多い聖書。それをできるだけ薄く軽くしていきたいということで、薄く両面印刷がしっかりとできるものが求められていたのだろう。そうしたニーズのもと、「トモエリバー」は生まれたのだった。
軽い紙ということで、国内でも郵送料金が抑えられることから企業の冊子など、商業印刷を中心に使われていった。その後、手帳の紙にも使えないだろうかと開発が進められ、1984年に手帳用紙の「トモエリバー」が誕生した。その頃、手帳は店頭で買うものというよりかは、得意先から配られるという位置づけが中心だった。そうした時代ではあったが、巴川製紙所では今後手帳は「より高級なものに」そして「カラフルに」なるだろうと予測をしていた。当時、巴川製紙所では単に予測するだけにとどまらず、実行に移していた。カラーの「トモエリバー」も作っていたのだ。ブルー、ピンク、スカイブルー、グレーというカラーバリエーション。実際、その予想通り手帳は現在、高級なものも登場しカラフルにもなっている。残念ながら時代の先を行きすぎていたようだ。カラーの「トモエリバー」は、当時あまり需要がなく全て廃番になってしまった。巴川製紙所の倉庫には、そのうちスカイブルーとグレーだけが数枚残っていたという。実物を手にさせてもらったが、紛れもなくあの「トモエリバー」だった。このスカイブルーの「トモエリバー」に万年筆のブルーインクで書いたら、さぞかし気持ちいいだろうと思った。ぜひとも復刻してもらいたいものだ。
そして、先ほども触れたように1990年にレイメイ藤井でシステム手帳リフィルに「トモエリバー」が採用された。ちなみに、その頃は今のように「トモエリバー」という名前の認知度はユーザーの間ではなかった。そのためか、つい数年前までリフィルのパッケージに「トモエリバー」と打ち出していなかったほどだった。
■「トモエリバー」ならではのこだわり
手帳用紙としてよく使われている「トモエリバー」は、紙重量52g/㎡。一般的なコピー用紙が65g/㎡程度。とても薄いのにインクが裏抜けしづらい特長がある。その点が「トモエリバー」の人気のひとつだ。うすいのにインクが裏抜けしにくいのは一体どうしてなのだろうか。
原料は、パルプ(針葉樹・広葉樹をミックス)と水と薬剤という他の紙と実はなんら変わらない。製造工程において手帳用紙ではまず行われない「トモエリバー」ならではのものがある。それが「塗工」というものだ。紙の表面(両面)にうすいコーティングのようなものが行われている。巴川製紙所の方によると、「お化粧」と例えて説明してくださった。ファンデーションのようなものらしい。具体的にどのように塗っているかはさすがに企業秘密だそうだが、少しだけ教えてくれた。細かい顔料の粒がビッシリと敷き詰められているのだという。
「トモエリバー」を書いた時に少し書き応えを感じるのは、この「塗工」によるものだという。そして、これは個人的に感じていることだが、「トモエリバー」の紙を触るとわずかに湿り気みたいなものがあるように思う。どうやらこれも「塗工」によるものなのだろう。
■ ダ・ヴィンチ トモエリバー リフィル
まず、手帳用紙の代表格である、52g/㎡のリフィルがある。これぞ「トモエリバー」という薄さ。それでいて万年筆でゴシゴシと塗るようにしても裏抜けはしにくい。それよりも厚みのある64g/㎡というトモエリバーリフィルもある。システム手帳はリング穴を通して使うので、より強度があるものも作ろうとうことで、巴川製紙所とレイメイ藤井で共同開発したものだ。この64g/㎡は、ダ’ヴィンチ リフィルだけのオリジナル。
左が52g/㎡のトモエリバー、右が64g/㎡。同じ枚数でもこれくらいの違いがある。
そして、2020年に新たなタイプとして68g/㎡が登場した。さらにコシがある「トモエリバー」リフィルだ。万年筆でそれぞれのタイプを書き比べてみた。いずれの厚みでも、「トモエリバー」らしい書き応えが感じられる。とにかくシステム手帳にたくさんの枚数を綴じ込みたい、コシを味わいたい、または、一冊のシステム手帳に色々な厚みを綴じ込んでみたいなど、「トモエリバー」リフィルを色々なスタイルで楽しめる。
このように、「トモエリバー」と一口に言っても色々な紙の厚さがある。実は、一番薄い「トモエリバー」に25g/㎡というものがある。これは手帳用紙ではなく、保険の約款冊子などに使われるものだという。54g/㎡の半分以下ということで、フワフワとした質感。触った時のあの独特な湿り気のような感触もある。試しに万年筆で書いてみた。「トモエリバー」らしさがある。裏返すとすっかり透けて見えるが、インクはさすがに一部は裏抜けしている所はわずかにあるが、よくがんばって持ちこたえている。これはこれで軽やかで楽しい書き味だ。なお、この25g/㎡は一般には市販されておらず、あくまでも商業印刷だけで流通しているものだ。
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1984年に手帳用紙としての「トモエリバー」が誕生して、35年以上が経っている。その間、ペンのインクは色々と進化を遂げている。しかし、意外なことにも「トモエリバー」はとりたててマイナーチェンジなどは行っていないという。製造レシピは当初と変わらないそうだ。開発当初からすでに完成された紙とも言えるのではないだろうか。
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